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23話 サポートヒーラーとガンナーの再会

「ミルドレッド?」

「そうじゃ。ミルドレッド・カルヴァトス。元Sランクの冒険者じゃ」


 知り合い、どころか本人である。

 しかし、ミカは名乗らなかった。何せ、今自分はリテール族の姿だ。

 相手は出会ったばかり。相手の目的次第では、正体を明かせば青空の尻尾に迷惑がかかる。

 相手が何を目的にミルドレッドを探しているかわからない以上、ミカは名乗る気が無かった。

 

(……今この黒髪姿なのはむしろ都合がいいな)


 相手が何を目的にミルドレッドと知り合いかを尋ねたのを、今の姿なら聞きやすい。何か相手に悪意があったとして、自分がミルドレッドの知り合いと語ったところで首輪を外して元の金髪姿に戻れば問題ない。


(できるだけ、金髪の時と今の俺は別人だと思わせよう)


 外見は問題ない。となれば、変えなければいけないのはあと一つ。


「ええ、私はミルドレッドと知り合いよ」


 口調のみだ。幸い、リマとは少ししか話していない。口調を変えても、まず怪しまれないだろう。

 

(少し恥ずかしいが、これで俺の痕跡は一切ない)


 そして、ミカの発言を聞いたリマは、さらに質問を続けた。


「瞳の色が同じ。血縁者かえ?」

「一応、そうなるわね」


 血縁者どころか本人である。


「それで、私とミルドレッドの関係を何故尋ねたの?」

「……探しておったのじゃよ、ミルドレッドを」


 すると、リマは手にしたキセルに口をつけたあと、フゥと煙を吐いた。


「彼には、詫びねばならんからの」

「詫びる? 何を詫びるの?」

「……血縁者というお主にならば話て良いじゃろう。少し語りに付き合ってもらうとするかの」


 そう言うと、リマは過去の事を話始めた。


「あれは十年と少し前。わちがまだ、9歳だったころじゃ」

 

 ミカは少し驚いた。リマは独特な雰囲気を漂わせている、少なくとも二十代後半の大人に見えるが、まだ20前後のようだった。


「わちの一族は、代々豪商の一族じゃ。ブラックマーケットに闇オークション。敵を作りやすい商売もしとっての。ゆえに、曲者どもに狙われることがあっての。わちはあの時誘拐され、悪党どもの根城へ連れされれたのじゃ。バレンガルド領の小さな村にある、攻略済みのダンジョンを根城にしとっての。悪党どもは父上に身代金を要求しおった。捕まって数日の間は何もされんかったのじゃが、暇を持て余した悪党どもに、襲われそうになっての」


 リマが表情を曇らせて俯く。


「あれほど、恐怖を感じた瞬間は記憶に無い。じゃが、寸での所でわちは助けられたのじゃ。偶然近くを通りかかった冒険者がの。やつが、ミルドレッドじゃった」


 ミカは思い出した。確かにそんなことがあった。

 まだ紅蓮の閃光に合流する前のときだ。偶然通りかかったダンジョン。そこは踏破済みのダンジョンであったが、人の新鮮な足跡がいくつもダンジョンの前にあり、頻繁に人が出入りしていることが見て取れた。

 怪しさを感じたミカはダンジョンへと足を踏み入れ、黒髪の女の子を襲おうとしている四人の男たちを見つけた。

 そして男たちを魔法で倒し、女の子と共にダンジョンの外へと脱出したのも覚えている。

 しかし、その先は、ミカとしてもあまり思い出したくない過去であった。


「わちはミルドレッドに助けられたのじゃ。ミルドレッドはすぐに、側の町までわちを連れ、バレンガルドの治安隊の建物へ駆け込んだのじゃ」


 本来ならばミカが治安隊にリマを頼み、それで万事解決のはずである。

 しかし、ミカの記憶では、そうではなかった。


「……あの時のわちは、考えてしもうたのじゃ。わちは父上から褒められることを求めておった。ゆえに、助けられたのではなく、自ら逃げ出したと父上に報告すれば、父上に褒められるのではないかと」


