表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/119

19話 猫耳ソーサラーと元パーティリーダー

 ミカの背後に立つライアスは、その手にナイフを握っていた。その先は、ミカの首元に突き付けられていた。


「君が学術士なのは知っているよ。反魔法術式を組み込んだナイフなんだ。君のバリアは無効化されるよ」

「はいはい、そうですか」


 ミカが尾行に気づいたのは十分ほど前。ミカはすぐに何者かが尾行しているのに気づいた。

 ミカが何度か歩行のテンポを変えると、それに合わせてついてくる気配も変わる。隣のクロやショーティアが、ミカが歩幅を変えたのに気づくよりも先にだ。

 故にミカは、ついてくる気配が自分を目的としている事に気づいた。

 ついてきたのがライアスだと気づいたのは、実際に店内で声をかけられたタイミングであったが。

 

「お前なら納得だライアス。お前もこの町に来ていたのは驚きだが、どうせ町で俺を見かけて、ついてきたんだろ? なぜなら」


 歩いていた三人のうちでミカが。


「俺が一番弱そうに見えたから、だろ? ついでに、俺の姿は好みらしいからな」

「さぁどうかねぇ。あの聖魔導士でも良かったんだけどねぇ」


 まるで言い訳するような口調で話すライアス。おそらく図星だったのだろう。それを認めようとはしない。

 そしてライアスの言動を聞いたミカは考える。


(隣に居たのがクロだとは気づかれていないか)


 そう、ヴェネシアートではクロとライアスは顔を合わせていない。クロが一方的に認識していただけだ。

 おそらく三人で歩いているとき、自分とショーティアにまず気づいたのだろう。そしてミカに夢中になったため、クロには気づいていない様子だった。


「ん?」


 ミカが気づくと、店主の姿も無い。しかし町の警備隊を呼びに行った様子も無い。


「なるほど、グルか。まんまと嵌められたってわけか?」

「いえいえ、ただこの辺り一帯の店と友人なだけですよ」


 ライアスが、ミカの首元にナイフを当てたまま、ミカを床に押し倒した。ライアスが、ミカの体にまたがっているような状態だ。

 そんなライアスの顔に取り付けられたものを、見て、ミカが一言。


「赤いマスク。ヒュートックの証じゃないか。マジで残ってたんだな」

「おやおや、ご存じで? では楽しみながら聞かせてあげますよ」


 ミカが身に着けているのは、いつもと同じセーターとストール姿。下はスカートだ。

 ライアスはミカの身に着けていたスカートを、無理やり脱がした。その下からは、男性の下着が露わになる。


「色気の無い下着だねぇ。男性用の下着のようだ」

「そのマスクの方が色気が無ぇよ」

「おやおや、この高貴なマスクを乏しめるとは、やっぱりリテール族はなっていないねぇ」


 そう言いながら、ライアスはミカのセーターを無理やり破こうとした。


「……高貴ねぇ、自分が『ヒューマン』であることしか自慢することがないことを証明するマスクの、どこが高貴」


 ミカが発したその一言に、ライアスの手が止まる。


「ほう? それは、君は正気かな? このマスクの素晴らしさを、気づかない?」


 ライアスの声が震えていた。まるでミカの言葉を否定するように。そんなことはつゆ知らず、ミカは続ける。


「俺も前はクズのようなパーティメンバーとパーティを組んでいた。思えば、あいつらはSランクパーティから落ちるのを極度に怖がっていた。今ならわかる。あいつらには、『それしか誇れることが無かった』んだ。だからこそ自分のミスを認めず、一番その誇りと縁遠かった俺に、責任を擦り付けた。お前も同じだ、ライアス」

「違いますよ? 違う違う。私はギルドで受けた冒険者適性検査でも、力を表すSTRの検査値はA、魔力を表すMAGはA、そして第六感などを表すPCAはなんとSでしたから」

「へぇ、そんな高い適性を持っているのに、Sランクにすら上がれないと? そりゃそうだ。だって、お前はそういう『生まれもった種族や、実の無い数字しか誇示できるものが無い』んだからな」


 ライアスのナイフを握った手の力が、強くなっていることが見て取れた。だが、なおもミカは続ける。


「俺は30年近く生きてきて、わかったよ。ヒトは種族に関わらず、色んな奴が居る。だが、種族だとか国だとか肩書だとかを乏しめて、自分が上位だと語り見下す奴は、大概『それ以外に自慢できる事が出来ない無能』だってことをな!」

「貴様……! この、この私をコケにしやがって……!」


 ライアスの口調が荒くなる。それは、まるで本性を出したかのようだった。


「私を、ここまでバカにしたのは、あの黒猫のリテール族以来だ。あの無能で、役立たずで、このウォルフマナルフ家生まれの私と違って、誰の力にもなれなかった、あの黒猫のリテール族の……!」


