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31話 一方その頃、メインヒーラー

 ヴェネシアートを発ってから一週間、ようやくショーティアとアゼルは王都へと到着していた。

 

「ふへー。さすがに疲れたぜー!」

「あらあら。でも助かりましたわ。アゼルが居てくれたおかげで」


 幸いながら、王都へとたどり着くまでに問題は発生しなかった。

 おそらくは鎧を身にまとったアゼルが常に傍にいたことで、暴漢などがショーティアに手が出せなかったのであろう。

 王都へとたどり着いた二人は、人々でにぎわう大きな通りを歩いていた。

 

「やっぱ人が多いなー、王都」

「そうですわね。やはりわたくしは、ヴェネシアートくらいが好きですわ」

「そういや、ショーティアは王都出身だったよなー」


 かつて王国騎士団に居たアゼル、そして出身地であるショーティアにとって久々の王都である。

 王都へと到着したのは朝。特に迷うこともなく、王都にある聖魔導士教会の本部の建物へと向かったわけだが。


「あらあらあら」

「げっ、なんだこの列」


 教会本部の中には、何やら長い列ができていた。その列に並ぶのは聖魔導士らしきローブを身に着けた者たち。

 そしてショーティアは、教会内部に居た衛兵に、この列について聞いたのだが。


「この列について聞きたいと? この列はお布施をおさめに来た冒険者たちの列だ。あまりに多いのでな。整理券を配り対応している」

「げっ、マジかよ。こんなに多いのか!?」

「お布施を納付したければ、受付にて整理券を発行するがいい。おそらくは明日の納付となるだろうがな」


 しぶしぶショーティアとアゼルは受付へと向かった。受付で、自身の名前とパーティ名を記載し、ショーティアは整理券を受け取った。


「納付は明日のようですわ。仕方がありません、長旅の疲れもありますし、今日はお休みしましょう」

「だなー。冒険者用の安い宿があったはずだから、そこにいこうぜー」


 そうして教会本部を出た二人であったが、そんな二人に何者かが声をかけてきた。


「そこのリテール族の聖魔導士さん、お金にお困りではありませんか?」


 それは黒い短髪の青年だった。どこか優しい笑みを浮かべて、ショーティアに対して話す。


「お金に、です? いいえ、現在とくには……」

「それは残念です。実は私、薬の開発を行っておりまして、治験に協力頂ける方を探しているのです」


 治験というのは、作成した薬の効果をヒトで確かめる実験のことだ。


「今回の治験には、様々なクラス、種族の方に協力頂きたいのですよ。今欲しているのは、リテール族のヒーラークラスの方。あなたは見るからにふさわしい」

「怪しいなてめぇ。詐欺とかじゃねーのか?」

「とんでもございません。報酬はちゃんと支払い致しますよ。あくまで私が欲しているのは自分の意志で治験に協力していただくリテール族のヒーラーの方ですから。その他の治験者については確保済みでありますので」

「あらあら、でもわたくしは……」


 すると男は三つの指を立ててショーティアに見せた。


「即金で300万ギニー出しましょう。どうです? もしご協力いただけるのであれば夜、この教会前に来てください。お待ちしておりますゆえ」


 そう言い残し、青年は去っていった。


「300万ギニーだってよ。やっぱ怪しいぜー」

「そうですわね……」


 

〇〇〇


 その夜、アゼルとショーティアは冒険者用の安い宿屋で休息をとっていた。


「299、300っと! 間違いなく300万ギニーだぜ!」


 二人は部屋で金貨の枚数を再確認していた。


「見れば見るほど、本当に申し訳ありませんわ……わたくしが聖魔導士であったばかりに」

「何言ってんだ! メインヒーラーである聖魔導士はパーティの要ってやつだ! 何度も助けられたし!」

「そう言っていただけると嬉しいですわ……おっぱいもみます?」

「あ、今日は大丈夫だぜ」


 と二人が話していたときだ。

 トントン、と部屋の入口のドアがたたかれた。


「誰ですの?」

『宿屋の者です。当宿屋では就寝前に温かいミルクをお配りしておりまして』

「お、ミルクか。いいなー」

「アゼル、まずは金貨を片付けてからですわ」

「そうだよなー。ごめんな宿屋の人、ちょっとあとで」


 そうアゼル達が断ろうとしたとき。


『そうですか。なら仕方ねぇな』


 カチャリ、と扉の外からカギが開く音。同時に、勢いよく何者かが部屋に侵入してきた。


「なっ!? 誰だてめぇ!」


 アゼルが迎え撃とうと、部屋に置いていた剣に手を伸ばそうとする。しかし、その手に矢が一本突き刺さった。


「痛ってぇ! 狩人のクラスがいやがるのか!?」


 どうやら侵入してきたのは複数人。全員が顔を布で覆っており、何人いるかはわからなかった。


「アゼル! 今ヒールを……」

「させないわ。聖魔法、スタンボルト!」

「きゃああああ!」


 ショーティアの体に電撃が走る。相手を気絶させる、スタンボルトという魔法だ。

 そしてその魔法により、室内を照らしていたカンテラが破壊され、部屋は暗闇に包まれた。

 

「くそっ、体が……矢にしびれ毒でも塗ってんのか……くそっ、お前ら、何しやがる……」


 ふらふらとした足取りで、室内で何かを集める男にしがみついたアゼル。そしてその男が身に着けていた、顔を隠すための布を引きはがした。


「なっ……てめぇは……!」


 男がアゼルの顔を殴り、アゼルの意識を失ってゆく。そして。


『おい、顔を見られたんじゃないの!?』

『この暗闇だ。見えるわけがねぇ。見られたって、Dランク冒険者の言うことなんて信じられるわけがねぇ』

『金貨は集めたわ。早く行きましょう!』


 男たちが部屋の外へと出てゆく音と共に、アゼルは意識を失った。


〇〇〇


「う……ショーティア……?」


 アゼルが目を覚ます。そこは宿屋の自室。先ほど襲撃された自室のベッドの上だ。

 

「しびれ毒は……」


 アゼルが体を確認すると、どうやらショーティアがヒールをかけてくれた様子であった。

 だが、そのショーティアの姿は部屋にはない。そして、お布施となるはずの金貨もなかった。


「くそっ、あいつら、ウチらの金貨を狙ってやがったな! これじゃ明日お布施を払えないじゃねぇか……!」


 その時、アゼルはベッドの上に、一枚の紙が置かれていることに気づいた。

 髪を手にして、その中を読むアゼル。それはショーティアからのメッセージ。

 それを読んでいたアゼルは、次第に体を震わせて、つぶやいた。


「ショーティアのバカ! 何する気なんだよぉ!」


 アゼルが着の身着のまま、宿屋の外へと飛び出す。すでにショーティアの姿はない。

 

「ショーティア! どこだぁ!」

 

 闇夜の中ショーティアを探すアゼル。そんなアゼルの前に、一人の人物が現れた。


「ん、誰だ!? あ、あれ、お前……?」

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