34話 猫耳パーティ、決着する
ドランクの背後に居た元素魔導士が、呪文を詠唱する。ミカの数倍はあろうかという火球が、青空の尻尾パーティへ迫っていた。
「アゼル! 俺が即席バリアをかけてやる。炎を突っ切って敵陣に突っ込み、そのまま敵視を稼げ!」
「おうよ! まかせとけ! セイントスキン!」
防御スキルを発動し、さらにその上からミカが単体魔法障壁をかけた。アゼルが火球へと突っ込むと、ミカのバリアと相殺し、火球が消えうせる。そして敵陣のど真ん中に到達したアゼルは、魔法を剣に込めて、技を放った。
「シェアアアア! 必殺剣サイクロンブレイド! 回転斬りだぜぇ!」
アゼルが回転すると、剣にまとった魔力が刃となり、刀身が伸びる。そのまま、紅蓮の閃光の面々を斬りつけた。
「ぐっ、生意気なガキだ……」
「な、何よこれ……い、痛い! 痛い痛い痛い!!!」
「パラディンの魔法だ。あいつを倒さない限り痛みが続きやがる!」
「何よそれ! あのパラディンの猫を先に倒しましょう!」
紅蓮の閃光の面々が、痛みに身もだえする。そして彼らの敵視は、アゼルへと向いた。
格闘家がアゼルへと殴り掛かる。
「クロ、準備はできているか!?」
「もちろんだよミカ。そう言うと思って準備してある。アゼルありがとう、詠唱の時間を稼いでくれて。新生魔法、フォースランチャー!」
無数の魔法の弾丸が、格闘家へと向かった。その魔法弾は格闘家の周囲にまとわりつくと、小さな爆発を無数に起こし続ける。
格闘家はたまらないと言うように、ヒールを求めてミューラの元へと駆けた。
「何やってんのよ! 今ヒールを……」
それよりも早く、ミカはシイカに指示した。
「シイカ、アゼルがヘイトを稼いでくれている。アサシンの得意なことは暗殺と妨害のはずだ。あの聖魔導士の詠唱を妨害しろ!」
「……にゃ」
シイカがミューラへと接近し、そのまま短剣でミューラの腕を斬りつけた。
あえて致命傷にならない程度。薄皮一枚程度斬りつけていた。
「いったぁ! 何よあんた! いや、今はそれより……ひ……?」
ミューラがのどを抑えて苦しみ始める。
「かは……これ……口止め草……毒……?」
シイカの短剣には、一時的に声を出せなくする、口止め草から採れる毒が塗られていた。
格闘家はヒールを受けることができず、クロの魔法に継続的に攻撃され、ついには地面に倒れてしまった。
「ちっ、なにガキにやられてんだ。こっちから仕掛けるぞ!」
ドランクがもう一人のタンクであるベルセルクと共に、アゼルへと斬りかかる。
「ルシュカ! あっちのベルセルクを!」
「おまかせであります! フォートレスも発動であります!」
ルシュカがベルセルクの斬撃を受け止める。アゼルがドランクの斬撃を受け止める。
鍔迫り合いを続ける二人。だが、SランクパーティとDランクパーティ。装備の差、そして経験の差から、二人は次第に押されていた。
「ぎゃっ!」
「げっ、ルシュカ! 大丈夫か!?」
アゼルが焦る。一瞬、ルシュカが体勢を崩し、体を斬り付けられる。しかし防御バフの効果があったため、刃が少し肩に食い込んだ程度であった。しかし。
「い、痛いでありますー! これぞ生きている証……もっと! もっとであります!」
突如喜びだしたルシュカに、相手にベルセルクがたじろぐ。
「おいルシュカ!」
「……ハッ! い、今であります!」
「ここは私が……セイントヒール!」
ルシュカが相手のベルセルクに、斧を構えて突撃した。ショーティアのヒールによりルシュカの肩の傷が回復し、今度はルシュカが若干押していた。
だが、相手タンク二人の背後には、アゼル達を狙う狩人と元素魔導士の姿。
「させない……にゃ」
「シイカ、待て! 攻撃するな!」
ミカの制止は間に合わず、シイカが元素魔導士に斬りかかる。元素魔導士の詠唱は止めたものの、狩人の敵視は完全にシイカへと向いてしまった。
シイカは退院後、依頼を一度もメンバーとこなさなかった。ゆえに、パーティの立ち回りというものを完全に理解していなかった。
「くっ、迅速治療術式!」
狩人の矢がシイカに当たった瞬間、シイカを回復する。
「……にゃ……にゃ」
だが、シイカは体の動きを止めて、膝をついてしまった。おそらくは矢にしびれ毒が塗ってあったのだろう。
「解毒魔法の詠唱を……」
ミカは考える。解毒魔法を詠唱してシイカをサポートしなければ、狩人の次の攻撃がシイカに当たる。狩人への攻撃は、魔法の到達速度から間に合わない。だが、アゼルとドランクの鍔迫り合いはもう限界だ。ルシュカも一瞬押していたが、さすがに技量の差か、再度押され始めている。バリアをかけておく暇はない。