 そしてミカから治安隊の人々にリマの身柄が渡されたあと、幼いリマはミカを指さし言い放った。


「『やつが自分を誘拐した犯人じゃ』と言ってしまったのじゃ」


 ミカは思い出す。リマがミカを指さして、犯人扱いをした。ミカは自分が犯人じゃないと弁明しようとするが、被害者であるリマの言葉を、治安隊は信じた。

 さらにリマは、襲われそうになったこと、恐ろしい思いをしたこと、全てをミカが行ったものだと言ったのだ。

 その時、ミカが行った判断は『逃げ出す』だった。治安隊は完全に自分を犯罪者扱いしていた。たとえリマが捕まっていたダンジョンで気絶している真犯人たちを見せたところで、リマが言葉を覆さなければ信じてもらえない。そもそもリマは、言葉を覆さない気でいるには明らかだった。


「ミルドレッドはその後逃げ出しおってな。治安隊の者は追おうとしたのじゃが、わちが『奴も金が無く犯行に及んだのじゃ、許してやれ』と言うと、追うのをやめたのじゃ。父上からも、自分で逃げ出したこと、そして犯人を許したことを褒められたのじゃ」

「助けてもらった人を犯人扱いにしたくせに、本当の犯人は野放しなのね」

「……何も言い返せんの。じゃが、そやつらはまた別の犯罪を犯して捕まったらしいがの」

「でも、あなたがちゃんと真犯人を申告していれば、新しい犯罪は防げたのね」

「子供だったのじゃ、わちも」

「取り返しの付かないことをしておいて『子供だった』というのは、最低最悪の言い訳だと思うわ、私は」


 ミカにとっても思い出したくないことだった。助けた相手に犯人扱いされたのだ。

 子供故の過ちというのは存在する。それらのいくつかは、大人であれば許してやらねばならないこともある。

 だが全てがそうではない。子供だから、子供がしたことだと言って、全ての過ちを許してはならない。

 許してはならないこと。それは、取り返しのつかない過ちだ。


「それで、なんで今更詫びるわけ? ずっとその事実を隠してきたのに」

「わちの闇オークションでは人売りも行っていての。とある珍しい容姿を持ったエルフ族の子供も売られるはずだったのじゃが……出品者がオークション前に、外の事故で亡くなっての。そういう場合、オークションの管理者が商品を引き取る手はずになっているのじゃ。すぐにでも売るつもりであったのじゃが、そのエルフが自分が『占星術師』だと語っての」


 占星術師。その名をミカも知っている。

 占いの力で戦う、聖槍と聖杖という二つの武器を使い分けるクラスだ。槍を持てば、味方に能力上昇バフを配りつつ、数秒先の未来を見通す力で回避力が高い近接物理アタッカー。杖を持てば、未来を見通す力で的確な回復を行うメインヒーラーになるクラスだ。

 無論、名前の通り戦いだけではなく、占い師としても活動するクラスとなっている。

 

「そやつの占いは驚くほど当たったのじゃ。して、わちの未来を占わせた際、言ったのじゃ『あなたが過去に犯した一番の過ちを詫び、許されねば、あなたは全てを失う』とな」

「過ちね。人身売買やらブラックマーケットやら、それらは過ちじゃないの?」

「あれは商売というものじゃ。わちにとっては過ちにはならん。わちとて商売人じゃ。恩には恩で返す。それが信条じゃ。わちはその信条を破ったのは、産まれてこの方一度だけじゃ」


