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3話 猫耳ソーサラーの元パーティリーダー

「ミカ、それなら僕も聞いたことがある。いや、僕に限らず、バレンガルド王国とその属国に住んでいる者なら、歴史として知っていることだ」


 かつてバレンガルド王国の王が、一人の冒険者によって殺害された事件。それはこの国では、一般常識に等しいものだった。


「その通りだクロ。その事件で各種警備体制が見直されたり、あとは俺たちに係ることで言えば、冒険者パーティを追放された者の風当たりがすさまじく悪くなった。その傾向は今でも続いている」

「あ、それならあたしも知ってるわ。でもおかしくね? 確かその冒険者ってヒューマンっしょ。あたしたちみたいなリテール族は関係ないじゃん」

「そうだな。今ではそうなんだが……」

「ミカ、当時は違かったとでも言うのかい?」

 

 クロの問いに、ミカが首を縦に振る。


「殺害されたのは王だけじゃない。その冒険者は大空洞から持ち帰った危険な遺物、無数の魔法を四方八方に乱射する制御の利かない遺物を用いて、王国の式典中に大虐殺を行った。王だけじゃない。多くの貴族、一般市民も亡くなったという。その数は、3万を超えるとか」

「僕もそんな話は知ってるよ。でも確か、その犯人の冒険者は」

「そう、捕まらなかった。目撃証言は多数あったのに、そいつの足取りはさっぱりつかめなかった。当時の貴族、市民は恐怖し、いち早い犯人の逮捕を望んだ。多くの冒険者も捜索した。だが、一向に見つからない。そんな焦燥、苛立ちは、そのうち犯人ではなく、別の者に向けられた」


 その苛立ちが向けられた先というのが。


「その冒険者を追放したSランクパーティ。そのリーダーだった。そしてその冒険者パーティのリーダーは、稀に生まれる、リテール族の男性だった」

「リテール族……でもミカ、おかしくないかい? その冒険者パーティが行った判断は正しかったはずだ。危険人物と感じたからこそ、その犯人をパーティから追放したのではないかい?」

「ああ。実際追放されたのは別の悪事を犯したからで、追放後に犯人は王国の牢獄に拘留されていた。牢屋の管理者がヘマをして逃がしたからで、そのパーティは悪くない」

「クロさん、嫌なお話ですが、ヒトというものは怒りを感じた時、それをぶつける対象を探してしまうもの。当時はかつて奴隷だったリテール族が様々な分野で台頭してきたこともあり、仕事や立場を奴隷に奪われたと感じたり、リテール族はヒューマンより劣っていると考えていた方々が不満を持ったりと、リテール族を嫌うヒューマンが多くいらっしゃいったらしいですわ」


 犯人が捕まらない苛立ちを抱える者たちにとって、リテール族のパーティリーダーというのは、あまりに都合が良かった。


「最初は『犯人が犯行に及んだのはパーティリーダーの責任だ』という話から始まり、それが『犯行を指示したのはリーダー、実質犯人はリーダーだ』と話が広まった。リーダーは無実であることは確かだったが、いつしか命を狙われるようになり、ついには冒険者パーティを解散し、王国に保護されるまでに追い込まれた」

「ですが、それでは終わらなかったらしいですわ。噂が噂を呼び、ついには『犯人は実はリテール族だった』とデマが流れた。そんな状況で現れたのが『ヒュートック』だった。王国に鎮圧されたが、わずかに残った者が活動を続けていたらしい」


 そしてそのヒュートックは、王国各所でメンバーを集めた。


「貧困層や、元から奴隷解放に良い思いを持っていなかった者など、王の殺害事件でリテール族のデマが広まったこともあり、一気にメンバーが増え、全盛期では100万人を超えるメンバーが集まった。一部の貴族も参加したことで、政治的な影響力を得たその組織は、各所でヒューマン以外の種族に対する暴行、弾圧を行った。特にリテール族への弾圧がすさまじく、王を殺害したのはリテール族というデマを理由として、『リテール族絶滅活動』と称して、大量殺戮が行われた」

「その活動は、ヒュートックが新しい国王を暗殺しようとしたことが露見するまで続いたらしいですわ」

「新しい国王は種族による差別に否定的な王だったらしくてな。快く思わなかったヒュートックが暗殺を計画するが失敗。かつての大犯罪者と同じことを計画したと、多方面から非難され、なおかつ所属する貴族が逮捕された結果、ヒュートックの規模は縮小したと言われている」


 しかし、ヒュートックの行った大量殺戮の傷跡は、消せないものとなっていた。


「リテール族の数は、その数年の間に大きく減少し、ヒュートックが縮小するまでに3%を切ったらしい。新しい王によって正しい情報が出回ったにも関わらず、差別意識が各所に残ったのもあって、この350年でじわじわ減少し、今に至るんだ」

「そうか……そんな理由だったんだね。その組織が無くなってよかったよ」

「正確には、縮小しつつも350年経った現在も組織自体は続いているとか。だが、かつてと比べると規模はあまりに小さい。まともに活動もできない状態だと、聞いたことがある」

「うげー、いやなヒューマンもいるもんだわ。ま、一部のヒューマンが頭おかしかっただけっしょ。あたしはカゴンを愛してるしー」


 と、キリザがカゴンの方を見る。そこには肉を貪り食う、カゴンの姿があった。

 そんなカゴンを見て、キリザが恍惚の表情を浮かべる。


「でへへー、やっぱ素敵だわー」

「……まぁ、確かにキリザの言う通り、悪いのは一部のヒューマンだ」

「そうですわね。もし逆の立場でしたら、一部のリテール族が同じことをしなかったという保証もありませんわ」

「そうかもね……リテール族にだって悪い人はいるだろうし。あれ、でもちょっと待ってほしい」


 クロが一つの疑問をミカに尋ねた。


「どうした?」

「僕が聞いた話だが、結局、その王を殺害した冒険者は見つからなかったらしいが……」

「ああ、どうやらそのようだな。だが、昔の話だ。もう俺たちには関係ない話だが」


 と、少ししんみりとした雰囲気になっていたところ、ショーティアが口を開いた。


「では、このお話はここまでにて、食事を続けましょう!」

「そうだね。ミカ、ショーティア、話を聞かせてくれてありがとう」


 と、クロが食事に手を伸ばしたときだ。

 同時に、店へ新たな来客があった。それは冒険者の集団だ。


「クロ、どうした?」


 ミカはクロの様子がおかしいことに気づいた。その顔は血の気が引いいている。明らかに、恐怖を感じている様子だった。

 

「み、ミカ……あのパーティは……」


 クロの視線の先には、来店した冒険者の集団が、受付で店員と話している様子。

 おそらくはリーダーと思われるヒューマンの男性が、店員と話していた。

 そんな男性を見て、クロが震える声で、ミカに告げた。


「僕はあのパーティの……あの男に、襲われた……」


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