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4話 サポートヒーラー、ねこみみになる

 あれから数日が経った。

 海洋国家ヴェネシアートの首都である港町にたどり着いたミカは、その港町の隅の隅、崖際にある、ボロ屋敷の広間に居た。以前と変わらない姿だ。

 その広間でミカは、一人用のソファに座っていた。

 そしてリテール族の少女たちのうち、比較的無事だったパラディン、聖魔導士、ソーサラーの3人が、ミカを囲むように設置されたソファに、それぞれ座っている。

 

「残りの2人の容態はどうなんだ? 聖魔導士さん」

「私はショーティアですわ。ミルドレッドさん。性的な姿をした性魔導士だなんて……とてもうれしいですが」

「そんな事言ってない。あと、俺のことはミカでいいよ」


 ショーティア。それが聖魔導士の名前だ。若干桃色の混ざったクリーム色をしたゆるふわな髪が、肩にかかっている。年齢は三人の少女の中でも年長に見える。年長と言っても、17歳前後だろう。身長も三人の中で一番大きく、胸元も豊満だった。

 特徴として、聖魔導士なのになぜか妖美な雰囲気を漂わせている。


 ドラゴンとの戦闘のあと、ドラゴンの腹から出てきたミカは気絶していた。そんなミカは、三人によってヴェネシアートの町に運ばれた。

 数日後、目覚めたミカは、三人に対して軽い自己紹介を行った、と言うのが今朝の話だ。


「わたくしと、ソーサラーのクロさん、パラディンのアゼルを除いた2人は、皆冒険者病院へ入院を余儀なくされましたわ。ですが、命は無事です。1、2か月もすれば、皆さん全快するかと思われますわ。それこそ交尾できるほどに」

「いや、だからショーティアさん、最後の一言は余計だ。」


 その言葉に続き、パラディンの少女、アゼルがミカに対して頭を下げた。


「いやはぁ! ほんっと助かった! あんたが居なければ全員死んでた! 間違いねぇ! それに、腹の中ででっかいバリア展開して、ドラゴンを腹の中から吹っ飛ばす度胸! 惚れたぜ! ほんとさんきゅーな!」


 ミカの手をつかみ、ブンブン振るアゼル。彼女はツンツンと跳ねた髪型が特徴的な、赤髪の少女だ。ショーティアよりも若干幼く見える。16歳ほどだろう。体付きはその年齢らしく、健康そのものだ。


「ああ、皆が無事で良かったよ」

「何を言ってるんだい? 一人、とんでもない呪いにかかったのが居るだろう」


 どこか落ち着いた口調で話すのは、ソーサラーのクロ。長い黒髪に、ぱっつんと前髪をまっすぐ切った少女。3人の中では一番身長が低いうえ、体付きも貧相で、どこか幼く見える。メガネをかけた少女だ。

