2話 サポートヒーラー、歴史を語る
ミカたちはカゴン達に連れられ、ヴェネシアートのレストランへとやってきていた。
「がっはっは! さぁ猫たち! 好きに食え!」
ミカたちの囲む大きなテーブルの上には、大量の肉や魚の料理が積みあがっている。
「おおー! うまそうだぜ!」
「では遠慮なく食べちゃうでありまーす!」
「おうおう! 好きに食え! 俺は酒でも飲みながら食うとしよう!」
テーブルを囲む青空の尻尾たち。ルシュカとアゼルは肉や魚をカゴンと共にむさぼり食い、ミカ、ショーティア、クロは、リテール族の女性、キリザと共に談笑していた。一人、シイカだけはテーブルの下で、チキンナゲットという、揚げたチキンの料理を無言でもしゃもしゃしている。
「というか、マジ珍しいわねぇ。同族に合うのなんて、数か月に一回あれば多い方なのに、よもやリテール族だけのパーティなんて」
キリザが青空の尻尾を見て感嘆する。それほどに、リテール族だけのパーティというのは珍しい。
「あらあら、本当に偶然ですわ」
「偶然にしては、すごいじゃん? だってあたしらリテール族ってさ、ヒトが数百人いれば、そのうち一人くらいしかいないんだって言われてるし、えーっと、それが6人だから、たぶん何万分の一? マジすごいって」
「確かに僕たちのパーティって珍しいのかもね。でもどうして僕たちリテール族って少ないんだろうね」
「そうだねー、マジあたしら少ないし」
クロの何気ない言葉に、ミカが少し複雑な表情を浮かべた。ショーティアも同じだ。
そんなミカの反応を見て、クロが首をかしげる。
「ミカは知っているのかい?」
「そこのパツキン赤目のちっこいのは知ってるの?」
「ちっこいって……いや、間違ってないかもしれないが」
かつて男性の頃は決して低い身長ではなかったが、パーティメンバー以外に小さいと言われ、ミカは少し複雑な気分になった。
(そんなに俺って小さいのか? 確かにクロに比べても身長も体付きも幼いが……)
ミカは気を取り直そうと、首を横に振る。
「一応、以前王都の図書館で歴史を調べていた際、それらしい理由が書いていた」
「ですが、あまり楽しいお話ではありませんわ」
「確かにな……ショーティアも知っているのか」
「わたくしも神学院時代に学びましたので」
少し話すのをためらうミカであったが。
「いいじゃんいいじゃん。減るもんでもないし、歴史でしょ? 今のあたしらには関係ないじゃん」
「そうだね。僕も知っておきたい。良かったら話してくれないかい?」
「二人がそう言うなら、話そうか」
ミカが、何故リテール族が少ないかを、二人に話し始めた。
「リテール族がかつて、奴隷やペットとして扱われていたことは知っているな?」
「ああ、それなら僕も知っているよ。僕の故郷では、それに近い差別が根付いていたからね」
「今から約四百年近く前。バレンガルド王国が、バレンガルド帝国だった時代は、まだリテール族はそう扱われていたらしい。リテール族に限らず、奴隷制というものがあったそうだ。リテール族は代表的な奴隷の種族。当時から冒険者は存在したが、冒険者になることすら許されなかったとか」
「ですが、当時の平和主義の王様が、国の名前を帝国から王国へ変えた際、奴隷制を廃止し、リテール族は一つのヒトの種族として扱われるようになった……らしいですわ」
「奴隷制から解放されたリテール族だが、その当時はヒトの種族の5%から10%は、リテール族だったと言われているんだ」
「マジで!? 今よりずいぶんと多いじゃん。なんで減ったの?」
奴隷制から解放された。それなのに数が減る。その理由について、ミカは話す。
「まず一つは、あまり言いたくはないが、リテール族はヒューマン族の男の慰み者だった。リテール族が生まれる際、女性で生まれる可能性はほぼ100%と言われている。何人もの子供を産まされた結果、奴隷であっても数は少なくなかった。奴隷制から解放されて、子供を産まされることが少なくなった結果、リテール族の数は増えづらくなったとは言われる」
「わたくしが聞いたものと同じですわ。ですが、増えづらくなっただけです。減る理由にはなりません」
「え、それじゃ、なんでリテール族は減ったんだい?」
クロが訪ねる。少し話づらそうにするミカだが、クロとキリザは話しに興味深々。ミカは話すことにした。
「奴隷制が終わったが、それを良しとしないヒューマン族たちが、一つの組織を作ったんだ。それが『ヒューマン・トラスト・クラン』。略して『ヒュートック』と呼ばれる組織だ。最初は小さな組織だったが、次第に人数が増えて過激化。一種の宗教団体とまで言えるようになった」
「げー、経緯からして嫌な感じじゃん」
「聞く限りは最低の組織だ。徹底的なヒューマン族至上主義。他種族への脅迫、暴行は日常茶飯事。特にリテール族に対する迫害がひどかった。何人ものリテール族が襲われ、命を落としたとか」
「そうなのか……だが一つの組織に、種族の数を減らせるようなことはできるのかい?」
「いや、当時はそこまでは至らなかった。王国もこの組織を一つのテロ組織として認定し、鎮圧したんだ。一時はそれで消滅したと思われていた。だが50年後……今から350年前、とある大事件が起きた」
ミカが話す、その大事件というのが。
「とあるSランクパーティを追放された冒険者が、当時のバレンガルド王を殺害した事件だ」




