29話 猫耳パーティと商人ギルド長
広間に集まったシイカを除いた3人。シイカだけは広間に入らず、広間の入り口の角に隠れている。
そしてシイカに現状の青空の尻尾のことを話す。するとシイカは独り言のように。
「ミカ……すごい……にゃ」
「ん、今喋ったか?」
ミカが聞くと、また素早い動きで、今度は広間にある窓際、そこに着けられたカーテンに隠れてしまった。
一通りシイカに説明したところで、次は現状についての話になる。
「魔鏡石でありますが、ここは量産すべきかと思うであります。いかがでありますかミカ殿?」
「量産か……確かに材料はあるし、なんなら必須品である魔燐草は栽培を始めてる。できないことはない」
「さ、栽培って……あれは東方の国の原産じゃ」
「種が市場で売ってたからな。前に買っておいて正解だった。あとは育てる環境を整えれば簡単だ。非常に成長の早い植物だ。あとは成長速度を上げる秘薬を調合しておいた。遅くても四日以内には採取できるレベルになるよ」
「み、ミカ、簡単に言うが、きっとそれも、大革命の一種だと思うよ……東方の国の植物を、こちらで育てるなんて」
「そうか?」
まるで難しくないとでも言うように首を傾げたミカ。いつものようにクロは肩を落とした。
「たしかにルシュカの言う通り、量産して売るのもありかもしれないね。あの売れ行きを見れば。でも僕としてはお金稼ぎはそこそこにして、冒険者として依頼をこなし、ランクを上げていきたいものだけれど……」
「クロ殿! 今稼いでおかないと、いつ売れなくなるかわからなくなるであります! 今こそが商機なのでありますよ!? この気を逃してどうするでありますか!?」
やたらと稼ぐことについて推してくるルシュカ。その様子を見てクロは何かを察したようで。
「そうかルシュカ。キミはそうだったね……」
「ん? どういうことだクロ」
「……それは自分からお話するであります」
ルシュカが語り始める。それはルシュカの過去についての話だ。
「自分、実はそれなりに裕福な貴族の家系出身であったであります。母はかつてベルセルクのクラスで冒険者パーティで活躍し、貴族である父と出会い、結婚したであります。自分は、母から戦闘技術を学んだであります。小さな頃はとても幸せであったであります。ですが……」
「何かあったのか?」
「母が病に倒れ、意識を失ったであります。母の命を維持するには大金が必要。父は母の命を救うべく、資産を消耗したであります。そして一度も母は目覚めることなく、いつしか資産が尽きかけたころ、自分は家族の縁を切られたであります」
一見すると非情とも思える行為であるが、ミカはそれが父のやさしさであると察した。
「そうか。もし金を借りる段階になったら、子供たちにも迷惑がかかると考えたんだな」
「その通りであります……自分はその後ショーティア殿に出会い、母から習った技術で冒険者となったであります。父は借金を繰り返しながら、母の病が治癒することを信じ、治療を続けているであります」
貴族の資産が底をつくほどの大金。一人の少女がどうこうできる話ではない。
「自分本当は嫌でありましたが、父の『両親を忘れて、楽しく幸せに暮らしてほしい』という言葉もあって、なるべく父や母のことは思い出さないようにしているであります。ですが、この件に関しては言ってもいいはずであります! お金は貯められるときに貯めるであります! いざというとき、お金は必要になってくるであります!」
「確かにな……ルシュカの言うことも正しいと思う」
だが、クロの願望も決して間違っているわけではない。金稼ぎに夢中でいると、戦闘の技術は訓練できず、成長が遅れてしまう。
もっとも、青空の尻尾は若いパーティであるため、時間はあるが。
「2人の話をまとめると、理想としては冒険者として依頼をこなし、実力を上げつつも、金稼ぎができれば理想だな」
「だがミカ。そんなことができるわけ……」
その時だった。トントン、と玄関からドアを叩く音が聞こえてきた。
音に反応し、シイカがまた素早く動き、今度はテーブルの下に隠れる。
「シイは何を驚いてんだ……とりあえず俺が出てくる。後で話は続けよう」
ミカは広間を出て、そのまま玄関へと向かった。
そして玄関の扉に手をかけて開くと、そこに立っていたのは。
「提督?」
ヴェネシアート海軍のトップであるサーラ提督、その人であった。
「久しぶりだな。青空の尻尾」
「どうして提督がここに……」
「とある方が、キミたちと話がしたいと言ってきてな。立場上、同行したまでだ」
「同行って……提督自らが出るというのはどういう人なんだ……?」
すると、提督の背後から一人の男性が現れた。それはヒューマンに比べて小柄で、まるで子供のような体格。だが口元には濃い髭が生えており、子供ではないことが見て取れる。
小さな種族、コビット族の男性であった。
年齢は40代前後だろう。身に着けているのは紳士服だ。
「あんたは……」
そのコビット族の男性を、ミカは見たことがあった。
それは、かつて自分が誘われた、とあるパーティに居た男性。
「紹介しよう。彼はAランク冒険者パーティ、『金劇の卸手』のリーダーであり、現商人ギルドの『ギルド長』を勤めている、エルムンド殿だ」
すると、そのコビット族の男性、エルムンドは軽く頭を下げて、ミカにこう告げた。
「初めまして、私はエルムンド。商人ギルド長として、君たちのパーティと『専売契約』の交渉を行いたく、挨拶に伺った。よろしければ、お時間を頂けるかな?」




