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22話 猫耳パーティ、依頼をこなす

「どおおおぅりゃあああ! 斧大回転でありまあああす!」

「ルシュカ、待て! そこは防御スキルで……」

「どわー! 直撃したでありまーす! 痛いでありまーす!」


 ミカ、クロ、ルシュカの3人は、依頼をこなしていた。

 今日の依頼は、浜辺に出没するという、ジャイアントクラブ、つまりは巨大な蟹のモンスターを倒すという、Cランクの依頼だった。

 やはりルシュカはタンクとしてはまだ不慣れで、攻撃に集中しすぎて防御をおろしかにしてしまっていた。蟹の突進がルシュカに直撃し、すぐにミカがヒールをかける。


「た、助かるであります! ミカどの!」

「ルシュカ、お前はタンクなんだ。モンスターが強い攻撃を出して来そうなら、防御スキルを使え」

「わかったであります! 見てください! これが自分の防御スキル、フォートレスであります!」


 ルシュカが斧を構えると、ルシュカの周囲に岩で出来た壁のようなものが現れる、ふよふよと浮いていた。ベルセルクの防御魔法だ。しかし。


「ルシュカ、敵の攻撃は」

「来てないでありますミカ殿! あ、防御スキルの効果が切れたであります」


 ルシュカの周囲に浮く、岩の壁が消え去る。


「……ちょっと痛い目をみようか」

「痛い目とはなんでありますか? ……おばあああー!」


 ルシュカの背後から突進してきたジャイアントクラブが、ルシュカを吹っ飛ばした。

 ヒールを受けることもないまな、浜辺でゴロゴロ転がってゆくルシュカ。すぐに立ち上がったかと思うと。


「痛いでありますー! で、でもこれがいいであります!」

「えっ」

「もっと! もっと痛みをくださいでありますー!」


 と、なぜかモンスターの前で大の字で立ち、目を輝かせるルシュカ。

 ルシュカを見てか、何故かジャイアントクラブもルシュカを目指して突進してくる。

 そんなルシュカの足元に、ミカは。


「グリモアショット」


 本から魔法を放ち、ルシュカの足元で爆発する。


「ぐえー!」


 ルシュカの体が吹っ飛ぶが、さすがはタンク。すぐに態勢を立て直す。


「ハッ! ま、またやってしまったであります! って、ほぎゃああああ!」


 さらに追撃をと、ジャイアントクラブがルシュカに突進していた。

 今にもルシュカが吹っ飛ぶか、そんなときに。


「ルシュカ! 防御スキルだ!」

「あ……了解であります! フォートレスであります!」


 ルシュカの周りに岩の壁が出現する。その壁に阻まれ、ジャイアントクラブの突撃はルシュカに届かなかった。


「おお! 止まったであります! すごいであります!」

「よし、今だクロ!」

「ああ、もう発動中だよ、フォトンランチャー!」


 クロの放った魔法の弾丸が、ジャイアントクラブを甲殻ごとふっとばした。


「やったぁ! 倒したでありまぁす! ミカどの! いかがであったでありますか!?」

「最後の防御スキルだけは良かった。要改善だな」

「なんとー! しょぼーんであります……」

「だが、最後発動出来ただけ良い。今度は、ちゃんと防御スキルのタイミングを考えて使ってくれ」

「了解であります!」

「それじゃ、さっきの突撃分のヒールするから動かないでくれ」


 と、ヒールをかけつつ、ミカはさらに一言。


「ルシュカ」

「なんでありますか!」

「痛いの、好きなのか?」

「はい! 大好きであります!」

「……あのドラゴンに襲われたとき、頭でもぶつけたのか? 俺のヒールが良くなかったか……?」


 まるでそれが当然のごとくニコニコとするルシュカ。

 呆然としているミカに、クロは語る。


「ミカ、安心してほしい。ルシュカは元からこうだ」

「はい! ミカどのの治療は完璧でありました!」

「も、元からなのか」

「ぬふふ……当然であります! 痛み! それはつまり生きているという証拠! 全身が悲鳴をあげる。そしてヒーラーに回復してもらい、また痛みを感じることができる! 最高であります!」

「お、おう」


 痛みが好き。しかもどうやら、ルシュカはそのおかげで、強力なダメージを受けても態勢を立て直すのが速い。

 考えてみれば、ルシュカとミカが森の中で初めて出会った際、常人なら痛みで動けないほどの傷を、ルシュカは負っていた。だが助けを呼びに来れたのは、その痛み好き故、痛みに強かったからなのだろう。