 そして、少女たちは全員、猫耳に尻尾が特徴的な、少数種族であるリテール族の少女たちだ。

 彼女たちは無事だった。入院した少女達も含め。だが。

 ミカだけは無事ですまなかった。ミカはドラゴンの腹の中で、強力な呪いをかけられてしまっていた。


「そうだな、まさかこんな呪いにかかるなんて、思ってもみなかった」

「で、その姿でいられるのはいつまでなんだい?」

「三日に一度しか飲めない、高濃度の聖水を飲んで今はこの姿になれているが……眷属化は強力な呪いだから、1時間程度しか戻れない、と聞いたことがある」

「ならさらに聞こう。最後に聖水を飲んだのは?」

「1時間前だ」


 言うと同時、ミカの体が光に包まれた。

 光が収まったかと思うと、そこには今までの姿から大きく代わってしまったミカの姿があった。


 若干薄めの、クリーム色に近い金髪。腰近くまで伸びた長い髪。髪の先へ行くほど、ウェーブがかかっている。

 瞳の色は真紅。まるで血のように赤い瞳をしていた。元の男性の時も珍しい翡翠色の瞳をしていたが、それでも金髪に赤い瞳は珍しい組み合わせだ。

 身長は、クロよりも小さい。その外見は、13から14歳前にしか見えないだろう。

 その頭には、人間のものではない耳。猫の耳が生えている。それだけではない、ぶかぶかになった衣類の隙間から、猫のしっぽが顔をのぞかせている。

 かわいらしく、整った顔立ち。口の中には八重歯。

 手や足は小さく、そして白い肌。

 そして、胸元は貧しいながらもほんのりと膨らみ、下半身にあった男性の象徴も消え失せている。

 

 これが、ミカがかかった『呪い』だった。


「おそらく、一緒に食べられたクロの髪、それがドラゴンの眷属化の呪いに、何か作用したとしか思えないんだが……いずれにせよ、ドラゴンの眷属化の呪いが、こんな形で出てしまったらしい」


 そう語るミカの声は、明らかに少女の声であった。

 男性であったときの面影は無く、その姿はリテール族の少女そのもの。それも、どこか幼さを残した顔立ちは、誰が見ても『かわいい』と評するだろう。

 

「身体能力は若干落ちた気がするが、魔力は変わりないように感じる。というより、外見以外はほぼ変わっていない、とは思う」


 眷属化は、本来であれば強力な呪い。現代で最高級の聖水でも一時的に戻れるだけ。解除できず、いかなる手でも人間には戻れない。呪われ眷属化された人間は、人間としての意思を失うため、殺すしかないといわれている。

 

 実際、ミカにかけられた呪いは、解除のできない呪いだった。だが、ミカは自分で体を動かすことができ、意思もはっきりしている。つまり、眷属化したわけではないようだ。


(まさか全てを失った挙句、自分の姿まで失うなんてな。聖水で一時的に戻れるとは言え……でも、この姿であれば、誰も俺が元Sランクパーティに居たことに気づかないはずだ。後ろ指を指されずに、暮らしていけるかもしれない)


 外見からして、体も一回り以上は若返っている。ある意味、再出発のチャンスだと、ミカはとらえた。


「みんな、俺のことであまり気負わないでほしい。それに、この姿も悪くないって思い始めてきたしな」


 すると、ショーティアが口を開く。


「あの、もしよろしければ、わたくしたちのパーティに入ってはいただけませんか?」

「え?」

「あ、性的な意味ではありませんわよ?」

「むしろ性的な意味でとらえる要素はあったのか?」

「昨夜、みんなで話していましたの。あなたのその姿はわたくしたちに責任がありますし、女性の姿では不慣れなことも多いでしょう? 幸い、わたくしたちはリテール族かつ、全員女性のパーティですわ。あなたのサポートならおまかせくださいまし。夜も含めまして……ね?」

「だから最後は余計じゃないかショーティアさん」


 続けて、アゼルが笑顔で話し始めた。


「それにさ! あんためっちゃつええじゃん! ウチらっていろいろあって、いろんなパーティから追い出されたり、仕事クビになったりしたはぐれ者の集まりで、言っちゃえばクソザコ!」

「クソザコは言い過ぎじゃないかい? アゼル」

「別にいいだろクロ! ミニゴブリンにひーこら言うような雑魚って事実なんだしさ! で、あんたって強い冒険者っぽかったじゃん! 仲間にできればめっちゃうれしいってことよ!!!!」


 新たにパーティに入る。それはミカにとって久々の感覚で、どこかなつかしさを覚えていた。


(……確かに、彼女たちは弱い。連携もなってない様子だったな)


