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5話 猫耳パーティ、温泉へ

 ヴェネシアートから比較的近い地域には、いくつか鉱山が存在する。

 どうやらかつては火山地帯だったらしく、ヴェネシアートから少し離れた場所では、火山ゆかりか、様々な良質の鉱石が採取できた。

 需要の変化によって、現在では採掘の規模が縮小し、廃坑となった鉱山も多く存在する。

 そんな話を、温泉宿に向かって歩くミカは、クロやルシュカ、アゼルに話していた。


「俺も良質な鉱石が取れるって知ってるから、何度か鉱山にお邪魔したことがあってな。温泉の話は聞いていたが、行ったことはない」

「へー、すげーな。やっぱミカってウチらよりヴェネシアートに詳しいんじゃね?」

「一応俺、みんなより年上だからな?」

「そうでありました! 忘れていたであります!」

「まぁ、こんななりじゃ、仕方ないか」

「ところでミカ殿! 温泉ってどうやってできるでありますか?」


 ルシュカに質問され、ミカは続けて温泉について話し始めた。


「ああ、地底には高い熱の魔力を多量に含んだ、マグマってのが流れてるのは知っているな?」

「僕も本で読んだことがあるよ。そのマグマに温められて、温泉ができるんだよね?」

「ああ。火山の多くは活動を休止しているが、どうやらその温泉の周りの地底にはまだ、マグマだまりってのがあるらしくてな。それに地下水とかが温められて、温泉がこのあたりには沸くらしいな」


 カゴン達と別れた翌日。ミカたち青空の尻尾パーティは、その温泉宿というところを探し、森の中にある街道を歩いていた。


「温泉って、でっけー風呂だろ? でっけー風呂にみんなで入るときは、水着着るって聞いたぜ。水着貸し出してっかなー」


 アゼルがそう話すと、ミカは少し考えこんで答えた。


「俺が聞いた話では、このあたりの温泉宿は、世界の様々な様式の温泉宿があるらしい。もしかしたら、必ずしも水着は必要ないかもしれないな」

「おー? なんでだ? 温泉って風呂だろ? でっけぇ風呂に皆で入るときは水着が普通じゃねぇのか? バレンガルドじゃそもそもでかい風呂にあまり入らねぇけど、属国でいくつかそうやって入ってるって聞いたぜー」

「確かにそうだな。だが大きい風呂への入り方は世界中で様々だ。ヴェネシアートという港町が近いってのもあって、いろいろなタイプの温泉宿があるらしい」

「たとえばどんなのでありますか?」

「俺が聞いた話では、有名なので言うと東方様式だな。裸で入るらしい」

「裸でありますか! 解放感があって良いでありますな!」

「俺はできれば、水着を着たほうがまだ良いんだが……」


 と、話していると、皆を先導していたショーティアは。


「あらあら、偶然! 本日向かっているのは、建物こそバレンガルド様式ですが、入浴は東方地域のものを採用しているところですわ」

「え……それはつまり」


 ミカが少し動揺する。それはつまり、裸で複数人で風呂に入るスタイルということだ。

 そんなミカに対してショーティアは満面の笑みで言った。


「裸の付き合い、という言葉があると聞いたことがありますわ。今日は皆さんで親睦を深めましょう!」


〇〇〇


 ショーティア先導で着いたその温泉宿というのは、言ってしまえば少し大きめな冒険者用の宿屋みたいなものであった。

 まずは客室。質素なベッドと質素なドレッサー。最低限の設備がそろっていた。

 そして特徴的なのが大きなレストラン、数十人は入れるかという、大きなレストランが併設されていた。

 だが、一番の目玉は温泉。決してとても大きいとは言えないものだが、十数人がくつろげるほどの広さを持っている。

 ミカたちはその宿に着いたあと、ショーティアが受付を済ませ、各々自分の客室へと向かった。


「ふぅ、ちょっと疲れたねミカ」

「そうだな。どうもこの体だと、疲れやすい。いまだに慣れないな」


 客室は二人一組。それぞれくじ引きを行い、ミカはクロと一緒の部屋になっていた。

 

「ミカと二人きりか。なんだか変な気分かもしれない」

「そう言えば、二人同じ部屋で寝るってのは初めてかもな。パーティハウスではアゼルと一緒の部屋ではあるが」


 予定では少し休んでからみんなで風呂に行くという話をショーティアとしている。

 ミカとクロは持ってきた荷物を部屋の片隅に置いたあと、部屋のベッドに座って雑談を始めた。

 