 その一度というのが、ミカを犯人扱いした。つまり恩を仇で返したときなのだろう。


「そういえば聞いたわ。あなた、翡翠色の瞳を持った人を探していたって」

「そうじゃ」

「ミルドレッドを探していたのね。素直にミルドレッドを探してるって言えばいいのに」

「わちとて体裁というものがあるのじゃ。奴はSランクパーティを追放されたと聞いておった。とある筋の者から、ミルドレッドは不当に追放されたと聞いたものの、追放は取り消されてはおらぬ。ゆえに名前をそのまま出してはおらんかったのじゃ」

「追放された者を探しているとわかったら、名前に傷が付くって感じかしら? 詫びたいって言うくせに、わがままじゃない。そもそも詫びるのなら、私にじゃなくてミルドレッドに謝るべきよ」


 ミカがそう言うと、リマは改めてミカに尋ねた。


「ならば、どうすればミルドレッドに会えるのじゃ?」

「そうね……教えることもできるわ。でも、条件がある」


 そう言いつつ、ミカはある条件を提示した。


「人身売買をやめること」

 

 さすがにミルドレッドとの相方を教えるのに、ブラックマーケットや闇オークションの全てをやめろ、と言うのは難しいだろう。

 そこでミカは、条件を一つに絞ることにした。


「ほう? わちにそのような条件をつけてくるとはのう」

「ダメかしら?」

「……人身売買のクライアントは多くないからの。かのような狼耳のリテール族などを除けば、収益も大したことはない。ミルドレッドに詫びねば、破滅するという話じゃ。条件を飲むのもありじゃろう」

 

 この反応はミカにとっても意外だった。何かしら文句は付けられると思っていたからだ。


「条件を飲もうではないか。今日を持って、オークションなどでの人身売買の受付は廃止するとしよう」

「わかったわ。次は私ね」


 ミカは考える。なるべく、この一件には青空の尻尾は巻き込みたくない。

 できるだけ穏便に済ませる方法は無いか。そして考えついたのが。


「ヴェネシアートの海軍に、『ミルドレッドの弟子』あてに渡すよう、手紙を送りなさい。ヴェネシアートのどこかの場所と時間を指定すれば、きっとミルドレッドは現れるはずよ」

「ふむ、なるほどわかった。そのように手筈を整えるとしよう。わちも、あの狼耳のリテール族を売りにだしたライアスを最後に、人身売買の受付は最後にするとしよう」

「ライアス……?」


 それはミカにとって良く聞いた、というかつい先ほど吹っ飛ばした者の名前だ。


「ヒュートックまで受け入れてたのね、この闇オークションは」

「……なんじゃと?」


 ヒュートック。その言葉を口にした瞬間、リマの目の色が変わった。それは怒りに燃えているように見えた。


「ライアスがヒュートックじゃと?」

「ええ。間違いないわ。なんなら、町の警備隊にでも聞くといいわ。あいつの仲間が捕まったから、話は聞けるだろうし」

「なんと……あやつがヒュートック……」

「どうしたの? ヒュートックに何か?」

「……わちを誘拐した者たち。あやつらも、自らをヒュートックだと自称しておった。赤いマスクも持っておった。あ奴らは、オーガ族であるだけで、わちを見下し、罵倒し、蔑みおった……許せぬのじゃ」


 すると、リマはキセルを吸い、大量の煙を吐き出した。それにより落ち着きを取り戻し、ミカに言った。


「前言撤回じゃ。ヒュートックの活動はこの町でも御法度じゃ。あの狼耳のリテール族、ヒュートックのものであれば商品としては扱えん」

「……ならあの子を解放してあげれないかしら。丁度私もあの子に聞きたいことがあるのよ」


 すると、リマは側にあった小さな紙を手に取り、何かを書き始めた。書き終えると、それをミカへと手渡す。


「此度の礼じゃ。あの狼耳のリテール族をお前にやろう。この紙があれば、管理しておる者が、あのリテール族をお主に譲り渡すはずじゃ。解放するなり好きにすると良い。場所はここを出て左にしばらく行きったところにある、地下の牢獄じゃ」

