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17話 猫耳パーティ、ダルフィアへ向かう

「いやほんと、皆別に付いてこなくてもよかったんだぞ?」


 今、ミカは馬車、ではなくダルフィア行きの竜車に乗っていた。

 その中には、青空の尻尾のメンバー全員も居る。


「だからよぉ、今のミカを放っておけねぇっての」

「あらあら。それに、ダルフィアと言えば、あまり良い噂も聞かない町ですわ。ミカさんのようなかわいらしいリテール族が一人で行けば、どんな目にあうか」

「だから俺は男だって」

「ミカ、なんどしたかなこの会話。今の君はかわいい女の子だ」


 なお、車内に居るのはミカ含めて五人。残りの一人、シイカはというと。


「シイ……本当に大丈夫なのか?」


 ミカが心配になって、床をコンコンと叩く。


「シイ、大丈夫か? そこに居るか?」

『……にゃ』


 床下から帰ってきたシイカの声。

 なんとシイカはというと、竜車の床下、つまり車の下、外に張り付いているのだ。

 

「シイカ、無理とかしてないよな? 本当に大丈夫だよな?」


 ミカが心配になって再三尋ねると、床下からコンッコンッとシイカが移動する音が聞こえ、取り付けられた窓から、シイカの腕が見えた。その手は、親指を立てている。


「……案外余裕そうだなシイ。竜車は速いから心配なんだが」


 竜車というのは、馬ではなく一匹の地走ドラゴンに人が乗る車を引っ張らせているものだ。

 馬よりも安定性が高く、さらに力強い。実際、ミカ達の乗っているのは木製の車ではなく、鉄と祝福されたガラス窓のある強固なものだった。

 なおかつ速い。そんな竜車にのって行けば、二日もかからないうちにダルフィアへ着くだろう。

 

「にしても、まさかカオスグリモアがな」


 ミカは思い出す。

 アンジェラからカオスグリモアが闇オークションに出ると聞いたミカは、自身がかつて使用していたカオスグリモアの行方がわらかないことについて伝えた。するとアンジェラはこう答えたのだ。


……

…………

………………


『はぁ……まったく冒険者ギルドは……ミルドレッドのグリモア、横流しされた可能性が高いわね』

『横流し?』

『ええ。冒険者から差し押さえられた物品が、正式に商人ギルドを通さず、横流しされることは多々あるのよ。何度も現場を押さえて横流しした者や不正売買商人を逮捕したのだけれど、それはもう捕まえては沸いて出てくる。冒険者ギルドを正さないとだめと考えているわ』


 そしてアンジェラ曰く、ミカの持っていたカオスグリモアも、その横流しの被害にあったものだろうと言う。


『あなたのカオスグリモアを売却する際、一番枷になるものはなんだと思う?』


 アンジェラに問われたミカはすぐに答えた。


『俺がSランクパーティを追放されたという事実だ』

『その通り。一度下された追放判定は、私の権限を使っても覆せないのよ。だから、あなたが追放された事実は覆らなかったわ。たとえ紅蓮の閃光を捕まえたとしても。ごめんなさいね』

『アンジェラの力をもってしても……』


 なぜアンジェラの力をもってしても覆せなかったか。その理由はアンジェラはすぐに語ってくれた。


『私の兄、ブライアンが介入してるのよ。ブライアンは、不当とされた追放判定も覆させないわ。むしろ、不当追放を後押ししているような動きも見える。ブライアンは第一王子。私よりも王国内での権限は上で、表にはほとんど出てこないけれど、復権派からの信頼もあるのよ。今もどこに居るかわからないほど放浪癖があるのに、変な奴からの信頼は厚いのよね』


 兄が介入しているとあれば、そうそう冒険者ギルドにはアンジェラも介入できないでいた。


『あなたがSランクパーティを追放された事実は正せていない。そうなれば、あなたが奪われ、紅蓮の閃光から冒険者ギルドに現金化を依頼されたカオスグリモアは、扱いが難しいものになるわ。本来ならば高額で売れるものが、追放の名前が付くだけで商人ギルドの買い取り価格は半額以下になる。それでも需要はあるから高い値段が付くのだけれど。でも、現金化する冒険者ギルドとしては美味しくない』


 だが、半額以下の値段にする方法は、別に存在した。


『ブラックマーケットならば、追放された冒険者の物品と言う事実を隠せるわ。値段も満額と行かずとも、半額以下まで下がらない。それにカオスグリモアは需要もあるわ。だからブラックマーケットではなく、闇オークションに出されることになったのだと思うの』


