表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/119

34話 猫耳パーティ、決着する

 ドランクの背後に居た元素魔導士が、呪文を詠唱する。ミカの数倍はあろうかという火球が、青空の尻尾パーティへ迫っていた。


「アゼル! 俺が即席バリアをかけてやる。炎を突っ切って敵陣に突っ込み、そのまま敵視ヘイトを稼げ!」

「おうよ! まかせとけ! セイントスキン!」


 防御スキルを発動し、さらにその上からミカが単体魔法障壁をかけた。アゼルが火球へと突っ込むと、ミカのバリアと相殺し、火球が消えうせる。そして敵陣のど真ん中に到達したアゼルは、魔法を剣に込めて、技を放った。


「シェアアアア! 必殺剣サイクロンブレイド! 回転斬りだぜぇ!」


 アゼルが回転すると、剣にまとった魔力が刃となり、刀身が伸びる。そのまま、紅蓮の閃光の面々を斬りつけた。


「ぐっ、生意気なガキだ……」

「な、何よこれ……い、痛い! 痛い痛い痛い!!!」

「パラディンの魔法だ。あいつを倒さない限り痛みが続きやがる!」

「何よそれ! あのパラディンの猫を先に倒しましょう!」

 

 紅蓮の閃光の面々が、痛みに身もだえする。そして彼らの敵視ヘイトは、アゼルへと向いた。

 格闘家がアゼルへと殴り掛かる。


「クロ、準備はできているか!?」

「もちろんだよミカ。そう言うと思って準備してある。アゼルありがとう、詠唱の時間を稼いでくれて。新生魔法、フォースランチャー!」


 無数の魔法の弾丸が、格闘家へと向かった。その魔法弾は格闘家の周囲にまとわりつくと、小さな爆発を無数に起こし続ける。

 格闘家はたまらないと言うように、ヒールを求めてミューラの元へと駆けた。


「何やってんのよ! 今ヒールを……」


 それよりも早く、ミカはシイカに指示した。


「シイカ、アゼルがヘイトを稼いでくれている。アサシンの得意なことは暗殺と妨害のはずだ。あの聖魔導士の詠唱を妨害しろ!」

「……にゃ」


 シイカがミューラへと接近し、そのまま短剣でミューラの腕を斬りつけた。

 あえて致命傷にならない程度。薄皮一枚程度斬りつけていた。


「いったぁ! 何よあんた! いや、今はそれより……ひ……?」


 ミューラがのどを抑えて苦しみ始める。


「かは……これ……口止め草……毒……?」


 シイカの短剣には、一時的に声を出せなくする、口止め草から採れる毒が塗られていた。

 格闘家はヒールを受けることができず、クロの魔法に継続的に攻撃され、ついには地面に倒れてしまった。


「ちっ、なにガキにやられてんだ。こっちから仕掛けるぞ!」


 ドランクがもう一人のタンクであるベルセルクと共に、アゼルへと斬りかかる。


「ルシュカ! あっちのベルセルクを!」

「おまかせであります! フォートレスも発動であります!」


 ルシュカがベルセルクの斬撃を受け止める。アゼルがドランクの斬撃を受け止める。

 鍔迫り合いを続ける二人。だが、SランクパーティとDランクパーティ。装備の差、そして経験の差から、二人は次第に押されていた。


「ぎゃっ!」

「げっ、ルシュカ! 大丈夫か!?」


 アゼルが焦る。一瞬、ルシュカが体勢を崩し、体を斬り付けられる。しかし防御バフの効果があったため、刃が少し肩に食い込んだ程度であった。しかし。

 

「い、痛いでありますー! これぞ生きている証……もっと! もっとであります!」


 突如喜びだしたルシュカに、相手にベルセルクがたじろぐ。


「おいルシュカ!」

「……ハッ! い、今であります!」

「ここは私が……セイントヒール!」


 ルシュカが相手のベルセルクに、斧を構えて突撃した。ショーティアのヒールによりルシュカの肩の傷が回復し、今度はルシュカが若干押していた。

 だが、相手タンク二人の背後には、アゼル達を狙う狩人と元素魔導士の姿。


「させない……にゃ」

「シイカ、待て! 攻撃するな!」


 ミカの制止は間に合わず、シイカが元素魔導士に斬りかかる。元素魔導士の詠唱は止めたものの、狩人の敵視は完全にシイカへと向いてしまった。

 シイカは退院後、依頼を一度もメンバーとこなさなかった。ゆえに、パーティの立ち回りというものを完全に理解していなかった。

 

「くっ、迅速治療術式!」


 狩人の矢がシイカに当たった瞬間、シイカを回復する。


「……にゃ……にゃ」


 だが、シイカは体の動きを止めて、膝をついてしまった。おそらくは矢にしびれ毒が塗ってあったのだろう。


「解毒魔法の詠唱を……」


 ミカは考える。解毒魔法を詠唱してシイカをサポートしなければ、狩人の次の攻撃がシイカに当たる。狩人への攻撃は、魔法の到達速度から間に合わない。だが、アゼルとドランクの鍔迫り合いはもう限界だ。ルシュカも一瞬押していたが、さすがに技量の差か、再度押され始めている。バリアをかけておく暇はない。

