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33話 猫耳パーティVS紅蓮の閃光

 その酒場はいつも以上ににぎわっていた。


「お前ら飲めー! 今日はおごりだぜー!」


 紅蓮の閃光のリーダー、ドランクが、パーティメンバーの他5人に対して言った。

 パーティメンバーは飲めや歌えやの大騒ぎ。そしてメンバーの一人であるミューラが、ドランクの席の隣に座った。


「お金があるっていいわねぇ」

「やはり金は、俺たちのようなSランク冒険者が持つべきだな! 300万ギニーある。好きなだけ飲め! でも150万ギニー以上は使うなよ? 約束があるからな! はっはっは!」


 紅蓮の閃光により、ほぼ貸し切り状態の酒場。そこに、一人の来店者が現れる。

 

「ん?」


 ドランクがその来店者に気づく。それはドランクが、よく見知った顔であった。


「ああん? ミカじゃねぇか!」


 それはミカ。とは言っても、現在はリテール族の姿ではない。

 聖水を飲み、一時的に男性の時の姿に戻っている。

 その衣服は、紅蓮の閃光を抜けたときと同じ、質素な学術士用の装備を身に着けている。それにより、紅蓮の閃光の面々は、彼がミカだとすぐに理解した。


「あらミカ。久しぶりね。何? 寂しくなって戻ってきたの?」


 ミューラが酒を口にしながら言う。他のパーティの面々も、ミカを嘲笑していた。

 ミカは何も言わない。そんなミカに対して、ドランクが近づいてゆく。


「お前が俺たちに毒かなんかを盛ったせいでよ。俺たちダンジョン攻略で困ったんだぜぇ? それによぉ、お前の装備はゴミだし、本当にお前の無能さがわかったよ。ま、でもお前が戻ってきてぇってんなら、俺は器のでかい男だ。歓迎してやるぞ?」


 そんな会話を大笑いしながら見つめる紅蓮の閃光の面々。そしてミカは口を開き、1つだけ尋ねた。


「ずいぶん羽振りがいいな。金はどうした」

「ああん? 金だ? ああ、とあるDランクの冒険者が、Sランクの紅蓮の閃光のために使ってくださいーって、300万ギニーもくれたんだよ」

「そうか。こんな無能共のために、300万ギニーもくれたのか」

 

 ミカの一言に、ドランクが怒りをあらわにする。


「誰が無能だって!? 口の利き方に気を付けろ!」


 ドランクが殴りかかる。が、ドランクの拳がミカへと到達するよりも早く、ドランクの体は酒場の奥へと吹っ飛んだ。

 ミカの周囲には、魔法障壁が展開されている。それにより、ドランクは吹っ飛んでいた。

 静まり返る紅蓮の閃光の面々。そんな彼らに、ミカは一言、言い放った。


「文句があるなら表に出ろ。ぶち転がしてやるよ、無能ども」


〇〇〇


 酒場の前。既に時刻は深夜。町は静まり返っている時間帯。

 一人たたずむミカ。その視線の先には、かつて自分が所属していた紅蓮の閃光というパーティが居る。戦闘用の装備に身を包んだ姿だ。


「型落ち品を装備してるな……」


 身に着けているものの多くは、かつてミカが作った装備。より強い装備が出来たため、倉庫に眠っていたはずのものだった。

 

「人数は6人か。メインタンクのドランクはパラディン、サブタンクのヴェイルはベルセルク、メインヒーラーのミューラは聖魔導士。アタッカーのグラス、ヴェイン、ジョゼットは、それぞれ狩人、元素魔導士、格闘家」

 