「ありがとう。それじゃ、私はこれで」


 と、部屋を出ようと扉にミカが手をかけたとき、リマがミカに尋ねた。


「してお主、名前は?」

「名前?」


 ミカは考える。まさかミルドレッドと名乗るわけにはいかない。ミカ、と名乗るのも、今は髪色も瞳の色も違うからよろしくない。ならばと、ミカは適当な名前を答えた。


「……キャロライン」

「ふむ、キャロラインか。礼を言うぞ」


〇〇〇


 地下への入り口に居たオークションの関係者に、ミカがリマから貰った紙を渡したところ、牢獄の鍵を渡され、すんなりと地下へ通してくれた。

 地下も通路のようになっており、薄暗い牢屋が左右に並んでいる。


「思い返すと、女っぽい口調はちょっと恥ずかしかったな……さて、あの狼耳の子は」


 牢のほとんどは空であった。途中に一つ、扉が閉まっている牢があった。


「居た……!」


 中には、鎖で繋がれた狼耳の少女の姿が。床に横たわっている。


「なぁ、起きてるか? 聞きたいことがあるんだ」


 そうミカが中の少女に話しかけると、少女はゆっくりと起き上がった。

 そして、少女はゆっくりと口を開いた。


「……誰よあんた。てっきり、売られる番が来たのだと思ったのだけれど」

「俺はミカだ。君の名前は?」


 ミカ、そう名乗ると、中の少女は鼻で笑い、呟いた。


「ミカッ、ね。あたしの知り合いのあだ名と同じじゃない」


 ミカと言う際の、北欧訛りの特徴的なイントネーション。それはリーナを思い出させる喋り方だ。


「まさかとは思うが、その名前の知り合いはミルドレッド・カルヴァトスじゃないのか?」

「ええそうよ。何故あんたみたいなちっこい女の子が知ってるのかは知らないけれど」

「……君の名前も教えてくれないか? フルネームで」


 すると、その少女は自らの名前を口にした。


「あたしの名前はリーナ。リーナ・C・ガバメント。元Sランクパーティのメンバー……になるかしらね。今はこんなナリだけど、こう見えて20代半ばよ」

「リーナ……本当にリーナなのか!?」

「あたしを知ってるの? ああ、Sランクパーティと言えば、そこそこ名前も知られていて当然だものね」

「違う、俺がミカだ。ミルドレッド・カルヴァトスだ」

「バカにしないで。たしかにあんた、髪色とか瞳の色は似てるけれど、ミカッは男よ。それにヒューマン。リテール族じゃないわ」


 確かに今の姿では、そうそう信じられはしないだろう。

 だからこそ、ミカは過去、紅蓮の閃光での事を語り始めた。


「最初にリーナと出会ったのは、Sランクダンジョン。そこで意気投合して、俺が自動拳銃を二丁作った。自動拳銃の名前は『ウルフェン』。拳銃の側面に、小さく名前が刻んである。命名者はリーナだ」

「え……? なんでそれをあんたが……ミカッしか知らないはずなのに」


 その後も、ミカはリーナとの様々な記憶を話した。

 ダンジョン攻略、王都のパーティハウスでの話、追放されたときの話。


「笑っちゃうわ。そんな話をされたら、信じざるを得ないじゃない。少し見ない間に、ずいぶん可愛くなっちゃって」

「俺もリーナがリーナだって信じざるを得ない。狼耳のリテール族になっているなんて。って、俺が言えたたちじゃないか。待ってろ、今牢を開ける」


 ようやく信じてもらえたところで、ミカが先ほど受け取った牢屋の鍵を、鍵穴に差し込もうとした。

 そんなミカの手を、牢屋の檻の隙間から、リーナが掴む。


「……ミカッ、あなたにお願いがあるのよ」

「なんだ?」


 今から解放されようというのに、リーナの表情は真剣そのもの。

 そんな神妙な面持ちで、リーナはミカに言い放った。


「あたしを……殺して」

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