 ミカが思考を巡らせていると。


「ミカさん。二人はわたくしにお任せを」


 ショーティアが言った。その言葉を、ミカは全面信頼し、シイカに解毒魔法を使用した。


「……動ける……にゃ」

「シイカ! 僕に狩人は任せて逃げるんだ! フォトンバースト!」


 動けるようになったシイカが矢の攻撃を察知して、素早く回避した。

 クロの放った魔法弾が、狩人と元素魔導士の間で爆ぜる。決定打にはならないものの、怯ませることには成功した。

 一方でタンクの二人は。


「くっそ! さすがに勝てねぇか!?」

「ぐぬぬぬぬ! なにくそでありまーす!」

 

 アゼルは鍔迫り合いを続けるものの、ついには力負けし、武器をはじかれてしまう。斧で押し合っていたルシュカも、ついに相手のパワーにまけ、一瞬のけぞってしまった。そして、ドランクの武器がアゼルの肩、ベルセルクの武器がルシュカの脇腹に食い込んだ。その瞬間。


「聖魔法。ブレッシングヒール!」


 二人の背後に立っていたショーティアが、ヒールを詠唱した。それは有効範囲が自分の周囲と狭いが、絶大な回復力を持つ魔法。被回復者に近づく必要があるため、ヒーラーとしてはリスクの高い魔法だ。

 アゼル、ルシュカの斬られた傷が一瞬で回復する。そしてすかさずアゼルとルシュカは。


「何すんだてめー!」

「痛かったでありますよー!」


 同時にドランクとベルセルクを蹴った。アゼル達に攻撃したことでバランスを崩していた二人は、その蹴りでいとも簡単に転倒してしまった。


「ちくしょう、この猫ガキどもが!」

「……ぷはっ! やっと喋れるようになった。ドランク、本気出して倒しちゃってよ!」

「う、うるせぇ! 今日は調子悪いんだよ! 酒飲んでるからよ!」


 ドランク達は、ミカのパーティに決定打を与えられない。それどころか、じりじりと追い詰められている。

 アタッカーの三人は疲弊し、ミューラも口止め草の毒で完調ではない。タンク二人も、鍔迫り合いや押し合いの影響で疲弊していた。

 一方で青空の尻尾。不慣れなシイカのミスはあったものの、全員がほぼ被弾しておらず、被弾したタンクは聖魔導士のヒールにより、ほぼ完調だ。


「くそっ、なんなんだあの猫ガキ共は……」

 

 青空の尻尾のパーティは、自分のクラスの役割を適切に行った。そして被弾も最小限。それはすなわち、ヒーラーへの負担は最小限に抑えられたということ。


「ミカ、時間は稼げただろう?」

「ああ、ありがとう、みんな」


 クロの言葉に返したミカ。手にした開いた魔導書が、強く光輝いていた。

 

「皆のおかげで魔法を練る時間がとれた。この魔法だけは、どうしても発動に時間がかかってな」


 ミカが魔導書を持っていないほうの手を上げ、紅蓮の閃光を指さすように手を下す。

 すると、紅蓮の閃光の周囲に、ドーム状の魔法障壁が展開された。


「な、なんだ! ミカ、てめぇ何しやがった!」

「ドランク、これ壊せない!」


 中に閉じ込められた紅蓮の閃光の面々。そんな彼らに近づくミカ。


「俺はサポートヒーラーだから、単体用の攻撃魔法しか即席で使える魔法は無い。だけれどパーティメンバーが来てくれたおかげで、この魔法を使う余裕ができた。練るのに時間はかかるが、唯一の範囲攻撃魔法だよ、ドランク」

「はぁ? てめぇ何言ってんだ!? 学術士が範囲攻撃魔法持ってるって聞いたことがねぇぞ! クソザコクラスのくせによぉ!」

「ま、待って、ドランク……私、聞いたことがあるわ」


 声を震わせるミューラ。


「Sランク以上の実力を持つ学術士だけが使用できる、範囲攻撃魔法……で、でも所詮噂よ! サポートヒーラーなんて役立たずがそんな魔法を使える訳が……」

「Sランク以上!? こいつがか!? バカを言うな。俺たちの、この装備がありゃ、そこらの魔法なんてそうそう効かねぇ!」


 それに対してミカは。


「もちろん、装備の耐久も考慮済みだ。作ったのは俺だぞ? そのうえで、半殺しになる程度の威力だ」

「う、うそでしょミカ……あんたが使えるわけはないわ……」

「ミューラ。なら味わってみるといい。『グリモアバースト』の威力をな」


 ミカが手にしていた魔導書を閉じる。すると、紅蓮の閃光を捕まえた魔法障壁の中で、凄まじい爆発が沸き起こった。

 その爆発は障壁を破ることはない。ゆえに、爆発の威力は分散することなく、障壁の中で暴れまわった。


「そろそろか」


 数分後、ミカが魔法障壁を解除する。そこには、装備がボロボロに壊れ、地面に倒れ伏した紅蓮の閃光の面々が居た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