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27話 猫耳パーティと新しいメンバーと王女様

 翌日、ミカ達の行動は早かった。

 すぐに朝一番で、バレンガルド行きの竜車へと乗り込んだ青空の尻尾。 

 適切な薬水の接種と、シイカの看病により、比較的、腹痛の症状が回復したルシュカとアゼルに、ミカは腹痛などを止める薬を投与しても問題ないと判断。

 弱めの薬を二人に投与したため、時折腹痛に襲われるものの、常時トイレに駆け込まなくて済むようになった。

 それでも時折腹痛に襲われる二人のために竜車を止めたものの、バレンガルドの到着が極端に遅くなることは無かった。

 幸いにも、それまでの間、リーナは暴走する気配なども無く、約二日後、無事にバレンガルド近郊へと到着した。すると。


「おーい! そこの竜車、止まれー!」


 バレンガルドまでもう少しというところで、竜車が止められた。

 見れば、止めた人物は王女直属の親衛隊を表すアーマーを身に着けている。

 その親衛隊の兵士らしき者は、竜車に乗っていたミカ達に尋ねた。


「私は王女直属の親衛隊、通称プリンセスナイツの兵卒です! 皆さんが、青空の尻尾で間違いはないでしょうか!」


 敬礼をされつつ尋ねられたミカは、その兵士に答える。


「ああ、俺たちが青空の尻尾だ」

「それは幸いでありました。王女より、皆さまをこの付近の監視塔へご案内するよう、王女様から仰せつかっております。では、早速案内をさせていただきます」

「なぜ俺たちを監視塔へ?」

「王女様曰く、バレンガルド内で話すよりも、こちらの方が安全なのではとおっしゃっていました」


 言われるがままバレンガルド近郊に建てられた監視塔へと向かった青空の尻尾。

 5階建てほどの大きさの監視塔へとたどり着いた面々は、そのまま中へと通された。

 中で出迎えたのは。


「おかえりなさい、ダルフィアはどうだったかしら?」

「アンジェラ、よく俺たちが帰ってくるのわかったな」

「ダルフィアの闇オークションに潜入させていた者から連絡があったのよ。リテール族のパーティが、カオスグリモアと、そして狼耳のリテール族を連れて帰ったとね。たぶん、私に相談があるんでしょ?」


 すると、ミカはこくりと頷いた。


「わかったわ。ここまで大人数だと話がややこしくなりそうだし、そうね……ミカと、ショーティアさん、そしてその狼耳のリテール族の子だけここに残って、あとは外で待っててくれるかしら」

「ウチらは外か。いいぜ。ウチは難しい話得意じゃねーし、ここはミカとショーティアに任せるぜ」


 ミカとショーティア、そしてリーナを除いた青空の尻尾のメンバーが外へ出る。そしてアンジェラは周囲の兵士たちにも外に出るように促し、室内にはミカ、ショーティア、リーナ、そしてアンジェラだけが残った。

 最初に話を切り出したのはアンジェラだ。


「さて、早速話をしたいのだけれど、まずは感謝するわ」

「感謝? なんのことだ」

「リマに人身売買をやめさせたじゃない。闇オークションとブラックマーケットの停止に一歩前進よ。ずっと私たちが手こずっていたことをやってのけたわね。賞賛ものよ」

「にしても、なぜそのことを知ってるんっだ?」

「さっき言ったじゃない。闇オークションに潜入させてる者が居るのよ。本当に偶然だったのだけれど、偶然リマの部屋を通ったらしくて、ミカとリマの会話を一部聞いたらしいわ」


 ミカを賞賛するアンジェラ。一方で、アンジェラは今度はリーナの姿を見た。


「ただね……その狼耳のリテール族の情報を聞いて、色々違和感を感じたのよ。潜入させていた者が調べたのだけれど、その狼耳の子は、川の側で気絶しているのを拾われたとか。闇オークションにその子を売りつけた者の仲間……同じ日に捕まった、ヒュートックが吐いたらしいわ。そこで、疑問に思ったのよ」


 アンジェラが、自分の見解を三人に述べる。


「ヴェネシアート近郊で発生した人狼襲撃事件、そしてその子が拾われたのが、襲撃事件があった場所から遠くない場所に流れる川の川下。魔法傷がある状態で発見されたというわ。そして私自身、モンスターの違法な取引や研究を行っている組織をいくつかぶっつぶして、その中に『人をモンスターに変える』研究をしていたのを思い出したわ。そしてミカが一緒にこちらに連れてきた。だから、なんだか嫌な予感がして、バレンガルドじゃなくて、この王都が管理してる監視塔に呼んだのよ」


 そして、アンジェラはリーナに尋ねた。


「私の直観が外れてほしいのだけれど……失礼を承知で聞くわ。ヴェネシアートの近郊で暴れた人狼……あれはあなたでないかしら?」

「……驚きね。さすが一国の王女をしているわけあるわね。すさまじい推理力と直観力じゃない」


 リーナが答えた。

 自分の直観が当たってしまったアンジェラは、室内にあった椅子に座りこみ、頭を抱えた。


「はぁ……なんで私の嫌な直観って当たるのかしら。それで、詳しい話を聞かせてもらえるかしら」

「ああ、それじゃ、俺から話すよ」


 ミカが、ダルフィアであったことのあらましを、アンジェラに伝えた。

 するとアンジェラはミカや青空の尻尾の活躍をたたえながら、リーナの話になると頭を抱えた。


「厄介ね。今まで潰した組織では人体実験には結局失敗していた。けれど、リーナさん、あなたは今まで見たものと比べれば、成功と言ってもいいわ。今まで見たものは、一時的にモンスターに変身しても、人間としての意識を失ううえ、普通のモンスターよりも弱体化していたのがほとんど。それこそ、ドラゴンの眷属化の呪いのようにね」

