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21話 猫耳パーティと闇オークション会場

「がっはっはっは! お前たちもアリーナに参加しに来たのか!?」

「あ、いや、俺たちは、その」


 この町でブラックマーケットや闇オークションがあるのは有名な話だ。しかし、まさか自分たちがそれを目当てに行くだなんて、ミカはさすがに言いづらかった。

 そこでショーティアが助け船を出す。


「いえ、わたくしたちは依頼でお荷物をこの町に届けに来ましたわ。先ほど荷物をお届け終わりまして、今から報告などもかねてパーティメンバーと合流しつつ、冒険者ギルドに向かうところですわ」

「がっはっは! なるほどな! ちゃんと冒険者として依頼に励んでいるわけだ! えらいぞ!」


 さらっと嘘を着いたショーティア。どこかこなれた嘘の付き方だ。いつもの笑顔から変わらないためか、その発言が嘘だとは、カゴン達はとうてい思わないだろう。

 それだけでなく、これから他者が合流すること、そしてどこかへ行かなければいけないことを付け加え、カゴンが自分たちを何かに誘えないように誘導した。


(ショーティアさん、こういうところ上手いよな)


 ミカが思う。そしてさらに、ショーティアは逆にカゴンに質問した。


「ふふふ、カゴンさんは、アリーナが目的です?」

「おうよ! モンスターアリーナに出ようとこの町に滞在してたところだ! ったんだが……」

「あらあら、何かあったのですか?」

「ほらほら、これ見てー」


 と、キリザが一枚の紙をミカ達に見せてきた。

 そこには。『今話題の魔鏡石、武器屋にて仕入れました』と書かれていた。


「あたし、魔鏡石がめっちゃほしいのよ。結局ヴェネシアートでは買えなかったしー」

「がっはっは! そうしたらだ。宿の自室のドアの下から、これが入れられていた!」

「そそ。んで、さっきこの武器屋に行ったんだけどー、なんかめっちゃ警備隊が居るし、なんか事件があったようなのよ。それで一旦宿に帰ろうってカゴンと話てさー、ってかカゴン、やっぱ足早すぎ」

「がっはっは! そうか!? おかげで猫たちに出会えたじゃないか!」

「……なるほどな」


 ミカは理解した。ヴェネシアートの一件で、ライアスとカゴンには因縁が出来ていた。


(おそらくはカゴン達がこの町に来ているのを突き止めて、あの武器屋に誘い出そうとしてたんだろう。俺たちが襲われたのはついで、ってところか)


 考えにふけっているミカ。完全に油断していたミカは、隣に近づいていたキリザの姿に気づかない。


(しかし、二人に対して四人で待ち伏せか。おそらく、俺にしたように、キリザを人質にでも取るつもりだったのか? 本当にあいつは……)


 とミカが考えていると。


「すきありー」

「うわっ!」


 キリザの手が、ミカの首元に触れた。


「な、なにするんだ!?」

「いやさー、さっき買ったアクセなんだけど? 黒猫か赤目猫に似合うと思ってさー。いやー、赤色のアクセだから赤目猫につけてみたら、思いのほか似合うわ」

「い、いったいなんだよ」

「ミカ……首に触れてごらん」


 クロに言われて、ミカが首に触れる。そこには。


「この感触……皮の首輪か?」

「そそ、今日市場で買ったアクセでさ。かわいかったから買ったはいいものの、あたしには似合わなかったのよ。赤目猫にあげるわ。なんか結構な耐呪効果があるらしいよ?」

「がっはっは! 俺は似合ってると思うがな! しかし、アクセサリが無くてもキリザは美しいぞ!」

「もー! カゴンったら! うれしい!」


 ミカは自身の首元に付けられた首輪に触れる。確かにこれは首輪だ。よくペットなどに付けるものに近いだろう。


「首輪ってどういう趣味だよ……俺はペットじゃないぞ?」

「ミカ、ちょっといいかい?」


 クロがミカに言い放つ。


「かわいいよ」

「……いや、別に嬉しくない」


 ミカの猫耳がぺたりと垂れる。その耳は不満を表していた。

 

「それでは猫たち! 用事があるようだから、我々は退散しよう! また会おうではないか!」

「じゃねー」


 と、先ほどのショーティアの説明もあり、カゴンとショーティアはその場から立ち去っていった。

 残されたミカ達。ミカの首元には首輪が。


「ミカさん、先ほど耐呪の効果がそちらの首輪にあるとキリザさんたちはおっしゃっていましたが」


 ミカが猫耳少女姿になっているのは、ドラゴンの眷属化の呪いがおかしな作用をしたためだ。聖水で一時的に呪いを解呪はできるのだが。


「ミカ、なんの変化も無いね」


 クロのいう通り、ミカの姿には変化が無かった。


「俺にかかってるのは聖水でも一時的にしか解けない呪いだからな。この装備じゃ効果は無いみたいだ」

「あらあら、ざんねんですわ」

「とりあえず、地下の入り口まで急ごう」


 そう言ってミカは歩き出した。その首に、首輪を付けたままなのを忘れて。


〇〇〇


 地下への入り口は、町の中央にある冒険者ギルドから、少し離れた建物の影に存在していた。

 その前に立つ、おそらくは地下への門番らしき人物。その人物にミカ達が預金証明書を渡すと、門番は若い猫耳たちに意外そうな顔を浮かべながらも、軽く身体チェックを始めた。


