35話 猫耳パーティとサポートヒーラー
倒れ伏した紅蓮の閃光の面々。
ドランクは何とか面を上げる。そこには、猫耳少女たちに褒めたたえられるミカの姿があった。
「すごいであります! すごい魔法であります!」
「酷いよミカ。あんな魔法を隠していただなんて。僕にもう一度見せてほしいな
今度でいいから」
「本当に頼りになるぜミカ!」
ミカを褒めたたえる猫耳少女たちには、大した傷はついていない。
それを見てドランクは思い出す。かつて、自分もそうだった。傷1つなくダンジョンから帰ってこれたと。
当時と今の差は何か。たった一つだ。サポートヒーラー、ミカが居るかいないか。
そしてあの頃のパーティは裕福だった。ミカが居なくなってから、まずい市販の食事ばかりとっていた。思えば、ミカの料理は飛びぬけて美味かった。
そう考えるドランクの隣で、ミューラが顔を上げる。
「ミカさんの適切なヒール、そしてバリア。メインヒーラーとして本当に助かりますわ!」
「……にゃ」
ミューラは思う。以前身に着けていた装備は使いやすく、そして壊れなかった。思えば、いつもミカが手入れしてくれていた。
そして、戦闘でも自分がヒールをほとんどしないで良いほどに、負担が軽かった。ミカの適切なヒール、バリアのおかげだ。それでいてミカは、適時攻撃を行っていた。
そしてドランクとミューラ、そして紅蓮の閃光の面々は気づいた。自分たちがSランクになれたのは、紛れもなく、ミカのおかげだった。
全てが終わり、取り返しのつかなくなった今、紅蓮の閃光たちは気づいた。
「ミ、ミカ!」
ドランクがミカへ声をかける。どこか声を震わせて、ミカへ懇願した。
「お、お前、本当はすごい奴だったんだな! み、見直したよ……はは、は……」
もはやそこにプライドも何もない。ドランクが続けて懇願する。
「よ、よかったら、紅蓮の閃光に戻ってくれないか? いや、戻ってくれませんか? 俺たちには、お前が必要なんだ。頼む。この通りだ」
ドランクが地面に頭をつけて懇願する。その横で、ミューラは。
「ミカ、私が間違ってた。ミカはクズなんかじゃない。い、今までごめんなさい。わたしたちには……私にはあなたが必要よ。ねぇ、お願い。また一緒に冒険しよ?」
目に涙を浮かべるミューラ。他の紅蓮の閃光の面名は、頭を下げてミカへ懇願する。
だが、それに対してミカは。
「無理だ」
冷たい声で言い放った。
「頼むミカ! 俺たちはわかったんだ! 俺たちがSランクになれたのはお前のおかげだ!」
「ねぇお願いミカ! 幼馴染でしょ? あなたが居ないと、私たちはもうおしまいよ! お願いミカ! 戻ってきてよ!」
ひたすら懇願する紅蓮の閃光たち、だが、ミカは。
「俺はSランクパーティを追放されたサポートヒーラーだ。紅蓮の閃光さんという、Sランクパーティに入ると、そのパーティに傷がつくだろ?」
「そ、そんなことはないぞ! お、俺たちは……」
そんなドランク達に、今度は青空の尻尾の皆が言い放った。
「ああもう、うっせー! 手のひら返しすんな! 散々ミカを傷つけたくせによー! ミカが戻るっていうならともかく、もどらねーってんだ! ぐちぐち言わずに、あきらめるのが冒険者ってもんだろ!」
「自分もミカ殿の気持ちわかるでありますよー? ひどい扱いを受けたパーティよりも、自分ら猫耳パーティで猫耳三昧するほうが良いでありますよ!」
「ね、猫耳パーティって……確かに僕たちは猫耳だけれど」
「あらあら、かわいらしい響きですわ」
そしてシイカが、ミカの服の裾を引っ張る。もう行こうと諭しているようだった。
