9話 サポートヒーラー、頭をなでる
「申し訳ないであります。パーティのお金を自分のために使っていたであります」
「あれはルシュカのための小遣いなんだ。ルシュカがどう使おうったって、皆文句は言わないはずだ。それに、今俺たちは結構金持ちだ。もし必要なら、ショーティアと相談して、ある程度ならもっと父親に送っても大丈夫なはずだ」
「いやいやいや! それは駄目であります! そうしてしまうと、本当に際限がなくなってしまうであります……自分の父は、今は自分の生活にも困るほど困窮していると聞いたであります。自分は少なくともその助けになればと、お小遣いを商人ギルドを通して、匿名で送っていたであります」
パーティの皆に迷惑をかけず、それでいて両親も支えたい。そう考えた結果が、この行動なのだろうと、ミカは考えた。
(皆、本当に優しいよな)
ミカは思う。青空の尻尾の良いところはここだと。
ミカがパーティに入る際も、自分が本来は男性であることを受け入れ、そしてSランクパーティから追放された事実がありながら、パーティに誘ってくれた。
リーナがパーティに加入する際も、リーナの体質を受け入れつつ歓迎してくれた。
だが、皆はただ優しいだけではなく、駄目なものは駄目と押し通す力がある。
ショーティアとミカ、特にミカに関しては、優しさとおせっかいさを暴走させがちだ。その暴走の結果が、かつての紅蓮の閃光での扱いにつながったとも言える。
だが、ミカが優しさで道を踏み外しそうなとき、皆が注意し、止めてくれることも多い。
ミカに限らず、時折誰かが悩んだりしているときも、皆で話し合って、協力してくれる。これはミカが紅蓮の閃光で得られなかった、パーティの強みだ。
(でもやっぱり、ちょっと一人で考えすぎかな、俺)
ルシュカのために、自分たちは何ができるか。きっとルシュカは遠慮するだろうが、ミカはルシュカの助けになりたい。そしてそれは、パーティの皆も意思は同じのはずだ。
だからこそミカは、ルシュカに提案した。
「今はパーティハウスが壊れて落ち着かないだろうからさ。しばらくしたら時間を設けて、ルシュカのことを皆で相談してみよう。母親の医療費のことや、俺たちに何かできることないか」
「でも……良いでありますか?」
「俺からショーティアに話してみるよ。ショーティアもきっと良いって言ってくれるはずだ」
そうしてミカはルシュカへ近寄ると、ルシュカの頭をなでた。
「俺が言うのもなんだが、一人っで悩むなよ」
「えへへ……なんだかほんとにお兄ちゃんみたいであります」
「あはは。なら、お兄ちゃんらしく、何かあれば俺に頼れよ?」
「そうでありますか! ではでは!」
するとルシュカは湯舟の中で立ち上がり、なぜかミカに背中を向けて、恥ずかしそうに頬を赤く染めて言った。
「ぜひぜひ、力一杯叩いて欲しいであります!」
「……」
ミカの目の前には、おしり。ルシュカの傷一つ無い、つやっつやのおしりがあった。
ミカは真顔のまま無言で立ち上がると、浴場の出口へと向かった。
「ま、待ってほしいであります! お兄ちゃんやお姉ちゃんにおしりペンペンされるのが憧れであったであります! た、叩いてほしいでありますうううう!!!」
ルシュカの言葉を華麗にスルーしたミカは脱衣所に戻ると、そのまま浴場の扉を閉めた。
〇〇〇
アンジェラが王都を出てヴェネシアートへ向かっていた頃。
王都の城にあるブライアンの私室に、ブライアンと共に一人の男性の姿があった。
「いいのかよ王子様。私室に俺を入れるなんてな。不本意だが、一応俺は元犯罪者かつ、Sランクの称号をはく奪された身らしいが」
それはドランクだ。ミカが作ったものほどでは無いにしろ、かなり上質な鎧を着こんだまま、椅子に座っている。
ドランクの質問に対して、ブライアンが答える。
「ええ。心配ありません。あなたの罪は、全て私の権限を持って赦免していますから。今やあなたは、王子の親衛隊隊長であり、『プリンスナイト』の称号を与えられた王国筆頭のパラディンですよ」
「あの研究施設の牢から出されて、即日就任には驚いたけどよ。感謝してるぜ」
「もうすでに色々と『仕込んで』いますから。この程度はお茶の子さいさい、というものです。近々正式に就任式を開きますよ」
すると、ドランクは自分の手を見て、力強く拳を握りしめた。
「最初はあんたを恨みはしたさ。あの研究施設で色々されたからな。だが今は感謝してる。俺にこの力を与えてくれたからな」
「感謝にはおよびません。あなたは数少ない、完成品と呼べる存在です。だからこそ、あなたをこうして側に置くことにしたのですから。他のパーティの皆さんは残念でしたね。皆実験に耐えられなかったようで」
「ふん。紅蓮の閃光でも、俺の力にすがっていたような奴らだ。どうなろうと知ったことじゃない。ミューラだけは、少し気になるが」
「中々悲惨ですよ。聞きたいですか?」
「おお、それはいい気味だ。あいつが連れてきたミカのせいで、紅蓮の閃光はめちゃくちゃになったんだ。まったく、疫病神だよあの女は」
そしてドランクは、今の言葉の中にあった人物の名を、再度繰り返した。
「ミカ……全部あいつのせいだ……あのクソ野郎をぶっ殺さねぇと気が済まねぇ……!」
ドランクが壁を拳で殴りつける。すると、拳は壁にのめり込み、壁にはヒビが走った。
「おっとすまねぇ。まだ力の調節に慣れてなくてな」
「まったく、そのあたりはほどほどにしてください」
すると、ブライアンは室内にあった窓の側へと近寄った。窓からは、王都を見下ろすことができた。
「さて、着々と仕込みは進んでいます。入れ違いになってしまいましたが、あとは彼女が戻って来るのを待つだけ」
「なんだ、まだ動かないのか」
「ええ。だからあなたには、好きに行動してもらってもいいですよ。なんなら、王都で暴れてもいいですよ? 私が全てもみ消しますから」
「そうだな。俺を後ろ指刺すような、舐めた真似する奴はぶっ殺したい気分だ。だが、それよりも先に、ぶっ殺したい奴らが居る」
ドランクがそう言うと、ブライアンは室内にあった机の棚から、一枚の紙を取り出した。
「冒険者ギルドから入手しました。こちらが、あなたが所望していた、紅蓮の閃光がSランクの称号をはく奪された際、そこに居たパーティの情報ですよ。名は『青空の尻尾』。どうやらミルドレッドという者は所属していないようですが、ミカという、ミルドレッドの弟子という少女が居るようです」
「ミカ? あいつのあだ名と同じ名前か。同じ名前だから、弟子にしたってか。低能な学術士がやりそうなことだな。そいつらはどこに?」
「ヴェネシアートの冒険者居住区に居るようです。おや?」
ブライアンがそう言うと、既に室内からドランクの姿は消えていた。
「やれやれ。性格には問題ありますが、かえって使いやすいですね。さて、私も準備するとしましょうか」
そうして、窓の外を眺めたブライアンは、王都を見下ろしながら一人、呟いた。
「戻って来るのを待っていますよ。アンジェラ」




