24話 猫耳パーティとガンナーの少女
「殺す? リーナ、何冗談を言って」
突然のリーナの言葉に、ミカは冗談だと捉えた。しかし、リーナは冗談を言っている声色ではない。
「……理由を聞かせてくるか? 何故、自分を殺せなんて」
「単純よ。あたしが化け物だから」
「化け物? 何言ってるんだ」
すると、リーナは自分の頭の上に生えた狼耳に触れた。
「ミカッ、あんたがリテール族になった理由は?」
「俺か? 実は、ドラゴンから眷属化の呪いを受けてしまってな。幸い呪いが変な作用を起こしたのか、ドラゴンの眷属にはならず、この姿になった」
「へぇ、ミカもやらかすことがあるのね」
「ま、今となってはこの姿で別のパーティに入って、色々楽しく過ごしているよ」
「……良かったわね。紅蓮の閃光なんてパーティ、抜けて正解よ」
するとリーナは俯き、自分の事を話始めた。
「あたしがこの姿になったは、ミカのような呪いじゃない。あたしがこの体になったのは、人体実験をされたからなのよ」
「人体実験だって!?」
「ええ。変な施設に連れこまれて、色々されたわ。変な薬を飲まされたり、拘束されたまま、変な魔法陣の上に置かされたり。それを何度も繰り返されて、ある日目が覚めたら、この姿になっていたのよ」
リーナは諦め、悟ったかのような笑みを浮かべる。
「施設のお偉いさんらしき男が、『使役できる最恐のモンスター』を作るとかなんとか言ってたわね。あたしは狼のモンスターと混ぜ合わされたみたい。だから正確には、リテール族じゃないのよ」
「そんなこと……あり得るのか?」
「呪いとはいえ、30手前だった男が、半ば幼女に近いリテール族になってるほうが驚きよ」
「はは……リーナが言うなら、マジなんだろう。で、なんで殺されたいんだ」
リーナが自分の拳をぎゅっと握りしめた。
「最恐のモンスター。そんなものにされるって聞いて、あたしは何度も死のうとしたわ。舌を噛み切って、爪で自分の首を掻き切って、壁に頭を打ち付けて。でも、死ななかった。凄い早さで傷が治るのよ、この体。もう普通じゃないわ。それに」
「それに……?」
「記憶が曖昧だけど、化け物に変身したのよ。あたし」
「変身したって、どういうことだ」
「文字通りよ。あの日、無理やり変なものを飲まされて、突然体が熱くなり始めたわ。気づけば、体中に獣のような毛が生えて、意識も視界もぼんやりして……全てを壊したくなったの。あたしが捕まってた研究所を何もかも壊して、森の中を駈けて……あれ?」
リーナが再度、ミカの顔を見て首を傾げた。
「ミカッ……あんた、一度会ってない? その姿のときに」
「俺は記憶無いが」
「ぼんやりとした記憶の中に、あるのよ。今のあんたにそっくりな、金髪で赤い目のリテール族の姿が。周りからミカッ、ミカッと呼ばれていて、あたしもミカッ、と呼んだような……」
ミカはハッとした。今は首輪の影響で髪色が変化しているが、いつもは金髪のリテール族。
狼のモンスター。そしてミカと呼んだこと。ミカは出会っていた。リーナに。
「確かに今はこの首輪のせいでこの髪色だが、元は金髪だ。あの時の人狼、リーナだったのか!?」
「……やっぱり会ってたのね。そして、傷つけた記憶もある」
リーナが頭を下げる。
「ごめんなさい」
「いや、謝るな。悪いのは、リーナをそんな体にした奴だ」
「……化け物に変身したあと、記憶がはっきりしているのは、あのヒュートックとかいう赤マスク共に捕まったあとね。あたしは商品だとかで犯されたりはしなかったけれど、人間扱いはされなかったわ。でも」
リーナが自身の両手を見る。そこには、傷一つ無い。
「今でこそ治っているけれど、ミカ、記憶の中で、あたしはあんたに撃退された。そしてそのとき付けられた傷は、すぐには治らなかったわ。だから、あんたにならあたしを殺せる」
「冗談じゃない」
自分を殺せと言ったリーナに、ミカはすぐに反論した。
