11話 サポートヒーラー、跡地へ向かう
そして海軍本部の提督執務室へとやってきたミカを出迎えたのは。
「いらっしゃいミルドレッド。相変わらず可愛いわね!」
「アンジェラ、可愛いはやめてくれ」
ミカの予想通り、アンジェラだった。
執務室には他に提督と、占星術師のククルが居た。
「お、ククル。その恰好を見るに、親衛隊に入ったんだな」
「はい。おかげさまで。今は姫様の秘書をしております?」
「姫様?」
「はい。姫様のお父様が、そう呼ぶようにと」
話している二人に、アンジェラが割り込んでくる。
「もう! だからその話はやめなさい! そしてミカ。モニカから簡単な話は聞いたわ。詳しく聞かせてくれるかしら」
「ああ」
そして執務室内で、ミカは先日あったことを話した。
大空洞の第二の入り口を見つけたこと。かつての大犯罪者の死体を見つけたこと。そして、大犯罪に使われた、ゴーレムの心核を見つけたこと。
一通りの話を聞いたアンジェラは、小さく息を吐いた。
「見つけてくれたのがミルドレッドで良かったわ。大空洞で見つかった物は、冒険者が登録した国の物になるルールだから」
そう話すアンジェラに、モニカが補足する。
「そのルールに当てはめるならば、その心核はこのヴェネシアートの物となる。幸いにも、ヴェネシアートとバレンガルドの関係は属国の中でも良好だ」
「そうでない国もあるわ。例えば属国ながらも、バレンガルドを逆に属国にするため国力をつけ、暗躍している国もあるの。犯罪行為なら私が摘発してぶっつぶしてるけど、もしその心核を先にその国の冒険者に見つけられていたら……研究、量産でもされれば、最悪バレンガルドと属国のパワーバランスが崩れたかもしれないわ」
そこまで話したところで、アンジェラがミカに感謝を述べた。
「ありがとう。なんだか、ミルドレッドには救われてばかりね。ブラックマーケットの件といい、このヴェネシアートのことといい」
「私も同じ意見だ。アンジェラ同様、ミルドレッドと彼のパーティには世話になっている。と、ミルドレッドではなくミカであったか」
「あ、そういえば正体がモニカにバレたのよね? 話は聞いたけど、本当に笑ったわ! モニカってば家を壊しちゃうんだもの!」
「アンジェラ……その言葉は私に効く。やめてくれ」
少し談笑したところで、改めてミカの持ち込んだ話について、アンジェラは。
「今日の夕方からバレンガルド本国で大攻略が始まるわ。大空洞の入り口については、混乱を避けるために大攻略が終わるまで秘匿しましょう。それと、ゴーレムの心核……下手に出してどこかにしまうより、話を聞いた限り、その大空洞へと続く小部屋にしまったままの方が安全そうね。扉に封印も施したのよね?」
「ああ。学術士の障壁魔法を応用して、一応はな。俺とパーティの皆の魔力と使って封印した。開くには俺たちパーティのだれかの魔力を注ぐか、数百年経って封印が劣化するか、俺以上の魔術師以外には解けない」
「ミルドレッド以上なんてそうそう居ないから大丈夫ね。大攻略が終わるまでの間、私も信頼できる者にゴーレムの心核について聞いてみるわ」
すると、大空洞の第二の入り口についての話を切り上げたアンジェラは、次に別のことをミカに話し始めた。
「ミルドレッド。一つあなたに謝らないといけないことがあるわ」
「ん、なんだ?」
「ドレンクが釈放されたの」
アンジェラの言葉に、ミカが息をのんだ。
「……何故だ?」
「ブライアン。私の兄の仕業。あの兄は何を考えてるんだか……」
「あいつが表に……他のパーティメンバーは。たとえばミューラは?」
「厄介なことに、紅蓮の閃光のパーティは、私の知らない間に遠くの監獄に移動されたのよ。その監獄に行っても、また別の監獄に移動されたって。途中から所在もうやむや。刑務所に入れられたあとは、私が管理しているわけではないから……不正に奴隷として売られたのではないかって親衛隊に調べさせてはいたけれど、今はどうなってるかわらかないわ。ごめんなさいね」
「いや、しかたないよ。その兄さんは何がしたいんだろうな、本当に」
と、その時ミカはとある事を思い出した。
「そういえばリーナが前に話してたんだが、リーナがキメラにされた研究所に連れていかれたのって、ドランクの知り合いの仕業らしい。突然襲われ、気づいたら研究所に居たって。だからドランクを当たれば……って、前に聞いてたよな、アンジェラ」
ミカは気づく。アンジェラは、ミカの言葉にハッとした表情を浮かべていた。
「そうよ……それよ! 前は簡単にはドランクにその話を聞けなかったわ。見つけられなかったもの。奴が居るなら、直接問いただせばいいわね!」
そんなアンジェラに対して、モニカが口添えする。
