表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/119

29話 猫耳パーティと商人ギルド長



 広間に集まったシイカを除いた3人。シイカだけは広間に入らず、広間の入り口の角に隠れている。

 そしてシイカに現状の青空の尻尾のことを話す。するとシイカは独り言のように。


「ミカ……すごい……にゃ」

「ん、今喋ったか?」


 ミカが聞くと、また素早い動きで、今度は広間にある窓際、そこに着けられたカーテンに隠れてしまった。

 一通りシイカに説明したところで、次は現状についての話になる。


「魔鏡石でありますが、ここは量産すべきかと思うであります。いかがでありますかミカ殿?」

「量産か……確かに材料はあるし、なんなら必須品である魔燐草は栽培を始めてる。できないことはない」

「さ、栽培って……あれは東方の国の原産じゃ」

「種が市場で売ってたからな。前に買っておいて正解だった。あとは育てる環境を整えれば簡単だ。非常に成長の早い植物だ。あとは成長速度を上げる秘薬を調合しておいた。遅くても四日以内には採取できるレベルになるよ」

「み、ミカ、簡単に言うが、きっとそれも、大革命の一種だと思うよ……東方の国の植物を、こちらで育てるなんて」

「そうか?」


 まるで難しくないとでも言うように首を傾げたミカ。いつものようにクロは肩を落とした。

 

「たしかにルシュカの言う通り、量産して売るのもありかもしれないね。あの売れ行きを見れば。でも僕としてはお金稼ぎはそこそこにして、冒険者として依頼をこなし、ランクを上げていきたいものだけれど……」

「クロ殿! 今稼いでおかないと、いつ売れなくなるかわからなくなるであります! 今こそが商機なのでありますよ!? この気を逃してどうするでありますか!?」

 

 やたらと稼ぐことについて推してくるルシュカ。その様子を見てクロは何かを察したようで。


「そうかルシュカ。キミはそうだったね……」

「ん? どういうことだクロ」

「……それは自分からお話するであります」


 ルシュカが語り始める。それはルシュカの過去についての話だ。


「自分、実はそれなりに裕福な貴族の家系出身であったであります。母はかつてベルセルクのクラスで冒険者パーティで活躍し、貴族である父と出会い、結婚したであります。自分は、母から戦闘技術を学んだであります。小さな頃はとても幸せであったであります。ですが……」

「何かあったのか?」

「母が病に倒れ、意識を失ったであります。母の命を維持するには大金が必要。父は母の命を救うべく、資産を消耗したであります。そして一度も母は目覚めることなく、いつしか資産が尽きかけたころ、自分は家族の縁を切られたであります」


 一見すると非情とも思える行為であるが、ミカはそれが父のやさしさであると察した。


「そうか。もし金を借りる段階になったら、子供たちにも迷惑がかかると考えたんだな」

「その通りであります……自分はその後ショーティア殿に出会い、母から習った技術で冒険者となったであります。父は借金を繰り返しながら、母の病が治癒することを信じ、治療を続けているであります」


 貴族の資産が底をつくほどの大金。一人の少女がどうこうできる話ではない。


「自分本当は嫌でありましたが、父の『両親を忘れて、楽しく幸せに暮らしてほしい』という言葉もあって、なるべく父や母のことは思い出さないようにしているであります。ですが、この件に関しては言ってもいいはずであります! お金は貯められるときに貯めるであります! いざというとき、お金は必要になってくるであります!」

「確かにな……ルシュカの言うことも正しいと思う」


 だが、クロの願望も決して間違っているわけではない。金稼ぎに夢中でいると、戦闘の技術は訓練できず、成長が遅れてしまう。

 もっとも、青空の尻尾は若いパーティであるため、時間はあるが。


「2人の話をまとめると、理想としては冒険者として依頼をこなし、実力を上げつつも、金稼ぎができれば理想だな」

「だがミカ。そんなことができるわけ……」


 その時だった。トントン、と玄関からドアを叩く音が聞こえてきた。

 音に反応し、シイカがまた素早く動き、今度はテーブルの下に隠れる。


「シイは何を驚いてんだ……とりあえず俺が出てくる。後で話は続けよう」


 ミカは広間を出て、そのまま玄関へと向かった。

 そして玄関の扉に手をかけて開くと、そこに立っていたのは。


「提督?」


 ヴェネシアート海軍のトップであるサーラ提督、その人であった。


「久しぶりだな。青空の尻尾」

「どうして提督がここに……」

「とある方が、キミたちと話がしたいと言ってきてな。立場上、同行したまでだ」

「同行って……提督自らが出るというのはどういう人なんだ……?」


 すると、提督の背後から一人の男性が現れた。それはヒューマンに比べて小柄で、まるで子供のような体格。だが口元には濃い髭が生えており、子供ではないことが見て取れる。

 小さな種族、コビット族の男性であった。

 年齢は40代前後だろう。身に着けているのは紳士服だ。

 

「あんたは……」


 そのコビット族の男性を、ミカは見たことがあった。

 それは、かつて自分が誘われた、とあるパーティに居た男性。


「紹介しよう。彼はAランク冒険者パーティ、『金劇の卸手』のリーダーであり、現商人ギルドの『ギルド長』を勤めている、エルムンド殿だ」


 すると、そのコビット族の男性、エルムンドは軽く頭を下げて、ミカにこう告げた。


「初めまして、私はエルムンド。商人ギルド長として、君たちのパーティと『専売契約』の交渉を行いたく、挨拶に伺った。よろしければ、お時間を頂けるかな?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