6話 猫耳パーティ、温泉ではしゃぐ
「で、ミカ、何をしているんだい?」
「俺は男だ。こうしないとまずいだろう」
「キミの言い分もわからなくはない。だが両目をタオルで覆った状態でどうやって温泉に入ると言うんだい?」
ミカは温泉へとやってきていた。
温泉の中は至ってシンプルで、広めの脱衣所と、そして大きな浴室がついている。
浴室や脱衣所は大理石造りのバレンガルド様式ではあるものの、入浴スタイルは、東方の国の温泉施設を参考にしたという。
脱衣所についたミカは、中で青空の尻尾の面々が服を脱いでいることを一目見ると、すぐに彼女たちに背を向けて衣服を脱ぎ、そのまま両目をタオルで覆った。
「あらあら、気にしすぎですわ? よろしければ素肌でおっぱい揉みます?」
「やめてくれショーティア。俺も一応男だ。ちょっとその言葉は興味が出てしまう」
「いいじゃねーかよーミカ! 今はミカもウチらと同じリテール族の女だ! それにウチは別に、男に素肌見られても気にしないぜ!」
「自分は少し恥ずかしいでありますが、ミカさんなら大丈夫でありますよ!」
「……仕方ない、皆がそこまで言うなら、わかったよ」
ミカがしぶしぶタオルを外す。するとそこにはミカを囲む、裸の猫耳少女たちが。
そして見てしまった。おそらくショーティアはあれでも着痩せするタイプなのだろう。もうミカが見たことのないほど、巨大な果実がそこに。
「……やっぱりわかってない」
そう言ってミカは再度タオルで両目を覆ってしまった。
そんなミカのタオルをつかんだのはアゼルだ。アゼルはタオルをミカから外すと。
「うわっ、アゼル!?」
「はっはー! 返してほしければ温泉に入ってこいや!」
「アゼル殿! 自分も行くでありまーす!」
そのままルシュカと共に浴室へと走っていってしまった。
「あっ、アゼル!」
「あらあら」
目の前のショーティアに、思わず両手で目を覆ってしまうミカであったが。
「ミカ、そろそろ観念したほうがいいよ」
クロがミカの両手を力づくで外してしまった。
「う……せ、聖水持ってくるべきだった。失念していた」
「逆に聖水は危ないよミカ。こっちは女性用の浴室。男性用の浴室のど真ん中で戻ったらどうするんだい」
「そ、それはそうだが」
「きっとそのうち慣れるよ。さぁミカ、一緒にお風呂へ行こう」
「く、クロ! ちょっと待って……!」
「あらあら。ではわたくしも」
ミカはクロに手を引かれるまま、浴室へと連れていかれた。
〇〇〇
「うおー! 広い風呂だぜー!」
「すごいであります! 実家のお風呂より広いであります!」
大理石で作られた大きな浴室。偶然にも、他の客の気配はなかった。
見たことのないほど大きな浴室を前に、大興奮のアゼルとルシュカ。
全速力で湯船へと向かおうとする二人に、笑顔のままショーティアは。
「あらあら、危ないですわよ」
「大丈夫だって……ほぎゃあ!」
「問題ないでありま……ひぎぃ!」
二人同時に足を滑らせ、そのまま背中を床に打ち付けてしまった。
「こんなこともあろうかと、事前に持続ヒールをかけておいてよかったですわ」
そんなショーティアの様子を見てミカは。
「……なんというか、やっぱりリーダーだよなショーティア」
「あらあら、なんのことでしょう?」
「もうサブリーダーになって三週間くらい経つが、なんだかんだ一番メンバーを理解しているよなショーティア」
「あらあら、そんなに褒めていただかなくても……交尾します?」
「こんなでかい風呂で交尾ってどんなプレイだ」
「ところでミカさん、何故メガネをかけているのです?」
ミカは日常生活で身に着けているメガネを、浴室でもつけていた。
そんなミカへクロも尋ねる。クロはメガネをかけていない。
「ここでメガネを付けていたら、湯気で見えなくなるだろう?」
「それが狙いだ。湯気でくもることで、足元とかしか見えなくなるのがちょうどいい」
「……まったく、ミカは強情だね。僕たちは見られてもいいって言ってるのに」
そうして浴室の入り口で話していると、すでに湯船に浸かっていたアゼルとルシュカ。
アゼルは温泉を堪能しながら、三人を呼んだ。
「はやく来るでありますよー! とっても気持ちいであります!」
「なんだかお湯の色が白いな! ハッ! もしかして聖魔法が染み込んだすごいお湯なんじゃねぇのか!? たぶん味も……げっ! マッズ!」
「あらあら、わたくしたちも行きましょうか」
ショーティアが湯船に向かい、ミカとクロも共に湯船へと向かう。
「あれ?」
その時、ミカは気づいた。
「シイカはどこに?」
「ああ、シイかい? 彼女、すごい風呂嫌いでね。特にこういう他の人も居る風呂は苦手そうだ。きっとどこかに隠れていると思うよ」
「そうだったのか……でも皆俺は風呂に入れようとするのに、シイは入れさせようとしないんだ」
「彼女はアサシン。素早いからね。その点、キミは捕まえやすい」
「……そういうものなのか?」
疑問に思いながらも、ミカはアゼル達の入っている大きな湯船に浸かった。
〇〇〇
(このメガネは正解だったな)
湯船に浸かるミカの周囲では、青空の尻尾の面々が和気あいあいと話している。
「この温泉ってとても気持ちいいでありますな!」
「うえええ、でも味は不味いぜ」
「あらあら、飲み物とは違いますよ?」