「これでお別れだ。もう俺は紅蓮の閃光には戻らない。金は酒場から回収させてもらう。今まで世話になっ……いや、世話をしたな、紅蓮の閃光の皆。さよならだ」
そう言い残し、ミカはその場を立ち去ろうと振り向いた。すると。
「あなたたち、暴れすぎ」
ミカの前に、一人の女性が現れた。その女性を、ミカはよく知っている。
そして、青空の尻尾の一部メンバー、紅蓮の閃光の全メンバーが、その女性の顔を知っていた。
白銀の鎧に身を包んだ、その女性の名をドランクが呼ぶ。
「アンジェラ王女!? な、なんでこんなところに居るんだ!」
それはバレンガルド王国の第一王女、その人だった。
突然現れた王女に、ミカは尋ねる。
「アンジェラ、なぜここに?」
「どうもこうも無いわ。騎乗空竜でミカが王都に来たと聞いて、追放審査の件の進捗でも話そうと、お忍びでミカの泊まっている宿に行ったら、彼女たちに出会ったの」
つまり、ミカが飛び出したあとに、青空の尻尾のメンバーがアンジェラに出会っていた。
「彼女たちに事のあらましは聞いたわ。そこのショーティアさん達が襲われた宿の主に問い詰めたら、すぐに白状したわ。冒険者らしき集団に金を握らされたと。どうやら、酒場に盗んだ300万ギニーがあるようね。出所のわからない300万ギニーの存在。これにより、襲われた際にドランクを見たというアゼルちゃんの目撃証言は、確固たるものとなるわ」
すると、アンジェラ王女の背後から、白い鎧を身に着けた無数の兵士が現れる。その兵士の一人が酒場に足を踏み入れると、すぐに金貨の入った袋を手に出てきた。
「安心しなさい。うちの親衛隊よ」
兵士が中を数え、王女に300万ギニーであることを報告する。
「……決まりね」
アンジェラ王女が倒れ伏す紅蓮の閃光の面々、その前に立つ。そして彼らに告げた。
「Sランクパーティ『紅蓮の閃光』よ! お前たちはSランクパーティでありながら、Dランクであるリテール族を襲い、傷つけ、その金銭を奪った! これは我が国より称号を与えられたSランクパーティにあるまじき、筆舌に尽くし難い愚行である! 王室権限により、この時をもって全員の冒険者資格を剥奪、紅蓮の閃光は活動停止とする! 親衛隊よ! この罪人共を捕らえよ!」
王女の親衛隊が一斉に紅蓮の閃光を捕らえにかかった。
「俺はSランクパーティだ! 離せ! おい、くそっ!」
「嫌ぁ! ミカ! お願い助けて! なんでもするから! ミカぁ!」
次々と拘束されてゆく紅蓮の閃光の面々。そんななか、ミカはアンジェラに。
「アンジェラ、俺もここで暴れてしまった。法に抵触しているのなら、俺を捕らえてくれ」
「なにを言うでありますかミカ殿! それなら、自分だって暴れたであります!」
「待ってよ! 僕もそうだ!」
「あらあら、わたくしもそうですわ」
「おいおい、一番暴れたウチを忘れちゃ困るぜ!」
そしてミカの背後では、シイカがアンジェラを睨みつけていた。ミカを怒るなとでも言うように。
するとアンジェラは小さなため息をつくと、ミカの両肩をつかみ。
「紅蓮の閃光の確保、協力を感謝する! 疲労したであろう。宿にもどって休むと良い!」
とだけ良い、ミカの元を去った。
呆然としている青空の尻尾。クロがぼそっとつぶやいた。
「お咎めなしってことかな、ミカ」
「……そのようだな。っと」
ミカがふらつき、それをアゼルが支えた。
「そろそろ聖水の効果が切れそうだ。今日は戻ろう」
「そうでありますな! 皆さんお疲れでありますし!」
そして宿へと向かって歩き出したミカ。
ミカは、共に歩んでいるパーティの皆に聞こえるよう、笑みを浮かべて言った。
「ありがとう、みんな」