「痛いのが好きなのはわかった。だが、できるなら無駄な攻撃は受けないでくれると助かる。タンクはパーティの盾であり、要だからな」

「りょ、了解であります! 気を付けるであります……あ、でもさっきのミカ殿の魔法の衝撃、気持ちよかったであります。ここはもう一発!」

「クロ、この子ヤバいな」

「……否定できないや」


〇〇〇

 

 依頼をこなし、3人は港町へと戻った。すでに正午を大きく過ぎ、夕方に近づいていた。


「うおおおお! 報酬をたんまりもらえたであります! 初めてCランクのモンスターを倒したであります! 嬉しいでありますー!」

「僕もその気持ち、とてもわかるよルシュカ。ところでミカ、今回の報酬は?」

「3万ギニーだ。まぁ悪くない。とりあえず、これを元手に服の材料を買おうか」


 3人が来ているのは、港町の市場だ。冒険者ギルドのすぐそばに屋台が立ち並んでおり、様々な商品が売られている。

 港町だからか、新鮮な魚はもちろん、古今東西様々な品物が並んでいる。


「それにしてもミカ、キミは何を探してるんだい?」

「いや、ちょっと服の素材を」

「ミカ殿、今我々の居るこの場所は、市場の中の、モンスター素材を売っている場所でありますよ?」


 モンスター素材は、薬品や、冒険者の武具に使われることが多いもの。クロやルシュカの想像しているおしゃれな普通の服には使わないものであったが。


「それに、まだ自分はデザインを作っていないであります!」

「確かにそうだが、今のうちにどんな素材が売っているかを見ておこうと思ってな」

「……あ、なるほどであります! モンスター素材でアクセサリーなどを作るでありますね! モンスター素材のアクセサリーは、おしゃれの時にも使えるであります!」

「ん? えーと、まぁそんなところだよ。えーと、この素材は……中々高いな」


 お互いに何か勘違いしたまま、市場の中を歩いてゆく3人。いつしか3人は、冒険者ギルドの建物前まで来てしまっていた。

 

「ミカ、ここは冒険者ギルドだ。市場を見るなら戻ろうじゃないか」

「そうだな……ん?」


 そこでミカは気づく。何やら、冒険者ギルドの中が騒がしかった。

 見れば、冒険者たちがギルドの前に貼りだされた張り紙を見ている。


『大空洞の入り口かぁ』

『おい、見つけられたら一発でAランクも夢じゃねぇぞ』

『いや、この功績はもしかしたらSランクに行けるかもな』

『ヴェネシアート周囲のダンジョンのどこかか……』

『だが、S+に匹敵するドラゴンが入り口を守っている可能性があるらしいぜ』

『そのドラゴンか、ドラゴンの眷属が大空洞への入り口を見つける鍵になるとかどうとか……』


 どうやら、大空洞に関する話らしい。ミカはもっとよく張り紙を見ようとするが、背の高い冒険者たちに阻まれ、張り紙を見ることができなかった。


(縮んだものだな……)


 今のミカの身長は、男性の時に比べると大きく縮んでしまっている。普段は気にしないが、やはりこういう時には弊害があるようだった。


「ミカ、周囲の話を聞くに、どうやら王国から大空洞に関するおふれが出されたらしい」

「クロは大空洞を知ってるのか?」

「もちろん。聖跡とも呼ばれる、この国に住む冒険者の憧れだからね。ヴェネシアートの周囲のダンジョン、そのどこかに、大空洞へと続く第二の入り口があるかもしれないということだ」

 

 大空洞の第二の入り口。それを見つければ、冒険者としては歴史に刻むほどの栄誉になる。


「なるほどな。これは騒がしくなるぞ。踏破済みのダンジョンとかも、高ランクの冒険者たちが調査を始めるだろうな」

「ミカ殿! 我々も探してみるでありますか!?」

「いや、まだやめておこう。まだパーティが全員揃っていないし、今の状況でダンジョン攻略は不安が残る。おしゃれな装備の件もあるし、それに、ルシュカにはもっとタンクの立ち回りを勉強してもらわないとだしな」

「う……ど、努力するであります……」

「ミカ、ならしばらくは依頼をこなしつつ、服の製作だね」

「そういうことだ。それでいいか?」

「僕はキミの意見に賛同するよ」

「自分も異論無しであります!」


 空を見上げれば、いつの間にか夕暮れ模様だった。


「それじゃ今日は帰るとしよう。帰ったら夕食を作らないとな」

「ミカ、僕も準備を手伝うよ」

「ミカ殿のごはん! 楽しみでありますー!」

「ルシュカは服のデザイン、忘れないでくれな?」

「了解であります! がんばるでありますよ!」


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