 

 実際、リーナは変身中に、人間としての意識はほとんど失っていた。そう、ほとんどだ。


「わずかでも、人狼の時の記憶があり、なおかつ体は小さくなって獣の耳が生えているけれど、人間系種族の姿に戻れている。なにより、その強さは」

 

 アンジェラがちらりとミカの方を見る。実際に人狼と化したリーナと戦ったミカに、意見を求めているようだ。

 それに対し、ミカはこう答えた。


「Sランク。いや、S+ランクの強さだった」

「そう、並の冒険者よりも強い。リーナさんは元からSランクだったけれど、それがS+ランクになった。S+は、元々Sランクでも突出して強いモンスターが時折存在したから急きょ作られたランクよ。SとS+ではかなりの差があるわ。それだけ強いモンスターになれるのだから……」


 そこで、何かに気づいたショーティアが、アンジェラに聞いた。


「人をモンスターにする研究。何故そんなことを行うのか疑問でしたが……召喚士というクラスがあります。モンスターを異界より召喚し、使役する者です。かつて、S+ランク級のモンスターを使役した召喚士が、その強さで建国したとも。ただし召喚士が従えられるのは1体から3体ほど。もし人の意思で操れるS+級のモンスターを何十体も従えましたら……」

「あなたの想像の通りよ。それこそ、一国を転覆させるほどの力になるわ。だから色々な国や組織が裏で研究してるってわけ。より強い、使役できるモンスターを生み出そうとね。その点、人間の意識が残せれば、あとは兵士とかをモンスターにすれば解決なのよ」

 

 アンジェラはこれまでに無いほど、頭を抱えて唸っていた。アンジェラはさらにリーナに尋ねる。


「それにしても、リーナさんに人体実験を施した者……リーナさんの話を聞くに、かなりの財力と権力があると見ていいわ。厄介ね。もう一度、リーナさんが捕まっていたときに出会った男の特徴を聞かせてもらえるかしら」


 リーナが言われ、その特徴を話す。少しキザで、上から目線の喋り方だったこと。敬語で話していたこと。それを聞いて、アンジェラが再度頭を抱えた。


「検討もつかないわね……顔は見てないのかしら?」

「見てないわ。薄暗い牢だったから、顔も見えなかったのよ」

「……そちらの調査は私達にまかせて頂戴。差し当たっては、リーナさんをどうするかだけれど」


 アンジェラは「うん、それがいいわ」と呟くと。


「ミカ達の提案を飲むわ。確かにミカはこの国でも極めて数の少ない、S+ランク級の冒険者。万が一のことを考えても、ミカが居たほうがいいわ」

「俺がS+か……過大評価な気もするが、万が一の時は全力を出す」


 謙遜するミカに、アンジェラがやれやれと言いたけな表情を浮かべる。


「ともかく、さらにミカは様々な知識に精通しているわ。リーナさんの事を調べてもらうにも適任ね。ミカでわからなかったら、バレンガルドの研究機関にお願いすることになるけれど……ミカでダメならどうしようもなさそうとも思うわね」

 

 リーナの調査と、万が一の時の対応、それにミカは確かに適任だった。


「それにあなたたちの言う通り、ヴェネシアートには幸運にもSランク冒険者と、属国内でも随一の戦力を持つ海軍が居る。例え人の居ない森の中、孤島に連れて行ったとしても、変身したら森も一瞬で走り抜けるだろうし、最悪海も泳いで越えるかもわからないわ。それなら、最初から屈強な冒険者の多いところ、なおかつ町から離れたあなたたちのパーティハウスは悪い選択肢ではないわ」

「では王女様、わたくしたちのパーティハウスにリーナさんを」

「ええ。賛成よ。ただしあなたたちの責任は重大。私としても、最善手を打つわ」


 そのアンジェラの反応に、ミカが感謝を述べる。


「ありがとうアンジェラ」

「感謝したいのはこっちの方よ。不当な追放を受けた身だっていうのに、暴走した人狼、リーナさんを止め、ダルフィアでは人身売買をやめさせ、さらにはリーナさんを自ら治そうとしている」

「俺だけの力じゃない。パーティ全員の協力あってこそだ」

「なら、全部終わったら、青空の尻尾に勲章か称号あげないと王女の名が廃るわね」

「あらあら、わたくしたちは何も」


 その時、ミカの隣に居たリーナがアンジェラの側に向かうと、胸に手を当ててお辞儀をした。


「あたしは北欧の帝国出身だから、こっちの高尚な礼儀はよくしらないけれど……このポーズが感謝を表すのを知っているわ。ありがとう」

「気にしないで。そもそも私達の国で、そんな人体実験が行われているのがおかしいのよ。王女として許せない。絶対にリーナさんの体をそうした奴を捕まえてみせるわ」


 すると、アンジェラは椅子から立ち上がる。


「とも決まれば早速ヴェネシアートへ出発よ。私から直接、海軍提督のモニカに話をつけるわ。みんな、ついて来……」


 とアンジェラが意気込んだところで、その腹がグゥと鳴った。


「ねぇミカ」

「なんだアンジェラ」

「……料理、何か作ってくれない?」


 そう言ってお腹を押さえるアンジェラ。その腹からは、次第に『ドドドドド』という空腹を知らせる音が鳴り始めていた。

申し訳ありません! 風邪ひいてて更新が遅れました!

それと、今の章はあと10話前後で終わる予定です!

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