「いつもの強気なガンナー、リーナはどうした? それに、俺は元Sランクパーティ、いや、実質紅蓮の閃光というSランクに満たない冒険者たちを、Sランクに押し上げた冒険者だぞ? 俺がその体をなんとかしてやる。だから、一緒に行こう」
そう言い放ったミカを、リーナは驚いたような表情で見た。
「ミカッ、あんた変わったわね」
「そりゃ、男から女の子になっちまって……」
「姿じゃないわ。中身よ中身。あんたが強気で手を差し伸べるだなんて、紅蓮の閃光に居たときとは大違いじゃない」
「ん、そうか?」
すると、少し考え込んだリーナは。
「……いざというとき、あんたならあたしを殺せるわよね?」
「殺しはしない。俺のクラスを忘れてないか? サポートヒーラーの学術士だぞ。リーナがまた変身しちまったら、俺がバリアで閉じ込めて抑え込んでやるよ」
「あたし、ぼんやりとミカッのバリアを突破した覚えがあるんだけれど」
「持ってた武器が問題でな。だが、それも今日解決する予定だ」
「……わかったわ。あんたを信じる」
「よし、ならそれは必要無いな」
ミカは牢の扉を開き中に入ると、リーナの鎖を全て外した。
身軽になったリーナは、小さくピョンとジャンプする。
「変身してる時は力がみなぎっていたのだけれど、この姿のときは、見た目相応って感じね」
「にしてもリーナ、小さくなったな」
「あんたに言われたくないわ」
「っと、そう言えばまだ、俺も首輪を外してなかったな。外しておくか」
すると、ミカが笑いながら首輪を外した。そして牢の外に出て、リーナに先に進むよう促す。
「まずは王都でアンジェラの意見でも聞いてみるか。その前に、まずは俺のパーティメンバーと合流する」
「アンジェラ? 聞いたことがある名前ね。ところで、あんたの今のパーティの名前は?」
見れば、首輪を外したミカの髪色は、金色に戻っている。
リーナに尋ねられたミカは、笑顔で答えた。
「青空の尻尾だ」
そう言ったミカの背後には、金色の猫の尻尾が揺れていた。
〇〇〇
「あらあら、あらあらあら」
「ミカ、その子は……」
ミカが一旦オークション会場の外に出ると、そこにはショーティアとクロの姿があった。
そんな二人にミカが尋ねる。
「あれ、二人ともどうして外に」
「ミカさんのカオスグリモアを競り落としたからですわ。どうも狼耳の少女を競り落とそうと、皆さんお金をセーブしていましたので……価格は一千万ギニーほど。王女様のお金に手を付けずに済みましたわ」
見れば、ショーティアの手には、紙で包まれた書物らしきものが握られている。
「随分安く買えたな、良かった。ありがとな、競り落としといてくれて」
「……で、安くなった原因の女の子がどうしてここに居るんだい?」
クロが尋ねる。ミカの隣には、ボロ着を身に纏った狼耳の少女の姿が。その両手足に、枷は付けられていない。
おそらく闇オークション会場では、目玉という少女が出ないことでブーイングが起こっていることだろう。しかし、この場に居る四人とって、それは関係ないことだ。
「ああ、二人に紹介するよ。元紅蓮の閃光のメンバー。当時、唯一俺にまともに接してくれていた」
「リーナよ。ガンナーをしているわ。よろしくね」
そんな発言を聞いて、さらに二人は困惑する。
「十歳くらいの女の子にしか見えないんだけど」
「あなた、クロと言ったかしら? こう見えてあたし、20の半ばよ」
「あらあら、もしかしてミカさんと同じように呪いに?」
「そのあたりを説明しようとすると長くなる。一旦宿に戻ろうか。そろそろアゼル達の腹も落ち着いてるだろ」
「そうだね。そろそろ戻るとしよう」
素直にミカの意見を聞いて、宿へ戻ろうと歩き始める二人。
そんな猫耳二人の姿を見たリーナは、ミカに言った。
「ミカッ」
「なんだ?」
「信頼されてるわね」
「……かもな」
「まんざらでもなさそうね。あんたのそんな表情が見れて、あたしは嬉しいわ」
そう言いつつ、リーナは可愛らしい笑みを浮かべて言った。
「さあ、早く行きましょう。あんたにそんな表情をさせる、他のメンバーにも会ってみたいわ」