「でもなんでお湯の色が違うんだろうね」
皆が温泉の感想を述べるなか、ミカは一人湯船の中で考え込んでいた。
(雇ったハウスキーパーはちゃんとユーキの面倒を見ていてくれているだろうか)
今回温泉に来るのに際し、ミカ達は冒険者ギルドかかりつけのハウスキーパーを雇い、家の掃除やユーキの世話をまかせていた。これはショーティアの提案だ。
(まぁきっと大丈夫だ。にしても、こうして皆と楽しく風呂に入る。紅蓮の閃光では考えられなかったな)
かつてのパーティと比べて、今のパーティはミカにとって、ある意味天国とも言える。
罵声は飛んでこず、感謝され、そして信頼され、なにより平等に接してくれる。この上なく居心地の良い空間だ。
しかし。
(どうしてもこの体には慣れないな……)
ミカはもともと男性。それも、青空の尻尾のメンバーとは一回り近く年齢の差があった。
それがドラゴンの強力な呪いがおかしな作用を起こし、今やメンバーの中でも幼い外見のリテール族の少女の姿だ。
青空の尻尾のみんなは性別関係なく、ミカに接して頼ってくれる。それはミカにとってうれしいことであるが。
「にしてもミカってちっこいよなー! 本当は男だなんてぜってぇ信じらんねーなー!」
アゼルがミカの髪をくしゃくしゃと撫でた。
その横では、ルシュカがミカのほっぺをつまんでいる。
「いやぁ、もちもちでありますな! 若いっていいであります!」
「いや、ルシュカも十分若いだろ……」
「でもでも! 実際ミカ殿のほっぺはすべすべもちもちでありますよ!」
「……」
ミカはこの外見を少し悩ましく思っていた。
一応ミカは自分を男性として意識している。ゆえに彼女たちの裸体を見るのはよろしくないと考えている。
だが青空の尻尾のメンバーの一部は『ミカは今は同じリテール族の女性だから気にしない』と言い、なおかつミカを男性だと認識しているメンバーも、ミカに大きな恩があり、なおかつミカの人柄を知ってか『別にミカになら見られてもいい』という意識を持っていた。
ある意味、ミカを本当に仲間、むしろ家族と認めている。
ミカにとってうれしいことであると同時に。
(……もうすこし恥じらいを持ってほしい)
とミカは感じていた。
幸いにも、どうやらここの温泉はお湯に何か自然の成分が含まれているようで、白く濁っている。
湯船に入っている限りは、彼女たちの裸体を見ずに済んでいた。
(こうなってしまったものは仕方がない。できるだけ、今を楽しもう)
そう考えたミカは、温泉の湯を手ですくいあげた。
「なるほど……やはり火山ゆかりの成分が含まれているようだ」
「あらあら、このぬるぬるした白いお湯は、火山の影響ですの?」
「おそらくな。確か以前のパーティで遠方の火山地帯にあるダンジョンに行ったとき、その付近で白く濁ったお湯が吹き上げていてな。間欠泉と言うらしいが、その時に見た色と似ている」
「ミカ、マグマというものには、強大な魔力が含まれていると聞く。ということは何か悪いものが入っているんじゃ……」
「いや、そんなことは無い。むしろ美肌や病に高い効果を発揮すると聞いたことがある」
「美肌でありますか! 自分たちの肌も、もっとすべすべになるでありますな!」
「でも、お湯の味は不味かったぜ……」
そのように、ミカが皆と雑談をしていた時だ。ミカはあることに気づいた。
「皆、風呂に入っているときの尻尾の様子、違うんだな」
リテール族特有の猫の尻尾。その尻尾を立てて湯船から出しているアゼルやルシュカ。一方ショーティアやクロは湯船の中に入れていた。
ミカはというと、無意識に尻尾をすべて湯船に入れている。
ミカの疑問に対して、クロが口を開いた。
「そうだね。僕は尻尾の毛が長いから、水を含んだまま立てると重いんだよね。とは言ってもほぼ無意識だけど」
「わたくしは長いというわけではありませんが。ミカさんのお話で気づきましたわ」
「なるほど、二人は無意識なのか」
「自分も毛が長いでありますが、長いためかちょっと熱いので出しているであります!」
「ルシュカは意識してるんだな。俺はまだ意識して尻尾はうまく動かせないな」
ミカが関心していると。いつの間にやらアゼルがミカの背後に回っていた。そして湯船の中をまさぐると。ミカの尻尾を軽く掴んだ。
「わっ! アゼル、どうした!?」
「いやいや、ちょっとおもしろいことをな」
するとアゼルは、次に側にいたクロの尻尾をつかんだかと思うと。
「アゼル、僕の尻尾とミカの尻尾で何をする気だい?」
「へへへ、これをこうしてな」
二人の尻尾を湯船に沈めたまま、二人の尻尾に何かをするアゼル。数秒後。
「いいぜー」
「まったく、僕の尻尾に何を……なっ!?」
「俺とクロの尻尾が……」
ミカとクロが湯船から尻尾を出すと、そこにはお互いの尻尾を、お互いの毛で結ばれた光景が。
そんな尻尾を見て、アゼルは爆笑する。
「ぎゃっはっはっは! 結んでやったぜー! 二人は毛が長いからできると思った!」
「な、なんだいこれは!? アゼル! はやくほどいてくれ!」
「クロ、尻尾をあまり揺らすな! く、くすぐったい!」
クロが尻尾をバシャバシャと湯船の上で動かすと、ミカの尻尾もそれにつられて動いてしまう。まだ尻尾の感覚に慣れきっていないミカはくすぐったさを感じていた。