「それにしても、僕たちがこんな良い宿に来れるなんて。決して安くなかったはずだ」

「魔鏡石の売り上げが、ちょいちょい商人ギルドから入って来てるからな。金には余裕があるはずだ」

「そう言われると、全部ミカのおかげかな。本当にすごいよミカは」

「別に俺一人の力じゃない」

「だとしても、ミカの力が大部分を占めていると思っているよ僕は」

「そうかな……前のパーティではそんなこと言われなかったからな」


 ミカが前のパーティ、という言葉を発すると、クロが少し俯いた。


「ミカ……ライアスのことは……すまない」

「え? なんでクロが謝るんだ?」

「いや、あの時大きく取り乱して、迷惑をかけてしまった。もう過去のことのはずなのに」


 ライアスが店にやってきたとき、クロは大きく取り乱した。ミカとショーティアが落ち着かせてくれた、もし二人が居なかったら。


「あとでショーティアにも謝らないといけないね。僕は弱虫だ」


 自分を卑下するクロに対して、ミカは言う。


「ショーティアはクロの過去について知っているのか?」

「そうだね。僕の過去のことは、ショーティアとキミにだけ話しているよ」

「クロ、俺からのオススメだが、ショーティアには『ごめん』じゃなく『ありがとう』と言うべきだと思うな」

「……どうしてだい?」

「それは、なんというか、クロが取り乱したのは事実。だけれど、取り乱してある意味当然だ。自分を襲った奴がのうのうと現れたんだ」

「それは……」

「はっきり言って、取り乱すのは仕方がない。俺もショーティアもそれはわかっている。だからこそ、謝るんじゃなくて、ありがとうという言葉が合っている。というより、俺はそのほうがいいかな」

「そうか……じゃあ、改めて言わせてほしい」


 クロは自分のベッドから立ち上がると、ミカの座るベッド、その隣へ座った。

 そしてミカの肩に頭をこつんとつけると。


「ありがとう。ショーティアやミカのおかげだ。二人や皆が居なかったら、僕はもっと取り乱していた」

「クロ……大丈夫だ。何かがあっても俺が守ってやる」


 と、ミカは自分の肩にもたれかかるクロの感触を、その肌身で感じていた。


(改めて思うが、やはりクロは女の子だよな)


 ミカは青空の尻尾に入る以前は、幼馴染のミューラ以外に女性との縁が無かった。

 そして青空の尻尾に入ったあとも、メンバーに異性に対する意識というのは強く感じていなかった。

 それはミカの好みが単純に、元の男性の体の年齢と同年齢、少なくとも20歳以上の女性が好みであったというのが大きい。

 体付きが成熟寄りのショーティアに対しては、その発言などに動揺することはあっても、16歳前後とまだ幼いと言える他のメンバーに、異性のそれを抱くことはほとんどなかった。

 しかし、以前クロと風呂に入ったときのように、肌と肌が触れ合うような状況では、どうしても意識してしまう。そして今この状況も。


(何故だ、鼓動が早くなる)


 クロとミカは、今の外見年齢では、むしろミカの方が幼く見えると言ってもいい。

 だが実年齢では一回りは離れている。ミカからすれば、異性として見る対象外の年齢であるはずだが、それでもミカの心臓は高鳴っていた。

 故に、ミカは、どうにか別のことを考えようとする。


(そうだな、別のこと……温泉とか。いや待て。この後、俺は温泉へ行く。温泉では裸。それはあまりよろしくないんじゃないか)

 

 少なくとも恋人などでない限り、異性同士で肌を晒すのはよろしくないと言われている。

 

(俺は男だ。確かに今の外見は女、それもリテール族だが、それでも好ましくないことは事実。なんとか皆に相談し、俺の入浴だけは時間をずらしたほうが良いかもしれないな)

 

 そんなことをミカは考えているが、相変わらずクロはミカの肩にもたれかかる。

 ミカは高鳴る心臓を抑えるため、なんとか別のことを考えようとするが。


「ミカ、どうしたんだい?」

「……」

「ミカ!」

「に゛ゃっ!?」


 考え込んでいる最中、突然近くでクロに呼ばれたミカは驚き体勢を崩してしまった。


「おわぁ!」


 それにつられて、クロも体勢を崩す。二人一緒にベッドから転がり落ち、もみくちゃになったかと思えば。


「クロ……大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だよ……え!?」


 床に倒れた二人。その体勢はというと。


 クロは床に寝っ転がる形。

 その上からクロの両手をつかみ、まるでクロを床に押し倒したかのようになっているミカ。


「……」

「……」


 お互いが何も言わない。お互い今の自分たちの体勢に気づいてか、お互いに顔を赤くして見つめ合っていた。

 そのとき。どこからか二人じゃない声が聞こえた。

 

「……にゃ」


 その声にミカとクロは飛び起き、顔を真っ赤にしながらベッドに座りなおした。


「だ、誰だ!?」


 ミカが慌ててその声がした方向を見る。するとそこには、どこからか忍び込んだのか、シイカの姿がベッドの側にあった。

 シイカはミカと目が合うと、そのまま素早い動きでベッドの陰に隠れる。そしてベッドの陰から手だけを出すと、部屋の出口を指さした。

 それを見たクロは。


「えっと、シイ、ショーティアが呼んでるってことかな?」


 するとシイカはベッドの陰から出した手で、親指を立てるサインをした。かと思うと、素早い動きでベッドや壁の陰に隠れながら、客室の外へと出て行ってしまった。

 呆然とする二人。


「ええと、なんというかクロ、大丈夫か?」

「ああ、僕は大丈夫。ミカこそどうだい?」

「問題ない……」


 数秒黙った二人。お互い顔を真っ赤にしながらも、お互いの顔を見ることなく過ぎる。

 そして口を開いたミカは、提案した。


「……温泉、行くか」

「……うん」


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