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中編:猫耳パーティ、猫を飼う その2

「うひゃー! かわいいでありますなー!」


 その子猫はパーティハウスへと招き入れられた。

 今は広間の床で寝っ転がっており、それを見たルシュカがだらけきった笑みを浮かべている。

 そんな状況に首をかしげているのはクロだ。クロはミカに疑問を投げかける。

 

「……なんで猫が居るんだい?」

「いや……なんというか……俺たちについてきた」

 

 猫は自分の手をぺろぺろとなめて毛づくろいしている。そんな猫にルシュカは手を伸ばし。


「少しくらい撫ででも良いでありますよね……?」


 猫の頭を撫でようとした。しかしその瞬間、凄まじい勢いのネコパンチが放たれ、ルシュカの手には小さな爪傷が。


「ぎえー! 痛いであります!」

「あらあら……ルシュカさんこちらへ。ヒールをしますわ」

「うう……お願いするであります。」


 涙目になりながらショーティアからヒールを受けるルシュカ。そんなルシュカにミカは尋ねる。


「猫、好きなのか?」

「はい! 大好きであります!」


 ルシュカの返答。それはまさに秒速。いや、1秒にも満たない速度での素早い返答だった。


「あの尻尾! 耳! それはもう、モフりたくてモフりたくてたまらないであります!」

「ねぇルシュカ。僕たちの頭には同じ猫の耳があるし、尻尾だってあるよ。モフるのなら、自分のものをモフればいいじゃないか」

「クロどのはわかっていないであります!」


 ビシッとヒールが終わった右手の人差し指を伸ばし、クロに向けたルシュカは熱弁する。


「自分の耳や尻尾では味わえないのであります! 膝の上に収まるような小さなもふもふ……昇天してしまいそうなほどのもふもふ……まさに殺人毛玉であります! これは自分の、いや、リテール族の耳や尻尾では味わえないものなのでありますよ!」

「……そういうものなのかなミカ。ん? どうしたんだい」


 ルシュカの熱弁を聞いてミカは、心の中で呟いた。


(わかる)


 しかしミカはそれを口にしない。何故なら。


「ミカどのはもっと猫をもふもふしないでありますか?」

「いや、よく見たら首輪も無い。ノラ猫のようだし、まだなつかれていないと思うし」


 とミカが主張したときだった。

 ぺろぺろと自分の手をなめていた猫が、突然部屋の片隅を凝視した。そこには、机の下から様子を伺っていたシイカの姿が。

 そんなシイカの姿を見た猫は。


『グウゥゥ……フシャー!』


 身をかがめながら、シイカを威嚇し始めた。それに対してシイカは、なぜか猫と同じような身をかがめたポーズを取りながら。


「ふしゃー」


 なぜか同じような威嚇をし始める。もっとも、猫と違って声に張りはなく、ただ真似をしているだけのように見えた。

 その様子を見た猫はなぜかシイカへの威嚇をやめて、おもむろに歩き出す。そのままミカの側へと向かうと、ミカの足に体をこすりつけ始めた。


「ミカどの、なつかれているようであります! うらやましいであります!」

「そ、そうか……抱きかかえてみるか?」


 ミカが猫の体を掴み、抱きかかえる。すると猫は、ミカに抵抗することなく、そのまま抱きかかえられた。


「すげーじゃんミカ! ほんとなつかれてるなぁ! どうやったんだ?」

「いや、俺は何も……」


 なぜなつかれているいるかはわからない。しかし、なつかれていることは事実だ。それはつまり。


(もふもふしていいということか?)


 動物を抱きかかえてもふもふ触れるという行為。それは動物から許しを、つまりは懐かれていないとできないことだ。今、ミカにはその資格があるということになる。

 その事実に気づいたミカは、もふもふしようとしかけた。しかし。


(見られてるよな)


 周囲には青空の尻尾の皆が居る。そして皆の視線は、ミカと、ミカの抱きかかえた猫に集中している。

 そしてミカは思い出していた。かつてバレンガルドで活動していた日々のこと。ある日高級な店の並ぶ、貴族御用達の繁華街に用事があって行った際、飼っている犬を散歩させているらしき貴族の男性を見かけたことを。

