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12話 猫耳少女とお風呂の時間

 港町に戻ってすぐ、パーティの4人は海軍本部の提督室へと呼び出されていた。


「ど、どうしよう、僕らが勝手に行動したことを怒られるんじゃ……」

「だだだだ、大丈夫だっての! あは、あははは……」

「あらあら、皆さんあわてすぎですわわわわ」


 どこか落ち着きの無い3人。一方でミカは全く動じていないようすであった。

 4人の目の前には、提督と呼ばれる女性が立っている。

 このヴェネシアートは港町を首都とする国。故に、海軍の権力もまた強く、提督に至っては、王に近い権力を持つと言われていた。

 そんな王に近い権力を持つ提督が、4人の前に立つと、そのまま片方の膝をついて頭をさげた。


「君たちには感謝せねばならない。君たちのおかげで、商人たちの命が助かった」


 権力者が頭を下げるという光景に、ぽかんと口を開けるクロとアゼル。ショーティアは首をゆっくりと振ると。


「いえいえ、わたくしたちは微力程度。一番は、ミカさんですわ」


 言われて、提督は側に立つミカに視線をうつした。


「君は昨日、私に何かを言おうとした少女だね」

「ああ」

「一つ聞きたい。君と、ミルドレットは何か関係があるのか? 同じサポートヒーラー、そして、あのクラスターバルーンから商船を守るほどの実力」

「そうだな……」


 ミカは少し考える。


「ミルドレッドは俺の師匠だ。彼はどうしても他に行かなければならない場所があると、俺に解決方法を託して、この町を去ったよ」

「そうか……彼の言うことは正しかったな」


 ミカは、元の姿の自分を、師匠と言うことにした。もしバレれば、今後の行動が難しくなるだろうと考えた。


「彼には謝らねばならない。彼からボムバルーンの話を聞いた後、彼の証言に整合性があることがわかった。出航を急がせたが……君たちが彼の指示を受け動いていなければ、貿易商の多くが亡くなっていただろう。貿易商の彼らは、この港でも特に大きな貿易を行う者たちだ。彼らに何かがあれば、海軍の名折れであったところだ、感謝する」

「まぁ、師匠は元Sランク冒険者だし、信じられなくても仕方ないかな」

「そうだな……今回の詫びだ。ミルドレッドのことは、我らヴェネシアート海軍では、Sランク冒険者と同じ扱いをするよう、手配しておこう。私の独断、王国には報告できないものだがな。あと……」


 すると、提督はパーティんの4人を見て。


「もしよければ、君たちを我ら海軍の特別契約パーティとして登録したいのだが、いかがだね?」

「なんだって!? ぼ、僕たちを特別契約パーティに!?」


 ミカとアゼル以外の二人が驚く。


「なんだ? その特別契約パーティというのは」

「ウチも知らねぇ」

「知らないのかいミカ!? というかなぜアゼルも知らないんだ……そ、そうだな、まず、海軍と冒険者パーティというものは、有事の際に冒険者の力を借りるべく、一部のパーティと契約することがあるんだ。契約することで、冒険者パーティには支給金や特別な待遇が与えられる」

「ですが、それはAランクやSランクのパーティが普通ですわ。特に町にとって重要なパーティと判断された場合、待遇が良い、特別契約を結びますの」

「それこそ、特別契約パーティなら、海軍からサポートを受けられるし、この町ではSランク級のパーティの扱いになるんだ」

「マジか! ウチらがそれに!? すげーじゃん!」

 

 ミカはなるほど、とうなずいた。


「提督さん。俺たちとしてはうれしい限りだ。だが、俺たちはまだDランクパーティだ、本当にいいのか?」

「もちろん、それは承知のうえだとも。しかし、実際のランクと実力が異なる例があるとはいえ、君たち、特にミカ、君は相当な実力者であろう。ならば、問題ない」


 すると、提督は一枚の書類を取り出した。赤い紙には無数の文字の羅列。そこには、名前を記入する項目がある。


「リーダーはそこの聖魔導士だったな、サインを」

「は、はいですわ!」


 ショーティアが名前を記入し、ここにDランク冒険者パーティ『青空の尻尾』は、ヴェネシアート海軍の特別契約パーティとなった。


〇〇〇


「ふう……」


 帰宅したミカ達は、それぞれ疲れを癒していた。

 ミカはというと、新しい屋敷に自ら作った、石造りの風呂に入浴していた。

 比較的大きな風呂だ。小さなリテール族になっているミカ一人では、なかなかに余裕がありすぎるほどの風呂だ。


「やっぱり、未だに慣れないものだ」


 ミカの頭には猫の耳、背中には尻尾。

 慣れ親しんだ感覚が消失し、代わりに違う感覚が存在する。

 クロ達は、自分の意思で尻尾や耳が動かせる、というのを最近ミカは知った。

 だがミカはというと、耳や尻尾をうまく意識することができない。

 耳や尻尾は、ミカの心理状態に合わせて勝手に動いてしまっていた。


「耳や尻尾も、かなり敏感だ。それこそ風を感じ取れる程度には」

 

 そう言いながら、風呂の中で自分の尻尾を触る。

 体は女性の体だが、こちらはある程度、ミカは慣れていた。


「まだ他人に見られるのは恥ずかしいものだが」


 ふと、ミカは思い返す。商船上で、彼女たちが連携し、見事にAランクモンスターを撃退したことを。

 そして、自分を守るために戦ったことを。


「ははは……」


 ミカの口からは、自然と笑みがこぼれていた。

 前のパーティで得られなかった感覚。それを、ミカは感じていた。

 すると。


「ミカ!」


 その声と共に、ミカのしっぽがぎゅっと何かに握られた。


「にゃあああああああ!!」

 

 思わず風呂の中で暴れまわってしまうミカ。そして、自分の口から出た悲鳴に、思わず口を押えていた。

 ミカの前には、同じく風呂に入ったクロが。


「あっはっはっはっ! もう完全にリテール族だね! 尻尾をつかまれたときの悲鳴まで同じだ!」

「り、リテール族は尻尾をつかまれるとあんな悲鳴を出すのか!? それより、お前はだかじゃないか! 前を隠せ、前を!」

「いいじゃないか、僕たちの仲だ」

「だが俺は男で……」

「全く、一時的に戻れるとしても、今は女性だろう? まぁ、裸同士、ゆっくり風呂で話そうじゃないか」


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