 そして弱いながらも、明るく楽しそうにしている彼女たちを見て、ミカはパーティの参加に興味がわいた。だが。


「だがいいのか? 俺は男だ。パーティメンバーは全員女性なんだろ? それもリテール族の。そこに男が入るってのは……」

「何を言ってるんだい? 君は今、僕らと同じ、リテール族の女の子ではないか」


 クロに言われて、ふとミカは胸元に触れてみた。わずかなふくらみ。

 そういえばそうだった。だとしても。


「そうだな。パーティに入ってみるのも良いかもしれない。だとしても、俺の経歴を聞いてから、再度判断してほしい」


 ミカは3人に話し始めた。

 自分が元は王都に居たこと。サポートヒーラーであったこと。製作や採取スキルでもパーティをサポートしていたこと。だが、パーティメンバーからは不要、弱いと罵られたこと。挙句の果てに追放扱いされたこと。

 一通り話を聞いた3人の少女たちは。


「あらあら、災難でしたわねぇ。わたくしのおっぱい揉みます?」

「ショーティアの余計な一言は置いておいて……君のした話、その話のどこに、君のパーティ加入を拒否する理由があるのか、僕にはわからないよ」

「おうよ! だってよ? ウチらだってめんどくさい過去があるもんだ。な? みんな」


 ミカは思う。むしろこれが普通の反応なんじゃないのか。

 そして、彼女たちが自分の所属していたSランクパーティ『紅蓮の閃光』について知らないことも、ミカは気づいた。

 

「つーかその前のパーティの奴らクズだな! クズオブクズ! ウチがぶっとばしてやる! あ、そもそもそいつらがどこに居るか、何者かも知らなかったぜ」

「アゼルはほんとバカだと思うよ、僕は」


 やれやれと首を振るクロをよそに、ショーティアが話を続ける。


「わたくしたちはあなたが追放されたなんてこと、全然気にしませんわ。わたくしたちのパーティメンバーも似たようなものですし。それに、わたくしたちを、危険を顧みず助けてくれたあなたに、後ろ指を指すなんてできませんもの。それだけではありませんわ。ちょうどサポートヒーラーさんが欲しかったところですの。戦闘的な意味でも、交尾的な意味でも」

「ショーティアの交尾関連の言葉は忘れてくれ。だが、僕も戦闘的な意味では同意だ。それに、姿が変わってしまったのはむしろ良かったんじゃないか? あとは偽名さえ使えば、君の知り合いが君がミカという男性だなんて、気づかないだろうしね」

「ところでよぉークロ、コウビってなんだ?」

「アゼルは黙ろうか」

 

 すると、ショーティアはミカへと手を差し出した。


「Dランクではありますが、加入していただけませんか? 私たちのパーティ、『青空の尻尾』へ」


 ミカは考えた。

 こうして、手を差し伸べられたのはいつ以来だろう。

 こうして、感謝をされたのはいつ以来だろう。

 こうして、信頼されたのはいつ以来だろう。

 こうして、頼られたのはいつ以来だろう。


「……ああ、よろしく頼むよ」

 

 ミカはショーティアの手を取った。

 これにより、ミカは新しいパーティへと所属した。

 

 富も、名声も、自分の姿さえも失ったミカの、新しい出発となった。


 

「ところで、僕から質問だ。キミの所属していたパーティのランクはいくつなんだい?」

「お! ウチも知りたいぞ! このアゼルが認めるほど強いんだ。結構高ランクなんじゃないか?」

「ああ、Sランクだ」


 そうミカが口にした瞬間、3人が一瞬固まる。


「わ、わわわたくし、わたくしたちの、ぱぱぱぱ、ぱーてぃに、え、え、えすらんくくくくく!? し、しかも、手を触れてしまって……ぜ、絶頂不可避ですわ……はふぅ」


 ショーティアが卒倒し。


「おおおお! まじで!? まじでか!? どうりでヒーラーにしてはめっちゃ強いわけだ! ちょっと手合わせしねぇか! なぁなぁ! むしろ戦おう! 果たし状書かねぇと!」


 アゼルは興奮し、なぜか戦闘準備に。そしてクロは。


「……」


 立ったまま気絶していた。


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