 商人ギルドに販売する場合、その出所や、作成者の証明書が必要となる。ブラックマーケットであれば、それは必要ない。

 そして一通り話し終えたアンジェラは、ミカにお墨付きを出した。


『ヴェネシアート近郊での人狼の話……あなたが撃退したとモニカから聞いていたからその感謝もしたかったのだけれど、まさかリバウンドが……巡り巡って、あなたの不当な追放を許した冒険者ギルドの腐敗を放置していた王国のせいであることは間違いないわ。私は別件があるから着いてはいけないけれど、王女として許可するわ。闇オークションでカオスグリモアを手に入れることを許します。けれど、今は事を荒立てたくない。私のポケットマネーを出すわ。面倒なことはせず、オークションで競り落としてきなさい』


 アンジェラの装備の多くはミカが製作したものだ。その装備に何度か危険な場面で助けられているアンジェラ。そんなミカが、王国の不手際によって不当に追放され、その事実を正せていないこと、そしてその影響でミカにリバウンドのダメージを負わせてしまったことに、アンジェラはかなり負い目を感じているようだった。


………………

…………

……


「とはいえ、アンジェラに金を出してもらうのは忍びなかったな」


 アンジェラ曰く、おそらくカオスグリモアの闇オークションでの値段は数百万から一千万ほどになるという。

 ミカは何度も断ったが、アンジェラは半ば強引に商人ギルドへ連絡し、アンジェラの金の一部をミカ達に使えるようにしてしまった。その額、なんと一億ギニーである。


「ミカ。確かに僕たちは今比較的裕福だ。けれど、オークションに出されるのなら、法外な値段が付けられる可能性もあるよ」

「確かに……カオスグリモアの市場価格は3000万ギニーって言われてる。これでも最上級武器ではかなり安い方だ。需要がある武器は平気で一億行くからな」

「ブラックマーケットなどでは安くなるとはいえ、半額以下にはならないとお伺いしますわ。わたくしたちのお金では、もしかしたら足りないかと」

「そうだな……アンジェラの話では事を荒立てたくないと言うし、最悪アンジェラの金を少し借りるしかなくなるかもな」


 と、闇オークションの事を皆が話している最中だった。

 

「ん?」


 くんくんと鼻を反応させるミカ。何やら香ばしい匂いが漂ってきた。

 その匂いの発生源を見ると。


「お、ミカァも食うか?」

「これ、中々いけるでありますよ!」


 何やら、アゼルとルシュカが何か肉や野菜などを練って作ったであろう、焼きだんごを食べていた。

 アゼルが器を持っていることからして、アゼルが買ってきたものだろう。

 ミカが、その食べ物についてアゼルに尋ねる。


「アゼル、それはどこで?」

「貧民街の知り合いが、冒険者通りで屋台を出しててな! せっかくだから竜車に乗る前に買ってきたんだぜ!」

「あらあら……それは王国からお店を出す許可は頂いていますの?」

「許可? そんなもんいるのか? あー、そういえばこの焼きだんご買った後、王国軍の治安部隊におっかけられてたような」


 何やら怪しい雰囲気の食べ物。今のところ食べているのは、アゼルとルシュカだけであった。

 ミカはその食べ物匂いから何かを思い、二人にとあるものを手渡した。


「アゼル、ルシュカ、これを飲んでおいてくれ」

「ん、ミカァ、なんだこれ?」

「いや、ちょっとな。万が一の事を考えて、飲んでもらったほうがいいと思って。俺が調合した奴だ」


 ミカが出したのは粉薬だった。


「んー。よくわからねぇけど、飲んどくぜ」

「さてはミカどの、この食べ物で自分らがお腹を壊すとお思いでありますか? 大丈夫であります! 自分らは体力と体の丈夫さには自信があるタンクであります!」

「まぁ、それはともかく飲んでおけ」


 ミカに押され、しぶしぶ薬を飲むルシュカであったが。


「飲みましたが、きっと問題ないでありますよ! 王都で買った食べ物でありますよ!? そうそうお腹を壊すことは無いであります!」


〇〇〇


「うごごごごごごご、ウチ、ウチの腹ががががが」

「ぐぬぬぬぬぬ、い、痛いのは、す、すきでありますが、と、トイレから出られないでありますすすすすす……ぐぬぬぬぬぬ」


 ダルフィアに到着してすぐの事だった。猛烈な腹の痛みを訴えた二人は、そのまま冒険者用宿のトイレに駆け込み、一切外に出られない状態になってしまった。

 そんな二人を見て、ミカが一言。


「やっぱりか……」

「え、気づいていたのかい、ミカ」

「食中毒って奴だ。薬飲ませておいてよかった。飲んでなかったらもっとヤバいことになってたぞ」


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