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25話 一方その頃、猫耳ソーサラーの元パーティリーダー その2

 ライアスの姿は、森の中にあった。

 そこはダルフィアから、バレンガルド領方面にある森の中だ。森の中を駈けていたライアスは、その顔に疲労を見せ、倒れこんだ。


「クソッ……クソッ、クソッ!!!!」

 

 いつもの口調はどこへやら。無意味に地面に拳を叩きつける。何度も、何度も。


「下等種族が……この俺を……私を! 馬鹿にしやがって! すべて、あの下等種族どもが! すべて、あいつらのせいだ!」


 森の中に居る理由。それはダルフィアから逃げてきたためだ。

 ヒュートックの仲間たちが捕まった。ならば、自分がヒュートックを名乗っている事がばれるだろう。

 今までは下等種族たちに教育するときは、マスクを身に着け顔を見せないか、もしくは精神的にも身体的にもボロボロに破壊し、自分がヒュートックだとバレないようにしていた。

 だが、今回は違う。仲間が捕まり、そして襲った下等生物に反撃を受け、逃げられてしまった。正確には自分が逃げたのだが、ライアスは『逃がした』と心の中で言い換えていた。

 事実、ミカ達を武器屋で襲い、辛くも逃げ出したライアスは、頃合いを見て闇オークション会場へと向かった際、狼のリテール族を売った金を受け取れなかった。

 オークションを管理者から、自分がヒュートックである事を理由に追い返されてしまった。

 さらに、町の警備隊が自分を探していると聞いたライアスは、ダルフィアから逃げ出した。


「クソッ、どうすればいい。ヴェネシアートに置いてきたパーティの奴らは、私がヒュートックだってもう知ってるのか!? ずっと隠してきたが、クソ……いや、まだのはずだ。追放申請をさせるのだけは避けないと。俺の冒険者人生が終わる。あいつらを全員殺すか……? いや、親しいヒュートックの仲間は捕まった。他のヒュートックは、私がヒュートックだとバレているのなら助けには来ない。クソが……どいつもこいつも私を……」


 右手の親指の爪をガリガリと噛み、一人呟き続ける。


「父上に頼み込むか……? いや、私がヒュートックとバレたことが父上の耳に入ったら、勘当されるに違いない。どうすれば……」


 考え付く全ての道は閉ざされていた。自分がヒュートックという情報は、すぐにバレンガルド、そしてその属国へすぐ行きわたるだろう。

 

「なぜ王国はヒュートックを認めない……下等種族を崇高な上位種族が従えるのは自然の道理であるはずだ……なぜ、王国の上層部はこうも愚かなんだ……そうだ、ヒュートックは自然の道理に従った正しい者たちだ。私は悪くない、決して悪くない……」


 一人でぶつぶつと言い訳を続けるライアス。明らかにライアスは追い詰められていた。

 そんなライアスの側に、もう一つの気配が。


「お困りですか?」

「っ、誰だ!?」


 ライアスが振り返る。そこに立っていたのは、一人の男性だった。

 それは眼鏡をかけた黒髪の青年だ。身に着けているのは、貴族を思わせる紳士的なタキシードを身に着けている。


「なんだお前は……バレンガルドの貴族か!? なんで貴族がここに、それも一人で!?」

「いえ、実は所用があって闇オークションへ来ていたのですが、求めていた商品が、ヒュートックが原因とかで出品取りやめされたのですよ。聞けば、既に商品のリテール族は解放されたとか。穏便に金で買うつもりでしたが、少々手荒なことをしたほうが手っ取り早かったかもしれませんね」

「何を言ってるんだお前は……突然現れて、何がしたいんだ!?」


 すると、その青年は「ふっ」と怪しい笑みを浮かべる。


「しかし、元々あれは失敗作。出来れば取り戻したいとは考えていましたが、重要度は低いと言ったところでしょうか。この際諦めましょう。忙しい身の上であることですし。しかし」


 青年が懐から、何か小さな何かを取り出した。

 それは動物の牙のようなもの。モンスターの牙だろうか。その青年の小指ほどの大きさがある、比較的大きな牙だ。


「あなた、さらに上位の種族になってみませんか?」

「お、お前、何を言って……」

「彼女、リーナから取ったデータから、より安定化させたものです。これを体に打ち込めば、あなたはヒューマンを越えた、至高の種族になれる」

「至高の……種族……」

「ええ、並のSランク冒険者なんて目じゃないほどの、ね」


 ライアスがその青年に手を伸ばす。そして青年の持った牙に触れた瞬間。


「受け取る意思を見せましたね」

「え……ぐあ!?」


 瞬間、青年はライアスの腹に牙を打ち込んだ。鋭い牙は、青年の手で直接ライアスの体に押し込まれてゆく。


「あなたに差し上げましょう。良いデータを取らせてくださいね」


 倒れ、気を失うライアス。それを見て、青年はニヤリと笑った。


「さて、戯れはこのくらいにして、王子らしい職務に戻るとしましょう。大空洞探索の時は近い。その時こそ、預言書に従い、我らバレンガルドが、真に世界の頂点に立つときとなるでしょう」


 そう呟いた青年、バレンガルド第一王子、ブライアンは、闇夜の森の中へと消えていった。

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