「アンジェラ。その話であれば、そのブライアン王子にも話を聞くといい。何故王子がドランクとやらの居場所を知っていたかがわからない」
「確かにモニカのいう通りね。ドランクと出会ったときはヴェネシアートに向かうのに夢中で思いつかなかったわ。それにしてもなぜブライアンが……嫌な予感がするわ」
すると、思い立ったようにアンジェラは出口へと向かうと。
「ククル! 発つわよ!」
「姫様。もうですか。来たばかりですが」
「いてもたっても居られないわ! ブライアンは冒険者ギルドと関わりが深い以上、大攻略の開始に立ち会うわ。あのドランクも一緒のはず。私たちは王国一の騎乗空竜で来たから、少なくともあいつらは王都付近にまだ居るはずよ」
「わかりました……ですが」
すると、ククルは不安そうな顔を浮かべて言った。
「ヴェネシアートが『小吉』なのです。それ以外は、『凶』かもしれません」
「もう小吉な情報を得たじゃない。ほら、さっさと行きましょう!」
そうしてククルの手を引いて、部屋の外へと駆けていったアンジェラ。
執務室にはミカと提督の二人が残された。
「……こほん」
すると、小さな咳をした提督は。
「アンジェラのいう通り、大空洞と心核のことは、大攻略の後に考えるとしよう。して、アンジェラが来たために急きょ午後の予定を何とか全て空けたのだが、暇になってしまったな……」
そして、提督はミカに提案した。
「今日、パーティハウスの跡地への立ち入り申請をしていたな。私にも何か手伝わせてくれないか?」
〇〇〇
「ふー、こんなもんかぁ?」
「あらあら、上出来ですわ」
額の汗を拭くアゼルを、ショーティアが労った。
パーティハウスのあった崖下で、青空の尻尾の皆が集まっている。
浜辺には海の中から引き上げられた、いくつかの貴重品が荷車に載せられていた。
ミカの鍛冶用ハンマー、ダンジョンで手に入れた戦利品、依頼のお礼に貰った品や、ミカのお手製家具でも無事なもの、皆が趣味で集めていたものなど様々だ。
さすがに水に浸かって使えなくなってしまったものや、流されたものもあるものの、ある程度の回収は出来ていた。
「がくがくぶるぶる……ちょ、ちょっと寒いでありますよクロどのー!」
「ルシュカ、思いっきり転んで海にダイブするんだもの。着替えたとはいえ、ヴェネシアートの風は冷たいし、寒いに決まってるよ。少し体を動かすといいかも? ほら、背中もさすってあげるから」
クロがルシュカの背中をさすり、温める。
そしてその側では、海を見つめるシイカ。その側に、リーナが近寄る。
「カーテン、残念だったわね。もう破けてぼろぼろだし、使えないわ」
「……にゃ」
耳と尻尾をたらして残念がるシイカ。そんなシイカをリーナが慰める。
「ま、気を落とさないことよ。あたしは裁縫がへたくそだから無理だけど……きっとミカがまたあのカーテンを作ってくれるわ」
「にゃ……」
シイカの背中をぽんぽんと叩くリーナ。
こうして一通りの回収を終えた皆は、少しの小休憩のあと、海軍宿舎へと戻る準備を始めていた。
そんなとき。
『おーい!』
どこか遠くから聞こえてくる男性の声。その声に最初に気づいたのは、クロだった。
「どこからの声だろう。上?」
その声はなぜか空から聞こえてきた。そしてクロが空を見上げる。同時に。
「っ!! 逃げて、ガリ猫!」
リーナの声が響き渡る。その声を聞いたクロが、空から降って来る『何か』を見上げつつ、数歩足を引いた。
空から降ってきたそれは、剣を持っていた。その切っ先が、クロに振り下ろされる。
数歩引いていたおかげだ。もし引いていなかったら、クロの体は両断されていただろう。クロの方から腰にかけて、剣が肉を一センチほど切り裂く。
致命傷ではない。だが、誰がどう見ても重傷と言うであろう傷。瞬間、クロは悲痛な叫びをあげた。
「う、あああああああぁぁぁぁぁ!」
クロの声に一番最初に反応したのはショーティアだ。すぐさま杖を手に、クロに対してヒールを飛ばした。
「ファストヒールです! ルシュカさん! クロさんを!」
「承知であります!」
ショーティアがクロの傷を治癒し。側に居たルシュカがクロを空から降ってきた『何か』から引き離す。
「う……あ……ありがとう、ルシュカ」
「クロどの。あまり喋らないほうがいいであります。傷は完治してないであります……あと少しヒールを受ける必要があるであります」
ショーティアがクロに近寄り、ヒールを続ける。
そして、クロに向いていた皆の視線は、次に空から降ってきた『何か』に注がれた。
空から降ってきた何か。それは。
「よう、雑魚猫共。久しぶりだな」
鎧を纏ったパラディン。その姿を見て、リーナが呟いた。
「ドランク……?」