 そこでミカは、一人のメンバーが欠けていることに気づいた。


「ドランク、リーナはどうした?」

「さぁ? 一方的に契約破棄したあげく、どっか行っちまったよ」

「傭兵だから、契約は絶対のはずのリーナが、契約破棄するか。よっぽどだったんだな」


 ミカはかつて居たパーティで、自分は不当な扱いを受けているという自覚はあった。そしてパーティを出てみて、改めて気づく。


「俺はこんなパーティのために……」


 どんなに金を稼いでも使いこまれ、どんなに徹夜して装備を作ってもぞんざいに扱われ、戦闘で頑張ろうものなら一方的に責任を押し付けられる。

 それでも、幼馴染のミューラ、そして故郷を飛び出した自分を入れてくれたパーティメンバーのためと思いサポートに徹してきた。

 だがそれは報われず、挙句の果てに追放。


「思えばひどいパーティ、ひどいメンバーだ」


 そして、自分の新しいパーティの仲間を襲い、金まで奪った。もうミカには、かつてのパーティに対する愛着、未練は一切残っていない。

 あるのは、激しい怒りだけだった。

 ミカは考えていた。数か月は入院するほどに徹底的に痛めつけてやろう。それこそ、再起不能にしても良いかもしれない。そうすれば、きっと奴らはしばらく悪事を働けない。奴らをのさばらしておいた自分にも責任がある。

 そして、奪われた金を取り返そう。あれは自分のパーティの金だ。これ以上使わせてなるものか。


「ほらドランク。さっさとかかって来いよ。なんだ? 無能の俺さえ倒せないってことは、お前は無能以下ってことになるぞ?」

「生意気言いやがって。たかがサポートヒーラーのくせに。ぶっ殺す」


 ドランクが手にした剣でミカへと斬りかかる。


(さて、負ける気はしない。どうするか。死なない程度に痛めつけるには)


 今は男性の姿だ。暴れたって青空の尻尾に迷惑は掛からない。Sランクパーティを追放された、ミルドレッドという人物の悪名がさらに高くなるだけだろう。

 そしてミカは、迫りくるドランクを迎え撃とうと、攻撃魔法を放とうとした。

 その時、何者かが二人の間に割り込む。


「させるか! セイントスキンだぜ!」

「フォートレス発動であります! どりゃあああ!」

 

 それは高い位置で結ばれた赤いポニーテールに、猫耳の生えたパラディンの少女アゼル。

 そして茶髪のツインテールをした猫耳の少女、ベルセルクのルシュカだった。

 二人はSランク冒険者パーティであるドランクの剣撃を、二人がかりで止めた。


「アゼル! ルシュカ! なんで来た!」


 ミカが言い放つ。一人で行くと言ったはずだ。それなのに。


「当然のことですわ。わたくしたちはパーティですもの。聖魔法、スロウヒール!」


 そこに現れたショーティアが、タンクである二人に持続ヒールをかける。


「もうキミだけの問題じゃないんだ。キミ一人が背負う必要はない。フォトンランチャー!」

「ぐわっ! くそっ、なんだこの猫共は!」


 クロの放った魔法の弾丸が、ドランクに命中する。

 ドランクの背後には、ミカを狙い打とうと、狩人が矢を構えている。


「……こいつら嫌い……にゃ」


 狩人の腕にダーツが突き刺さる。


「お前ら……なんで!」


 気づけば、ミカの周囲には、青空の尻尾が全員終結していた。


「あらあら、決まっていますわ。ミカさんの問題は、私たちパーティの問題ですわ」

「つーかあいつらに襲われたんだから、もともとウチらの問題だろ!」

「僕たちだって足手まといになることはわかっているよ」

「それでも、自分らはいてもたっても居られなかったであります!」

「……にゃ」


 そんなパーティメンバーたちを見て、紅蓮の閃光の面々はあざ笑う。


「ミカ! てめぇそんなガキどものパーティに入ったのか?」

「うわきっも! 幼馴染とは言えドン引きするわ。それにそもそもめっちゃ弱そうだし」


 だが彼らの言葉はミカには届かない。ミカは考えを巡らせていた。

 無謀だ。あまりに無謀だ。相手は曲がりなりにもSランク。それに立ち向かおうなどと。

 彼女たちの言う通り、はっきり言ってしまえば、単純に勝つという名目では足手まといだ。

 それでも、何故かミカは感じていた。胸の高鳴り。今まで味わったことのない、高揚を。

 そして、決断した。


「皆、来てくれてありがとう。来てくれたからには」


 ミカが魔導書を手にし、決意に満ちた表情で、言い放った。


「絶対勝つぞ!」


 ミカのその言葉と共に、戦いの火ぶたは切って落とされた。


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