「すまねぇな猫耳ちゃんたち。一応規則でな。一応検査する決まりなんだ。っと、お前が着てるのは、魔鏡石で騙した装備か?」

「知ってるのか?」

「最近話題だからな。武器の偽装してたら問題だが、武器は偽装してないみたいだな。よし、通っていいぞ」


 簡単なチェックを終えると、門番はミカ達を地下への入り口へ通してくれた。

 地下へ下ること数分。ようやく開けた場所に出たミカ達が見たものは。


「すごい人だな」


 それはあふれんばかりの人の山だった。

 地下の様相はというと、おそらく遺跡を利用しているのだろう。広く開けた空間、町の三分の一ほどの大きさと、ヒト数十人分の高さがある広い空間に、いくつもの古い様式の石で出来た建物があった。

 その建物や広場では、様々な露店が立ち並んでいる。

 ミカ達はその中を歩きつつ、闇オークションが行われるという会場まで向かっていた。


「ミカ、見たことのないものが沢山あるよ」

「ちょいちょい、バレンガルドでは取引が禁止されているものもあるな……アミネネ草やアジリド茸まで売ってる」

「それはなんだい?」

「麻薬の一種だ」

「あらあら、怖いですわ」


 少し歩けば、麻薬や危険書物、取引が禁止されているダンジョン産の遺物を売りつけようとする、目がうつろな商人たちが話しかけてくる。

 ミカ達は急ぎ、オークション会場へと向かった。


「あのひと際でかい建物がオークション会場だ。行くぞ二人とも」


〇〇〇


 オークション会場には多くの人々が居た。

 大理石で作られた古い建物の内部。床には赤い絨毯が敷き詰められ、広い部屋の奥には、おそらくは商品を出すであろうステージまで作られている。


「ミカ、なんだか周りの人たち、皆貴族とかにしか見えないよ」


 クロのいう通りだった。周囲の人々は、どこか高級なドレスや紳士服を身に纏っている。その周囲には用心棒らしき冒険者の姿が。

 むしろ、冒険者姿で、なおかつ側に貴族らしき人物の居ないミカ達は、若干その場で浮いていた。


「仕方ないさクロ。そういうところなんだ」

「ちらほらと冒険者の方もいらっしゃいますし、クロさん、気にすることはないですわ。ところでミカさん、おっぱい揉みます?」

「目立つからその発言は控えてくれ」


 と、ミカ達が話していた時だった。ステージの上に、紳士服を来たヒューマン族の一人の男性の姿が現れた。おそらくは、オークションの進行役だろう。

 その進行役は、オークションの開始を待つ人々に向けて話始めた。


『皆さま、ようこそお越しくださいました! オークション開始までしばしお待ちください。と、言ったところで、なんと本日はサプライズがあります!』


 サプライズと言う言葉に、会場がどよめき始めた。


「ミカ、なんだろうサプライズって」

「さあな。たぶん、ろくでもないものな気がするが」


 ミカの予想が当たったのは、進行役の次の発言ですぐ明らかになる。


『本日はなんと、スペシャルでレアな少女をオークションの商品として入荷致しました! 奴隷にしてよし、飼ってよし、それはそれは素晴らしいレアものです!』


 ミカをクロがハッとした表情で見る。ショーティアも、どこか困惑の表情を浮かべながらミカを見た。


「ミカ、今奴隷って」

「……ヒュートックみたいな差別は貴族や金持ちに対しても行われる。だからあいつらの存在はここでも御法度だ。だが、人身売買は別なんだろうさ。そういうのを求めるのは、得てして貴族や金持ち、権力者だからな」

「あらあら……このオークションの責任者の息の根を止めたいですわ」

「本音が漏れてるぞショーティアさん」


 そう、行われていたのは人身売買。バレンガルドは奴隷制が廃止されて久しく、バレンガルドの属国でも奴隷制は廃止されている。

 だが、貴族や権力者、金持ちの間では、いまだに人をペットや奴隷として扱う文化が残っている。

 無論禁止されているが、バレンガルドの目の届かない場所では、いまだに残っているのが実情だ。ましてや、このダルフィアは様々な権力によって悪行が守られている町。人身売買をするにはもってこいの場所であった。


「アンジェラならともかく、今の俺たちは一介の冒険者だ。余計な行動はしないほうがいい。アンジェラに迷惑がかかるしな」


 そうミカが二人に念を押したとき、進行役の男がさらに発言を続けた。


『特別に、本日緊急入荷したレアな少女を少しだけお見せ致しましょう!』


 そう言って、ステージの袖から、鎖を持った男性が現れる。その鎖の先は、とある小さな少女の首に付けられた、鉄製の首輪に繋がっていた。

 その少女。両手には鉄製の枷が嵌められ、その両足も走れないよう、足首同士が歩ける程度の長さの鎖で繋がれていた。

 

「……あれ? どうしたんだいミカ」


 クロがミカの様子がおかしいことに気づく。ミカは、その少女の姿を見て固まっていた。


『こちらがその商品です! 世にも珍しい、狼耳と狼の尻尾を持ったリテール族の少女です!』


 その十歳前後の少女は、うつろな表情でステージに立っていた。

 体、四肢には傷一つ無く、美しい肌を持っている。

 髪は若干のウェーブがかかっている金髪。その頭の上には、髪色とは異なる、灰色の狼耳が生えていた。

 身に着けているのは、もはや布切れとしか思えないほど、ぼろぼろの上着のみ。やせこけた体の大きさよりも大きく、まったくサイズが合っていない。

 そして瞳。美しい、空色の瞳。うつろで、淀んでいながらも、美しい空色をしていた。

 そんな少女を見たミカの口からこぼれ出たのは。


「リーナ……?」

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