37話 猫耳パーティのパーティリーダー
「これは驚いた。つまり、ショーティアはアンジェラの親戚ということになるのか」
アンジェラの父親は現国王。その弟の娘であるから、ショーティアはアンジェラの親戚ということになる。
「そうなりますわね。そしてお父様と出会ったわたくしは、お父様によって聖魔導教会の神学院に入れられました、母も、父の手ほどきによって、教会直属の病院へ入院しました。当然のことですが、お父様はわたくしを娘だと、公表はしませんでしたわ。表向きは、哀れなリテール族の子供に慈悲を与えた、ということになりました」
娼婦と教皇の娘。そんなことが知れれば、スキャンダルどころではない。
「わたくしを神学院に入れ、お母様を入院させていただいた。きっとお父様なりの愛情だと思いましたわ。ですが、神学院での生活は、あまり楽しいものではありませんでした。親がどれだけ裕福か、教会に寄付をしているか。血筋はいかなるものか。それが神学院においてはすべて。母が教会の病院に入院したことで、わたくしの母が娼婦だということはすぐに知れ渡り……入学前の方がまだ、よかったと思ったことさえありますわ」
「そうか……神学院も教会の組織。教会の腐敗は、そっちまで行ってたんだな」
そして、ショーティアの表情がより一層暗くなる。
「幸か不幸か、わたくしは聖魔法が得意でしたわ。ですが、それにより学院から、とある仕事を命ぜられましたの」
「仕事?」
「ヘブンデス、という聖魔法をご存知ですか?」
「ああ。確か衰弱状態の相手にしか使えないが、苦しみなく命を刈り取る魔法。つまりは安楽死に使われる聖魔法と聞いたことがある」
「その通りですわ。聖魔導教会の病院では、もう助かる見込みのない者には、ヘブンデスを使用し、安楽死させるという決まりがありますの。聖魔導士なのにヒトの命を奪う。ヘブンデスを使用する担当は死神と呼ばれ、教会や神学院の中でも忌み嫌われておりますわ」
「……まさか」
ショーティアが小さくうなずく。
「わたくしはその役割を命ぜられました。神学院の職員に命じられていたものを押し付けられましたの。もしそれを断れば、わたくしに慈悲を与えた教皇の名に傷がつく。そう言われ、断ることもできませんでした」
ショーティアが自分の手を見つめる。傷一つ無い、きれいな手のひらだ。
「この手で、何人もの人の命を奪いました。神学院に籍を置く身でありながら、命を奪い続けました。そんなある日でした。ヘブンデスを行う対象は紙にリストとして書かれ、一週間前に担当者へと通知されます。その中に……」
「その中に? ……まさか」
「わたくしの、お母様でした」
ショーティアは、自分の母親の命を奪えと命ぜられた。
「わたくしは一週間悩み続けました。わたくしにはお母様の命を奪うことなんてできない。逃げるように、わたくしはまた、教会で祈り続けました。私をお導きくださいと。お母様の命を奪う予定日の前日の深夜のことです。また、わたくしは出会いました。お父様に」
「そうか。普通は会えないもんな。一応他人って扱いだし」
「ええ。最初に教会で出会って以来でしたわ。わたくしは、母のこと。自分のことをお父様に話そうとしました。ですが、わたくしが話すよりも早く、お父様はこう言ったのです」
教皇が、苦しむ自分の娘に告げた言葉というのが。
「『お前が苦しんでいるのはわかっている。だが、今はお前の与えられた役割をこなせ。たとえそれが辛い道であっても、それがお前に定められた運命なのだ』、と」
「なんだよ、それ……」
つまり、ショーティアの父親はショーティアの現状を知っていた。母を殺す命令を受けていたことも知っていた。それでいて、ショーティアの父は『役割をこなし、母を殺せ』と命じた。
「その言葉を聞いて、わたくしがお母様の命を奪う。それが神、イデア様に定められた運命なのだと思いました。もう私の手は汚れている。今までと同じように、命を奪うだけ。そしてあの日……わたくしはこの手で、お母様を……」
周りに強いられ、父に命じられ、ショーティアは自分の手で、母親の命を奪った。
「お母様の最後の言葉。弱り切ったお母様は、目もまともに見えない中、ヘブンデスを使用するため、傍に立ったわたくしにこう言いました。『死神』と」
「そんなことって……」
「意識も朦朧とし、耳も聞こえず、目が見えていないようでしたので、わたくしだと気づいていたかはわかりませんわ。でも、わたくしがそう呼ばれたのは事実ですわ」
ショーティアが空を見上げる。そこには青い空が広がっている。
「わたくしはヘブンデスの担当を続けながら、2年前、神学院を卒業しました」
「神学院を卒業した聖魔導士はエリートって言われてるな。病院などの各種施設では引く手あまた。Aランクの冒険者パーティが頭を下げて加入を頼むほどって聞いたことがある」
「あらあら、そうなのですわね。わたくしも神学院を卒業したことで、ヘブンデスの担当から外れました。いくつかお誘いを頂きましたが、わたくしは重圧や苦しさから、ただひたすら逃れたいという思いが強く、安寧の場所を求め、様々な街を周りました。そして、このヴェネシアートの郊外で、モンスターに苦戦していたアゼルに出会ったのです」
ショーティアが、アゼルに出会った時のことを語る。それは、ショーティアがアゼルを助けた時の話。
………………
…………
……