 ライアスの語る黒猫のリテール族。それは間違いなく、ミカの知る彼女の事だ。


「俺にも黒猫のリテール族の、大切な友人が居る」

「……先ほど貴様と歩いていた奴か? どうせ役立たずなのだろう? リテール族というものはそういうものだ。下等で、役立たずで、我々が奴隷として使ってやるのに感謝もしない」

「そうだな、確かにちょっと怖がりで、自信が無いところはある。だが俺にとっては、Sランクの冒険者よりも頼りになって、いざってときは勇気も出せる凄い仲間だ」


 二人しか気配の無かったその場に、もう一つの気配。気づけば、ライアスの背後にもう一人の影が。


「なぁ? クロ」

 

 ライアスが後ろを見る。そこには、ライアスに向かってグリモアを構えるクロの姿があった。


「ライアス……!」

「おやおや、おやおやおや、これは驚いた。我がパーティの元メンバーではないか」

「僕にとっては汚れた過去だ。よくも、よくもミカを」


 押し倒され、服を脱がされかけているミカを見て、クロが怒りを露わにする。


「おや? いいのですかね? あなたに攻撃できるかな?」


 ライアスがミカを無理やり立たせ、ミカの首にナイフを突き付ける。ミカを人質に、脅しているようだった。

 だがミカはクロに対し。


「クロ」

「なんだい?」

「ぶち転がせ」


 ミカのその一言と共に、クロはにやりと笑った。そして。


「フォトンランチャー!」


 クロの呪文詠唱と共に、無数の光の弾がライアスに放たれる。

 

「やったな貴様! こいつの命は……!?」


 ライアスがナイフをミカに押し込もうとした。しかし、ミカの体にはナイフが食い込まない。

 それもそのはずだ。ミカの体には今、反魔法術式が通らないほど、強固なバリアが張られている。

 さらにライアスとミカに迫るクロの魔法。ミカの体はバリアによって守られているが、ライアスの体は完全に無防備だ。

 ライアスに無数に魔法の弾丸がぶつかり、小さな爆発を起こす。


「うぐあああああ!」


 叫び、店内の壁に激突するライアス。


「ば、ばかな……何故、ナイフが効かない!?」

「ライアスのことだから、ミカが一番弱そうだと思ってたんだろう? 残念ながら大間違いだ」


 するとクロはまるで自分の事のように胸を張りながら言った。


「彼はSランクの冒険者だ」

「え、Sランクだと!?」


 驚愕するライアス。そんなライアスをしり目に、クロは小さくボソッと呟いた。


「まぁ、元だけれど」


 だがライアスはそんな言葉が耳に入らない。怒りと、驚愕でその表情は満ちている。


「あり得ない……貴様のようなリテール族が、下等種族が、奴隷種族がSランクなどと! お前ら、出てこい!」


 ライアスの一言で、店内には複数人のヒューマンが現れた。

 武器屋の店員から、おそらくは外で待機していたであろう、屈強なヒューマンや細身のヒューマン、その数三人。ライアスを含めて、ヒュートックが四人に増えている。


「万が一のために忍ばせておいたってか?」

「ミカ、それもミカのような可愛いリテール族一人相手にだよ。全く、卑怯の極みだ」

「下等種族ども、その煩い口をすぐに塞いでやる!」


 と、3人の男たちが一斉にミカとクロに飛び掛かったが。


「はい、魔法障壁展開」


 ミカが魔法障壁を展開すると、そのバリアに押されて3人は吹き飛ばされ、壁に激突した。激突した三人に対してクロが。


「フォトンショット、フォトンショット、フォトンショット。これでいいかい?」


 攻撃魔法を三連発する。その攻撃で3人は気絶し、動かなくなった。


「ん、ねぇミカ、ライアスは」


 気づけば、その場にライアスの姿は無い。


「店の奥から逃げやがったか」

「どうするミカ、追うかい?」

「やめておこう。店の外に出たなら、追うのは非効率だ。それよりも」


 ミカは倒れている三人、その内の一人に近寄り、そのマスクを取った。


「このマスクが何よりの証拠だ。あいつは早々逃げられないさ」


 そんな時、店の玄関から現れる一人の姿が。


「あらあら。突然クロさんが心配になって戻ると言い出したので、慌てて来たのですが。あらミカさん! スカートが外れていますわ!」

「大丈夫だよショーティアさん、もう終わってる。それに俺は男だし、パンツを一つ二つ見られても大丈夫だ。男の下着だしな。それよりこいつらをどうするかだが」

「あらあら、ではお声がけして正解でしたわね」

「ん? どういうことだ?」


 店の外、ショーティアの背後には、町の警備隊と思しき数人の人が立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