中編:猫耳パーティ、猫を飼う その1
それはパーティでの初ダンジョン攻略から数日経ったある日のことだ。
その日、ミカとアゼルは共にヴェネシアートの市場へと向かい、日用品を買い込んでいた。
「とりあえずこのくらいでいいな。アゼル、そっちは重くないか?」
「おうよ! こんくらい余裕だっての! タンクらしく鍛えてっからな!」
ミカが手にした、日用品の入った袋、その数倍はある巨大な袋をアゼルは運んでいる。
ミカが市場へ行くと言ったとき、荷物持ちを買って出たのがアゼルだった。
「ほんと助かるよアゼル」
「こういうのは得意だからなー。いつでも遠慮せず言ってくれよな! ……んお?」
購入した日用品を手に、帰路へとついていた二人。人気の少ない道を歩いていた最中、アゼルが何かに気づいた。
「ちょっとこれ置くぜ」
「どうした?」
アゼルは日用品の入った袋を地面に置くと、側に居た何かに向かってしゃがんだ。
「よーしよし。こっちだぜ。撫でてやるから来な」
すると、アゼルの居る場所にちかくから『にゃぁ』という動物の鳴き声。ミカがアゼルの後ろから、その鳴き声の主を覗き込むと。
「猫? めずらしいな」
それは子猫。灰色の毛を持った、動物の猫だ。リテール族が『猫の耳が生えている』と言われる所以になった、リテール族によく似た耳、尻尾を持つ動物だ。
「この模様……確か、動物図鑑で見たことがあるな。スコティッシュフォールドという種類だったかな? なんでも有名なファンタジー小説から名づけられた種類らしいが」
見たところ子猫だった。丸っとした体型にふわふわとした手足。
猫という種類はそのかわいらしさもあり、古来からヒトのペットとして飼われてきた動物だ。
モンスターや害獣の生息する町の外とは違い、比較的安全な町の中では、こうやって野良の見ることも少なくない。
そんな猫を見てミカは。
(……くそ)
小さく心の中でつぶやいた。
(モフりたい……)
そのもふもふとした毛並み、ふかふかとした手足。全てがミカを魅了した。
「お? ミカァ、どうした?」
「あ、いや、その……なんでもない」
そう、ミカは無類の猫好きであった。
もっとも、あくまで好きなのは猫であって、猫耳を持ったリテール族が特段好きというわけではない。そのふかふかの体毛や手足、尻尾、それらのかわいらしさが、ミカは大好きだった。
ふと、ミカは自分の背中に揺れる尻尾を見た。ミカの意思である程度触れる尻尾が、そこにある。
(……ずっとリテール族の尻尾にも触ってみたいと思っていたが……よく考えたら触り放題だよな)
しかし、リテール族の尻尾を触るのと、本物の猫に触れるのは似ているようで違う。
(膝に乗せて感じるもふもふ感。そういえば久しく感じてないな。紅蓮の閃光では猫なんてかわいがってたらバカにされたし)
とミカが思いふけっていたところ。
『にゃあ』
気づけばミカの足元に、すり寄るようにして先ほどの猫が。
「お? ミカァ、気に入られたみたいだな! ……ミカ?」
「……」
ミカは足でそのもふもふ感を感じ、至高のひと時を感じていた。口からは笑みがこぼれ、危うく意識を手放しそうになったが。
「何やってんだミカァ?」
「……あ。そ、そうだな。猫はともかく、はやいところ帰らないとな!」
これ以上もふもふされては戻れなくなる。現時点で飼いたいという思いが強くなっているのだ。しかし、自分一人で勝手に飼うと判断はできない。それに、もしかしたら誰かの飼い猫かもしれない。
「お、おいミカァ! 待ってくれよ!」
ミカは猫をもふもふしたい欲を振り切り、速足で歩き始めた。アゼルもそれに慌ててついていった。
〇〇〇
「ミカさん、アゼルさん、おかえりなさい」
「ああ。ただいまショーティアさん」
「日用品大量に買ってきたぜ! これで一週間は持つだろ!」
パーティハウスの玄関で出迎えたのはショーティアだ。
「あら? その子は?」
「その子?」
するとショーティアは、ミカの背後に居た何かの存在に気づいた。ミカが振り向くとそこには。
『にゃあ』
町で出会った子猫がついてきていた。