『すげーじゃん! あんたヒーラーか! おかげで助かったぜ! いやぁ、連続してモンスターに襲われて、傷が癒えてないのに戦ってたからやばかった!』
『それは良かったですわ。おっぱい揉みます?』
『おっぱい? よくわかんねぇけど、もしよかったらパーティ組もうぜ!』
『パーティ、です?』
『なにかの縁って奴だ! あんたとなら楽しくできそうだし! あ、でも組むとしても冒険者ギルドに申請必要なんだっけか……ウチは書類とかわかんねーし、あんた頭よさそうだ! とりあえずリーダーになってくれねーか!? パーティ名とかも好きにしていいからさ! 楽しくやろーぜ! なぁなぁ!』
……
…………
………………
ショーティアが見上げるのは青空。そして、その背中には尻尾が揺れている。
「半ば押される形でパーティを作りました。最初はとても貧乏で失敗ばかり。Dランクから上がれる気配はありませんでした。けれど、パーティとしての暮らしは、重圧も偏見もなく、今までに無いほど楽しいものでしたわ」
だが、ミカが参入したことで、様々なことが変わった。それにより、パーティリーダーとして、ショーティアにも責任、重圧がかかるようになった。
「リーダーとしては失敗ばかりですわ。それに、わたくしの手は汚れています。きっとパーティリーダーとしてふさわしくな……」
「それは……どうだろう?」
ミカがショーティアの言葉に割り込む。
「まず俺の意見を言わせてもらうと、青空の尻尾のリーダーは、ショーティアさんがふさわしいと思ってる」
「……なぜですの?」
「まずおっぱいが一番でかい」
「揉みます?」
「でかいのは事実だが、まぁ冗談は置いておいて……ショーティアさんってさ、パーティメンバーの皆から見たら『お姉さん』なんだと思うんだ。優しくて、包容力のあるお姉さん。そんなショーティアにパーティへ誘ってもらえて俺は感謝してる。クロもルシュカも、ショーティアに誘われたって聞いた。俺たちメンバーから見て、ショーティア以外がリーダーなんてありえないよ」
「ですが……」
と、ここまでミカは『メンバーから見てリーダーはショーティアしかありえない』と諭したが。
(実際、ショーティアにはリーダーとして資質がある。この不思議な安心感と包容力。これは特別な才能だ。アンジェラに近い、リーダーの資質がある。だが……)
ミカは考える。ショーティアの過去は壮絶なものだ。ショーティアがところどころ抜けているのは、そのトラウマから、責任感を無意識に放棄しようとしているのではないか。
(でも、それは俺が言えたたちじゃない)
ミカは意を決して、自分の気持ちをショーティアに話す。
「……実を言うと、情けないことながら俺自身、自分がパーティリーダーはふさわしくないと思ってる」
「なぜですの?」
「前のパーティでのこともある。俺はずっと客観的な自分の状況というのを、判断できなかった。それに、俺のこの魔法の技術は……」
「ミカさんの魔法? 確かに、ミカさんはとてもお強いですが」
「俺にも魔法の師匠が居たんだが、その師匠が……」
と、口にしたところで、ミカは言葉を止めた。
「っと、話が脱線した。リーダーの話だったな。言ってしまえば、俺もショーティアも似たようなものだ。自分がパーティリーダーとしてふさわしくないと思ってる。けど、今のところ適性が高いのは、俺かショーティアさんの二人。ショーティアさんもそう思ってるだろ?」
「……ええ、実のところは」
「お互いに自信はない。けど、今のままではショーティアさんの負担が大きい」
だからこそ、ミカは一つ提案した。
「こうしよう。俺たちのパーティでサブリーダーを作らないか?」
「サブリーダー、です?」
「お互いにリーダーになるんだ。お互いに自信がない。だからこそ、二人でリーダーになれば頼りあえる。でも、リーダーが複数人居ると混乱するから、俺かショーティアさん、どちらか一人はサブリーダーとして、リーダーを助ける立場になろう」
「サブリーダー……確かに、心強いですわね」
「以前ショーティアが自分に頼れと言ったように、俺にも頼ってほしい」
ミカのその言葉に、ショーティアが笑みを浮かべた。
「とても心強いですわ」
「それじゃ、とりあえずどっちがリーダーをやるか決めようか。とはいえサブリーダーもリーダーも同じようなものだし……コインでも投げるか?」
その言葉にショーティアは少し考えると。
「いえ、わたくし、もう少し頑張ってみます」
「……いいけど、大丈夫なのか?」
「ミカさんがサブリーダーになるのですもの。これ以上ないくらい、心強いですわ。なにより」
ショーティアが、青い空を見上げる。
「あんなに強いミカさんも、自信が無い部分があると聞いて……わたくし、リーダーとして、もう少し頑張ってみたくなりました」
「……そうか。ショーティアさんがそれでいいなら」
ショーティアの枷が外れたら、間違いなく良いリーダーになる。だからそれまでは、自分がサポートしよう。そうミカは決めた。
「頼りないリーダーですが……改めてミカさん、よろしくお願いします」
「……ああ」
ショーティアがミカへ深々と頭を下げる。それに、ミカは右手をグーにしてショーティアに見せた。
「なんです?」
「グータッチ。知らないか? 行くぞ! と気合入れるときとか、約束事とかしたときに、こうして手をグーにして、こつんてお互いに触れるんだ」
「……ふふ、面白いですわ。ではわたくしも」
ショーティアが左手を軽く握る。二人の拳が、こつんと触れた。




