10話 サポートヒーラーと魂蝕病
ルシュカから事情を聞いたミカは、まずはショーティアにルシュカの両親に何か出来ないか相談することにした。
パーティハウスが壊れて落ち着かないこともある。ミカは他のメンバーには話さず、まずはショーティアとだけ話そうと考えていた。
しかし昨日はショーティアと二人きりになる時間が取れず、二人きりになれたのは翌日の昼であった。
買い出しと称してヴェネシアートへ出たミカとショーティア。一通りの買い出しを終えると、ミカはショーティアをカフェへと誘った。
「あらあら、カフェでプレイなんて、ミカさんも大胆でいらっしゃいますわ」
「だからそんなんじゃないって」
「あらあら、違いましたか。ではわたくしのおっぱいでも揉みますか?」
「公共の場だ。そういう発言は控えたほうがいいぞ」
「残念ですわ……一昨日の夜は、あんなに大胆でいらしたのに……」
「あれはむしろショーティアさんが……」
そしてカフェへ向かった二人。席に着いたのち、ミカは水を、ショーティアは紅茶を手にひと段落する。
そこでミカは、ショーティアにルシュカの事情を話すことにした。
ミカがルシュカに関する話をショーティアにし終えると、ショーティアは。
「ミカさんも気づいていましたのね」
「その様子だと、ショーティアさんも?」
「ええ。わたくしも気づいていました。うすうすとですが。ルシュカさんが商人ギルドに頻繁に行かれる理由は、それしか無いと考えていましたわ。わたくしも時期を見て、ルシュカさんにお尋ねするつもりでした」
ならば話は早いと、ミカはショーティアに相談を持ちかけた。
「俺たちでルシュカの親の手助けは出来ないかな」
「そうですわね……わたくしとしても、お助けしたいです。幸い金銭的な余裕はあります。ですが、ルシュカさんのお母様の病は、貴族であったルシュカさんのお父様が借金を抱えてしまうほど、お金のかかる病です。私たちのお金を全て送ったとしても到底足りず、焼け石に水でしょう。ルシュカさんもそれは知っているはずですわ」
「そうだよな……」
それでもルシュカは両親を愛している。焼け石に水だとしても、自分の小遣いを父親に送っていたのだろう。
「それほど金のかかる病か……」
ミカが呟くと、それに答えるかのようにショーティアが言った。
「魂蝕病というものをご存じですか?」
「……知ってる。なんとなく察しがついてたよ。突然、魂と自身の魔力が相容れなくなり、魔力が魂を蝕む病。現状では原因もわからず、治療法も無い。冒険者がかかりやすいと言われているが、必ずしもそうと限らない病だ」
「はい。初期症状として手足の痺れから始まり、次第に動かすことすら叶わなくなります。五感さえ失っていき、全身を長期間猛烈な痛みが襲い、その後は強烈な幻覚。最後には意識を失い、目覚めなくなります。体は死んでいないのに、一切目覚めなくなります。そして、いずれ自然と息が止まる……この病にかかった患者を、わたくしは何度も見てきました」
「見てきた……そうか」
ショーティアの過去。ショーティアは神学院で、安楽死の魔法である『ヘブンデス』を用いた重病患者を安楽死させる仕事を押し付けられていた。
「全身の猛烈な痛み、もしくは幻覚を見始めた時点で、魂蝕病の患者はヘブンデスの対象となります。何度も、何度もこの手で、我らが神、イデア様の元へ魂を送りました。その中には、わたくしのお母さまも」
「母さん……そうか、ショーティアの母親も」
「はい。魂蝕病でした」
さらにショーティアは、ルシュカの母親の事を話す。
「ルシュカさんのお母さまは既に最終段階、意識を失った状態ですわ。あとは自然と弱り、最後には息が止まります。ですが、大空洞から産出したマナストーンから作った魔力水を用いて生成した薬品で、命を伸ばすことは可能です」
「だが大空洞産のマナストーンを使う。とにかく高額だ。そして出来るのは命を伸ばすことだけ、か」
そう、出来るのは命を伸ばすことだけ。
「大空洞のマナストーンも、いつでも採れる訳じゃない。いや、あの第二の入り口から俺が……」
「ミカさん。それはなりませんわ。大空洞に関しては、ミカさんやリーナさん以外の私たちではあまりに役者不足。それにどんなにマナストーンを採ったとして、いずれは尽きます。いくらミカさん達と言えども、一度や二度ならまだしも、大空洞に都度入ってマナストーンを採取して頂くのは危険です。何より、あの第二の入り口をどうするかは、まだ決まっていません」
ミカであれば大空洞のマナストーンを採取することは可能だろう。だが、リスクが高い行為であることは間違いない。
