7話 サポートヒーラー、雑用する
新しいパーティに入って数日間、ミカはひたすらに雑用をこなした。
だが、その雑用と言うのは、一般的な雑用と呼ばれる行為とは程遠いものばかりであった。
●雑用その1 家屋の建築
『青空の尻尾』のパーティハウスは、危険な崖際という立地と、今にも崩壊しそうな屋敷という、はたから見れば最悪な物件だった。
ミカは港町から少し離れた森を訪れた。その森は樹木が育ちすぎており、伐採が自由に許可されていることをミカは知っていた。
また、近隣の山では上質な石が採れることも知っており、それらを採取し持ち帰り、なんと新しい屋敷を作り上げてしまった。
「アゼル、僕は何度夢を見れば気が済むんだ」
「夢じゃねぇよクロー、これ現実だよぉー」
二人が見上げるのは、古い屋敷の隣に建てられた、新築の屋敷。上質な樹木と石材で作られたそれは、隣の屋敷とは比べ物にならないほど、立派なものだった。
ちなみに、ミカはこれを三日で作り上げている。
「ああ、あと家具とかも必要そうなのは全部作っておいたよ。もしお気に入りの家具とか古い屋敷にあったら、新しい屋敷に持っていってくれ。全部入るほどには広いからな」
家だけではない。その周囲、今までは柵もなかった崖際だったが、なんとそこに木材で足場を作ってしまった。ちゃんと、足場には柵も作られている。
これにより狭かったはずの崖際が、走り回れる程度にまでなっていた。
●雑用その2 装備の手入れ
装備のメンテナンスをするというミカに、ショーティアが装備を預けた翌日のこと。
「ああショーティアさんの装備だが、だいぶ傷んでたんで全部修理しておいた。錬金薬を使って、防御力と魔力が上がる多重エンチャントもかけておいたぞ。あ、錬金薬は自作したものだ。金はかかってないから気にしないでくれ」
「あらあら、あらあらあら……」
ショーティアがミカから受け取った装備は、まるで新品。いや、新品以上の輝きを放っていた。
「わたくしの記憶している限りだと、多重エンチャントはふつう、王国随一の錬金術師でしか行えないはずなのですが……」
●雑用その3 薬の調合
ある日、ミカはクロに対して、大量のビンが入った袋を手渡した。
「これは神薬と言ってな。各種能力を一時的に上げる薬だ。良い薬草が採れたから、調合しておいたんだ。飲みすぎると副作用でお腹壊すから、ほどほどにな」
「へぇ。初めて聞く薬だけれど、ありがとう。受け取るよ」
その翌日、クロは町のマーケットで、その薬がAランク以上のパーティで需要が極めて高く、法外な値段で取引されていることを知った。
そのことをミカに伝えると。
「そんなに高く売れるのか。でも、マーケットで流れてるのは『高名な薬師』が作ったという証明書があるものばかりなはずだ。だから、残念だが、俺が作ったのは売れないんだ」
そう言われてクロが調べると、マーケットに出品されていた品には、知る人ぞ知る薬師の名前ばかり証明書としてついていた。そして、そういった薬師でしか、この薬は作れないことを知った。
「ミカ……売るわけないじゃないか……せっかく私に渡してくれたんだ……」
●雑用その4 モンスター素材調達
「聞いた話だけどよぉー。冒険者の病院で、薬品に使える、Bランクモンスターのグレイウルフの心臓が不足して、うちのメンバーの退院が遅れるらしいぜ……」
「周囲にグレイウルフが生息するダンジョンが無かったから、Sランクダンジョンに忍び込んで、Sランクモンスターのウルフェンの心臓採取してきた。上位種だから、使えるはずだ」
アゼルが情報を伝えてから30分後のことである。
なお、Dランクの冒険者が取ってきたと言っても信じてもらえないので、心優しいSランクの冒険者が譲ってくれたというていで、病院に寄付をした。
ちなみに、これにより冒険者病院に入院している冒険者たちの入院期間が、大幅に短縮されたという。
●雑用その5 調理
「僕、港町に行ったとき、ミカが作ってくれたマドレーヌを食べてたんだ。これが本当においしくてさ。そしたら周囲の人たちがジロジロと僕を見てきたんだよ。突然、コック帽を被ったおじさんが現れて、僕の持ってたマドレーヌを奪い取って一口食べたとたんに、『このマドレーヌを作ったのは誰じゃ! 間違いなくワシ以上……! これは三ツ星級……いや、伝説の四ツ星級の一品じゃ!!!!』って言いだしたんだ。思わず逃げてちゃったのだけれども、後から聞いたらそのおじいさんが」
「そのおじいさんはどなたですの?」
「王家にさえ認められ、その味を求めて世界中から金持ちが集まるっていう、港町の三ツ星レストラン、そこで、生ける伝説と呼ばれているコック長だったよ……」
新しい屋敷で、テーブルを囲むショーティア、クロ、アゼルの三人。そんな三人のもとにミカが現れ、テーブルに皿を並べる。
「Aランクモンスター、レッドミノタウロスのハーブステーキ、ワインビネガー風味だ。食べれば数日の間、筋力がアップし、集中力が向上する。食後にはローランドベリーを使ったデザート、パパナッシュを用意してる。こっちは食べれば魔法詠唱時間を短縮する効果が……どうした皆? そんな苦笑いを浮かべて」
●雑用その他 いろいろ
「トレーニング用のサンドバッグが壊れちまった。また作らねぇとなー」
「ケンタウロスの皮を使ってサンドバッグ作っといた。ちょっとやそっとじゃ壊れないはずだ。トレーニング用に木で作った的の一種である木人椿も作っておいたぞ」
「僕は腕の力が弱くて、魔導書を持つのは重いからね。腕の筋力も鍛なきゃいけないかな」
「筋力増強効果のあるグレーターデーモンの表皮を使ってグローブを作っておいた。魔力を微小に消費するだけで、魔導書が羽のように軽くなるはずだ」
「リーダーなので冒険者ギルドで書類を書いていたら、腰と肩に疲労がたまりまして……」
「あとで部屋に行ってもいいかな? ヒール系の魔法で疲れをとってやるよ」
………………
…………
……
ミカがパーティに正式加入して一週間後。三人はミカを屋敷の広間に呼び出した。
「どうしたんだ? みんな改まって」
「ミカ……僕たちから頼みがある」
「頼み?」
「頼む! 僕たちにも手伝わせてくれ!」




