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5話 サポートヒーラー、料理をする

 その後、ミカはショーティアから、パーティについての情報を詳しく聞いた。


 リテール族の少女で結成されたパーティ、『青空の尻尾』。

 リーダーは聖魔導士であるショーティア。ヴェネシアートの港町にある冒険者居住区画、そこの端の端にあり、崩壊寸前であったために格安だった、小さな屋敷をパーティハウスとして活動している。

 曰く、主に他のパーティや仕事で問題を起こし、追放されたり脱退してきたり、もしくはわけあって故郷に居られなくなったようなリテール族の少女たちで構成されている。全員リテール族なのは意図したものではなく、偶然とのこと。

 所属しているのは、メインヒーラーが1人、アタッカーが2人、タンクが2人。全員で5人だという。うちタンク1人とアタッカー1人が現在入院中だ。

 ここに、サポートヒーラーであるミカが加わる形となった。


「ふわぁ……」


 翌日、ミカは自分にあてがわれた一室で目覚めた。

 一室、と言っても屋敷は決して広いわけではなく、さらにあまりにボロボロなため、使えない部屋も多い。

 複数人が同じ部屋で寝ることは多く、おそらく彼女たちが作ったであろう、手作りの二段ベッドで寝ている。

 同室では、アゼルがいびきをかいて寝ていた。


 目覚めたミカは、ベッドの上で座りながら、自分の姿を確認する。

 クロに貸し出された白いパジャマを着ている。ミカは自分の胸元に触れてみた。

 やはり、男性にはない、やわらかい感覚がそこにある。


「夢ではないか。やはり、違和感はぬぐえないな」


 起き上がったミカは、朝の支度を始めた。

 服は、アゼルが貸してくれるという。さすがに女性的な服はまだ抵抗があったため、男性寄りの服が多いアゼルから借りることとなった。

 自室で貸し出された服に着替える。若干サイズが大きいが、袖をまくれば問題はない。


「やっぱり周囲が大きく感じるな。早く慣れないと。さて、朝やらないといけないことは……」


 準備を終えたミカは、その足でキッチンへと向かった。


「あいつら、生活力無いな」


 キッチンはそれはひどいありさまで、洗っていない食器などが山積みであった。

 加えて、調味料がそこかしこに散乱している。キッチンの端に置いてあるごみ箱からはごみがあふれかえっていた。

 キッチンの隅にある食糧庫を開くと、古めの野菜や穀物しか無い。明らかに安物なのは見て取られた。他には卵や牛乳のビンといったものも置いてある。これらは比較的新しめだ。

 食糧庫にあるツボを一つ開く。中には粒が粗めの白い粉末が。

 一つまみ、ペロリとなめてみる……


「……舌は変わらないか」


 そしてくんくんと匂いをかいだミカは。


「塩か。調味料は十分にありそうだな」


 ツボの蓋を閉めたミカは、再度周囲を見渡した。

 

「とりあえず掃除と、朝飯を作らないとな。素材は使いすぎない程度で……」


 まだ外は日が昇ったばかり。まだ皆が起きてくるまで時間があるだろう。

 ミカは前に居たパーティの癖で、朝一番に起きてしまっていた。

 そしていつものように、朝ご飯の調理を始めた。


…………


 ミカが一通り料理を終えて、広間のテーブルに並べていると、そこに寝起きのクロとアゼルがやってくる。


「お、二人ともおはよう」


 ミカは挨拶をしたが、とうの二人は広間の光景を見て呆然としていた。


「僕はまだ夢をみているのかい?」

「どうだかなー。ほっぺつねっても目覚めねぇし」

「夢じゃなければ、長い間見たことのないような美味そうな料理がテーブルに並んでるってのはおかしいだろう」

「なんだろうなー。知らない食べ物が並んでるじゃねぇかー」


 アゼルのその言葉に、ミカは自身の作った料理の解説を始めた。


「そっか、あまり知らない料理かもな。この野菜スープはアイントプフって言って、西方にある国ではメジャーな野菜スープだ。俺独自にちょっと味付けはしているが。これは普通のパン。一応焼き立てだぞ? 小麦粉が食糧庫にあって、酵母の持ち合わせがあったから、焼いてみたんだ」