「そうだな……出来れば根本的解決、もしくは何か代替できる薬品といったアイテムがあればいいんだが……」
頭を悩ませるミカであったが、そんなミカのショーティアが話しかけた。
「魂蝕病は多くの方が研究し続けています。だからこそ、すぐに解決は難しいですわ。まずは、わたくしたちに出来ることから始めましょう。ルシュカさんのお父様は、食べるのにも困るほど困窮しながら、お金を集めていると伺っていますわ」
「ああ。ルシュカは父親が生活に困っているから、そのためにお金を送っていると言っていた」
「おそらく送られたお金を受け取ったとして、きっとルシュカさんから届いたと気づけば使いませんし、気づかなくても、お母さまの治療費に当てられているでしょう。ですから、ルシュカさんにはこれまで通りお小遣いをお渡しして、お父様に送るか判断してもらうと共に、わたくしたちパーティの余り物をお父様に匿名で送ってはいかがでしょう?」
ショーティアの提案に、ミカが首をかしげた。
「余り物、というと?」
「はい。たとえばミカさんの料理で余ったものを、ミカさんに保存がきくよう加工して頂いて送る。他には、裁縫で余った端材を使って、わたくしが生活用品を作って送る、などです。余りものであれば、ルシュカさんも気を使わないでしょうし、ね?」
と、優しい笑みを浮かべたショーティア。その提案に対して、ミカが首を横に振る必要はなかった。
「たしかに病気の問題はすぐに解決は難しい。お金を送っても付け焼刃にもならない。だがルシュカの父親が倒れたら元も子もない。根本的な解決にはならないが、最低限ルシュカの父親が生活に困らないようにするには、それがいいかもしれないな。幸い商人ギルドと魔鏡石の契約をしてるから、そのつてを使って。匿名で物品を送ることだって可能なはずだ」
「でしたら、まずはこの方法でルシュカさんに提案してみましょう」
「ああ、俺も賛成だ。そうだな……皆は俺のご飯をおいしそうに食べてくれるし、今度から材料を『多めに』買っておくよ」
「あらあら。わたくしもちょうど、衣類の材料となる布を安く売っている女性の商人さんに会いましたの。きっと今後はいつもより『多めに』材料を買ってしまうかと思いますわ」
そんな話をして、二人は笑いあう。そしてミカは、笑みを浮かべながらショーティアに言った。
「ありがとうな、リーダー」
とミカが感謝を述べたときだった。
カフェに海兵らしき姿の女性が二人入ってきた。その姿を見つけたミカは、思わず話しかける。
「あれ、フゥさん」
それは海軍宿舎で知り合った女性兵士のフゥだった。すると彼女はミカ達の存在に気づいたようで、ミカたちの座るテーブルの側に駆け寄ると、敬礼のポーズをとった。
「お探ししておりました! 提督よりご連絡です! 『彼女が到着したから、提督執務室まで来てほしい』とのことです!」
「えっ、もう来たのか!?」
提督の言う彼女というのが、アンジェラ王女であることをミカは察していた。
「思ったより早かったな……どうするショーティア。たしか買い出しが終わったあと、パーティハウス跡に向かうはずだったが」
ミカとショーティアを除いたパーティメンバーの皆は、冒険者区画のパーティハウス跡へと行っていた。
青空の尻尾のパーティハウスがあった場所は、今冒険者ギルドや海軍に『危険地帯』として封鎖されてしまっている。
だがパーティハウスの崩壊時に海に沈んだ物品の全ては回収できておらず、その回収を皆は望んでおり、提督の助けもあったおかげで、なんとか今日一日だけ、パーティハウスのあった場所へ入ることを許されていた。
ミカとショーティアは買い出しが終わり次第、パーティハウスのあった場所に向かい、皆と合流する予定でいた。
「大空洞の第二の入り口に関しては、とりあえず俺が居れば説明はできるが」
「でしたら、わたくしは皆さんのもとへ向かいますわ。ミカさんには申し訳ないですが、この件に関しては、わたくしではお手伝いできることも少なく……なので、ミカさんの分まで、わたくしが海に沈んだものを回収してきますわ」
「助かるよ。俺が鍛冶でよく使ってたハンマーがあるから、それを探してくれると助かるな。っと、買い出しの荷物はどうするか」
ミカが荷物をどうするか悩んでいると、側に居たフゥが提案した。
「これは私が持って行きます。皆さんの宿舎へ持って行けば良いですね? お任せください!」
「いいのかな? 助かるよ。それじゃショーティア。俺も話が終わったらパーティハウス跡地へ向かうよ」
そしてミカはテーブルから立ち上がり、カフェの会計を済ませ、提督の執務室がある海軍本部へと向かった。