ミカが思考を巡らせていると。
「ミカさん。二人はわたくしにお任せを」
ショーティアが言った。その言葉を、ミカは全面信頼し、シイカに解毒魔法を使用した。
「……動ける……にゃ」
「シイカ! 僕に狩人は任せて逃げるんだ! フォトンバースト!」
動けるようになったシイカが矢の攻撃を察知して、素早く回避した。
クロの放った魔法弾が、狩人と元素魔導士の間で爆ぜる。決定打にはならないものの、怯ませることには成功した。
一方でタンクの二人は。
「くっそ! さすがに勝てねぇか!?」
「ぐぬぬぬぬ! なにくそでありまーす!」
アゼルは鍔迫り合いを続けるものの、ついには力負けし、武器をはじかれてしまう。斧で押し合っていたルシュカも、ついに相手のパワーにまけ、一瞬のけぞってしまった。そして、ドランクの武器がアゼルの肩、ベルセルクの武器がルシュカの脇腹に食い込んだ。その瞬間。
「聖魔法。ブレッシングヒール!」
二人の背後に立っていたショーティアが、ヒールを詠唱した。それは有効範囲が自分の周囲と狭いが、絶大な回復力を持つ魔法。被回復者に近づく必要があるため、ヒーラーとしてはリスクの高い魔法だ。
アゼル、ルシュカの斬られた傷が一瞬で回復する。そしてすかさずアゼルとルシュカは。
「何すんだてめー!」
「痛かったでありますよー!」
同時にドランクとベルセルクを蹴った。アゼル達に攻撃したことでバランスを崩していた二人は、その蹴りでいとも簡単に転倒してしまった。
「ちくしょう、この猫ガキどもが!」
「……ぷはっ! やっと喋れるようになった。ドランク、本気出して倒しちゃってよ!」
「う、うるせぇ! 今日は調子悪いんだよ! 酒飲んでるからよ!」
ドランク達は、ミカのパーティに決定打を与えられない。それどころか、じりじりと追い詰められている。
アタッカーの三人は疲弊し、ミューラも口止め草の毒で完調ではない。タンク二人も、鍔迫り合いや押し合いの影響で疲弊していた。
一方で青空の尻尾。不慣れなシイカのミスはあったものの、全員がほぼ被弾しておらず、被弾したタンクは聖魔導士のヒールにより、ほぼ完調だ。
「くそっ、なんなんだあの猫ガキ共は……」
青空の尻尾のパーティは、自分のクラスの役割を適切に行った。そして被弾も最小限。それはすなわち、ヒーラーへの負担は最小限に抑えられたということ。
「ミカ、時間は稼げただろう?」
「ああ、ありがとう、みんな」
クロの言葉に返したミカ。手にした開いた魔導書が、強く光輝いていた。
「皆のおかげで魔法を練る時間がとれた。この魔法だけは、どうしても発動に時間がかかってな」
ミカが魔導書を持っていないほうの手を上げ、紅蓮の閃光を指さすように手を下す。
すると、紅蓮の閃光の周囲に、ドーム状の魔法障壁が展開された。
「な、なんだ! ミカ、てめぇ何しやがった!」
「ドランク、これ壊せない!」
中に閉じ込められた紅蓮の閃光の面々。そんな彼らに近づくミカ。
「俺はサポートヒーラーだから、単体用の攻撃魔法しか即席で使える魔法は無い。だけれどパーティメンバーが来てくれたおかげで、この魔法を使う余裕ができた。練るのに時間はかかるが、唯一の範囲攻撃魔法だよ、ドランク」
「はぁ? てめぇ何言ってんだ!? 学術士が範囲攻撃魔法持ってるって聞いたことがねぇぞ! クソザコクラスのくせによぉ!」
「ま、待って、ドランク……私、聞いたことがあるわ」
声を震わせるミューラ。
「Sランク以上の実力を持つ学術士だけが使用できる、範囲攻撃魔法……で、でも所詮噂よ! サポートヒーラーなんて役立たずがそんな魔法を使える訳が……」
「Sランク以上!? こいつがか!? バカを言うな。俺たちの、この装備がありゃ、そこらの魔法なんてそうそう効かねぇ!」
それに対してミカは。
「もちろん、装備の耐久も考慮済みだ。作ったのは俺だぞ? そのうえで、半殺しになる程度の威力だ」
「う、うそでしょミカ……あんたが使えるわけはないわ……」
「ミューラ。なら味わってみるといい。『グリモアバースト』の威力をな」
ミカが手にしていた魔導書を閉じる。すると、紅蓮の閃光を捕まえた魔法障壁の中で、凄まじい爆発が沸き起こった。
その爆発は障壁を破ることはない。ゆえに、爆発の威力は分散することなく、障壁の中で暴れまわった。
「そろそろか」
数分後、ミカが魔法障壁を解除する。そこには、装備がボロボロに壊れ、地面に倒れ伏した紅蓮の閃光の面々が居た。




