6話 一方その頃、旧パーティ
ミカが新しいパーティに加入した頃。王都のとあるパーティで、一つの問題が起こっていた。
「くそっ! なんでまた攻略失敗したんだ!」
ミカがかつて所属していた、Sランクパーティ『紅蓮の閃光』。そのパーティルームで、リーダーであるドランクはいらだっていた。
ミカが脱退してから3度Sランクダンジョンに挑戦し、3度共に攻略に失敗していた。
「くそが、ヒールが薄いんだよ! ミューラ、ちゃんとヒールしろ!」
「何言ってるの? タンクのあんたが攻撃に耐えれないのがいけないんじゃない! それに、アタッカーもすぐ倒れるし!」
ミカが抜けてから、明らかにメンバーがやられることが増えていた。
今まで戦闘で大けがを負うことは少なかったのに、現在ではパーティに怪我人多数となっている。
明らかに防御力が落ちていた。今までは一撃で瀕死にならなかった攻撃で、瀕死になっている。
「ミカが抜けてからだ……あいつ、俺たちに毒でも盛ったんじゃないか? そうだ、そうに違いない」
「どうすんのよ……大空洞の探索まであと2か月よ。下手をすれば、Aランクパーティに落とされるかも……」
大空洞。それは、冒険者にとって憧れのダンジョンの一つだ。
それは今より百年以上前に発見された、王国では有数の巨大ダンジョンの一種だ。
王都に近い遺跡。その地下の遥か深くには、まるで一つの都市のように広い空間があった。
そこで発見された古代の遺物は、一つの国家を揺るがすほどに貴重なものも多く、ものによっては、手に入れれば死ぬまで安泰、最高の栄誉を与えられることさえあった。
彼らの住むバレンガルド王国が複数の属国を有するほど強大化したのも、ここで発掘された遺物のためだ。
「わかってる……Sランクなら大空洞の探索を優先して進められる。それは知ってるんだミューラ」
だが、大空洞には極めて危険なモンスターが大量に徘徊しており、並の冒険者ではなく、高名な冒険者でさえも無事で済む保証はない。
それだけでなく、その大空洞の入り口は古代の技術で作られた門により、『出るのは簡単だが、中に入ろうとする者は通さない』という魔法障壁が張られており、簡単には入れなかった。
故に、王国はSランクからAランクまで希望する冒険者パーティを募り、数か月に一回、王国の高名な魔導士たちを動員して魔法障壁を一時的に解除し、多数の冒険者パーティを大空洞に送り込み攻略を試みている。これは通称、『大攻略』と呼ばれていた。
「しかもこの時期よ。あんな文書が見つかったあとに……」
現在、この大攻略は例年以上に賑わっていた。それは、あの大空洞よりも『さらに下の階層、深層と呼ばれる階層』があることが、発掘された文書を解読してわかったからだ。
まだその深層への道を見つけていない。深層へつながる道を見つけるだけでも、冒険者としては一生安泰とも言える栄誉となるだろう。
Sランクであれば、Aランクよりも優先して攻略のサポートが王国から受けられる。ゆえに、ドランクたちは降格することを一番に恐れていた。
『紅蓮の閃光』の面々は、口々にミカに対する非難を口にする。
だが一人だけ、非難を口にせず、パーティルームの端で、壁に背を預けている女性が居た。
「おいリーナ、何してんだ。お前も話し合いに加われ」
「私はごめんよ。一応私は部外者だもの。加わるも加わらないも勝手でしょ」
ドランクの言葉を受け流したその女性は、手にしたリンゴをかじりながら、一人つぶやく。
「まったく、私以上のバカが多いわね。ミカのサポートにどれだけ依存していたかわかるわ」
腰に二丁の拳銃を携えた、金髪の女性。彼女はリーナと言う。銃を扱うガンナーの女性で、いわば『遠隔物理アタッカー』に相当するクラスだ。
以前は彼女はこの国とは違う国の出身で、そこで傭兵をしていた女性だ。故に、一部の言葉のイントネーションが強くなる、訛りのようなものがある。
とある事情でこの王国を訪れた際、その実力を見出され、『紅蓮の閃光』にスカウトされたという過去がある。
そんな彼女に、ドランクが近づき、にらみつける。
「一応お前は俺に雇われたって、ていだったな。なら俺に従うのが当然じゃないのか」
「ふーん、あんたはそう思い込んでたんだ」
リーナをスカウトしたのは他でもない、今ここに居ないミカであった。
お気に入りの銃の片方が破損したため、新たに自分の身に合う銃を探しに、各地を放浪していたときのこと。
ふと訪れたダンジョンで、モンスターの素材を採取中のミカにであった。
(Sランクのダンジョンで、大量のSランクのモンスターを一人で悠々と倒してたのはビビったわね……)
冒険者であれば良い武器を売っている店を知っているだろうとミカに聞いたが、ミカはというと「なら俺が作るよ」と二つ返事。そして出来上がったのが、リーナが今使っている、黒い二丁拳銃。なんと、『自動拳銃』という超高難度製作を軽々とやってのけてしまった。以来、それはリーナの愛銃だ。
彼の実力に感嘆したリーナは、自分を雇わないかと提案。すると「丁度パーティに遠隔物理アタッカーがいないんだ」と、パーティに入る形で雇われる、と言うことになった。
実際には、ミカが雇うための金をリーナに渡し、リーナはパーティに入りたいとドランクに提案するという流れだったのだが……いつの間にか、ドランクが雇ったということにされていた。
「ったく、うちもミカと一緒に抜けりゃよかったわ。私が用事で出かけてる間に、いつの間にか抜けてるんだもの」
後からパーティに加わったリーナは、数少ないミカの理解者であり、ミカに負担をかけまいとする唯一のメンバーであった。
実際ミカのすぐあとに抜けようとしたのだが。ミカとは「一定期間『紅蓮の閃光』のメンバーに加わる」という契約をしていた。
傭兵をしていた経験から、契約は絶対だ。もうすぐ契約期間は切れる。切れたら、すぐにでも離脱するつもりであった。
「ミカが居れば、契約破棄の相談が出来たのだけれど、すぐに行方知れずになるし……本当、どこに行ったのかしら」
ここにはいない雇い主のことを思いはせながら、言い争いの絶えないパーティの中で一人、リーナは大きなため息をついた。