「じゃあ、この甘い匂いはなんだってんだ?」

「ああ、焼きプリンを作ってある。デザートにね」

「ミカァ、お前スゲェかよ」


 ミカは言葉の意味が分からず首を傾げた。そんなミカに対してクロは。


「ミカ」

「なんだ?」

「抱きしめてもいいかい?」

「え? えっと、食事のあとなら」

「クロ! そんなことより早く食おうぜ! ミカ、ウチはちょっとショーティアを呼んでくる!」

「あらあら、起きてるわよ?」


 そこにショーティアが現れた。見れば、外出用に整った衣類を着て、手にはなにやら書類のようなものがある。

 

「どこかへ行ってきたのか?」

「あらミカさん。ええ、ちょっと用事を……あらまぁ素敵なお料理! これほどのものは、お母様が亡くなる前に食べて以来ですわ!」

「え? それって……」

「まずは食事にしましょう! それと、食事後に皆さんにお話ししたいことがありますわ」


 ショーティアの言葉に、全員がテーブルに座り。食事を始めることとなった。


〇〇


「かぁー! 美味かった! これならいくらでも食えるな! ミカァ、食後の運動に手合わせしねぇか!?」

「ミカ! このプリンはもうないのかい!? 無いのかい!? 僕は気に入ったよ!」


 体を動かしたくてうずうずしているアゼル、瞳を輝かせ、プリンを所望しているクロ。

 だが、ミカ自身は別のことを気にしていた。


「あら、どうしました? 少々浮かない顔をしていらっしゃいますが。わたくしとえっちしたいのかしら?」

「さりげなく変なことを言わないでくれ」

「どうしたんだいミカ。全然食事に手をつけていないじゃないか」


 クロが疑問に思うのも当然だ。ミカはパンを一個の半分しか食べきれず、スープにもほとんど手をつけていなかった。


「いや、実は結構味見をしたから、それで腹が膨れてしまってさ」

「そうですわねぇ……あとは女の子になって、胃が小さくなったのではないかしら?」

「余ってるなら、ウチが食うぜー」

「プリンは残さないのかい!?」


 アゼルやクロがミカの残した食事に手を付けようとした、そのとき。


「こほん……ところで1つ、お話がありますわ」


 そういうと、ショーティアは手にしていた書類を、テーブルを囲む3人に見せた。


「このたび、新しいパーティメンバーを、冒険者ギルドで正式に登録してきましたわ!」


 見れば、その書類は、『青空の尻尾』パーティに、正式に新メンバーが登録されたという書類だった。

 パーティというのは、王国に認められた冒険者の一団を指す。パーティの結成には、王国が管理している冒険者ギルドに申請が必要で、メンバーが新規加入した際も登録が必要となる。

 ショーティアは、ミカを登録しに行っていたのだ。

 その書類を、ミカは目を細めて見つめていた。


「ん、ミカで登録されてる……」

「あ……あら、わたくしとしたことが! 本名はミルドレッドさんでしたわね! すぐに訂正を……」

「いや、むしろそれでいいよ。ある意味、偽名としても使えるし。偽名のが俺だってバレづらいだろうし」


 これで正真正銘、ミカはパーティメンバーへと加わったことになる。


「よし、じゃあ新人らしく、雑用でもこなすとしますか」

「いやいや、キミは何を言っているんだい? Sランクの冒険者に雑用なんてまかせられないよ。恐れ多い」

「大丈夫。まかせておけって。雑用は慣れてるんだ」


 大きく伸びをしたミカは、心の中で呟いた。


(んじゃ、新しい家でもクラフトしますか)


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