 その男性は見た目は美男子と呼べる姿をしていた。しかしおもむろに立ち止まったかと思うと、突如かがんで犬をなではじめ。

『ヨーシヨシヨシ、チュカレマシタネェ、休憩シマショウネェ』

と甲高い声で言い始めたこと。


(そこそこ歳のいった男があれをやると……)


 ミカはあの光景を見て依頼、動物をもふもふしたいと言う気持ちを持ちつつも、それをずっと我慢していた。それは今も同じである。


「く、クロも抱っこしたら……どうだ?」


 ミカはもふもふしたい欲に耐えきり、抱きかかえた猫をクロに渡そうとした。

 しかしミカに猫を差し出されたクロは。


「ひっ……!」

「え? どうしたんだクロ」

「あ、す、すまない……実は」


 すると、猫はクロに興味があったのか、ミカに抱きかかえられながら右手をクロに伸ばした。するとクロは。


「きゃああああ!」


 叫び声をあげて、床にしりもちをついてしまった。その様子から、ミカだけでなく、他の皆も気づく。


「あらあら、もしかしてクロさんは」

「猫、苦手でありましたか?」


 クロはしりもちをつきながら、首をこくこくと振った。


「む、昔ちょっと色々あって……苦手なんだ」

「あらあら……でも、苦手か好きかは人それぞれですし、仕方ないですわ」

「あー、でもなんだかよぉ。飼うって雰囲気だったけど、クロが苦手じゃどうなんだ?」

「いや、そこは大丈夫……その、僕は猫と目を合わせるのが苦手で……目を合わせなければなんとか。それに」


 ミカが猫を床に置き、手から離す。やはり猫は『にゃあ』と鳴き声を発しながら、ミカの足元にくっついてまわった。

 

「ミカにこんなに懐いている。このままじゃ可愛そうだ。この子を飼うのはどうだろうか?」


 一番苦手であろうクロ。クロがそう言うのなら、反対する意見は一つも出なかった。


「あらあら。クロさんがそうおっしゃるなら。どうやら首輪もありませんし、飼い猫では無い様ですわ。おそらく野良のようですし、わたくしたちで飼いましょう」

「本当でありますかー! やったでありまーす! 毎日もふもふし放題であります!」

「お! 飼うか! んじゃ、ウチらで名前をつけてやんないとな!」


 と、名前の話題が出たとたんにルシュカが。


「ではでは! アンゼロットなんてどうでありましょうか! 天使を意味する名前でありますよ!」

「おー? ルシュカはセンスがねぇなぁ! 名前はジョナサン・ジョーンズ! これで決まりだぜ! なんだか強そうな名前だろ!」

「ぐぬー! センスが無いとはなんでありますか! すくなくともおしゃれのセンスでは負ける気がしないであります! それにその名前はかわいい猫には合わないであります!」

「いいじゃねぇか! 力強い名前のほうがかっこいいだろ!?」


 とアゼルとルシュカが言い合いを始める一方で。


「あらあら……わたくし的には、ボソムスという名前が良いかと思いますわ」

「僕が思うに……そうだね、その猫の種別名は確か、ファンタジー小説に出てくる定番の国の名前から取られたらしい。スコットランドだったかな。だからスコットなんてどうだい?」


 と、ショーティアとクロまで名前を考え始めていた。

 ちなみにシイカは、部屋の片隅から猫に「ふしゃー」と威嚇を続けている。

 そんな皆の様子を見ながらミカは。


「いや、まずはオスかメスか見てからじゃないと」


 ふと見れば、ミカの足元に体を擦り付けながら、一瞬ころんと寝転がった。


「メスか。皆、この子はメスで……」


 とミカが伝えようとするが。


「アンゼロットがいいであります!」

「ジョナサンだ!」

「ボソムスがだめならチーチとかも良いかもしれませんわ」

「イギリスなんて名前も良いかも……あとはあの小説に出てきた……」


 言い合いであったり考え事をしている皆に、ミカは呆れ笑いを浮かべた。


(まぁ、とりあえず飼うことは決まったし)


 飼うことが決まったならと、ミカが思いついたのは。


「猫用に……キャットタワーでも作ってやろうか」


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