表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/119

10話 サポートヒーラー、海を駆ける

 夜中。周囲が暗闇に包まれる時間帯。

 ミカの姿は、パーティハウスの崖下にあった。すでに聖水の効果は切れて、リテール族の少女の姿になっている。


「こいつを修理すれば……」


 ミカはあの商人が乗っていた高速船の修理をしていた。

 魔法の力で動く、小型の船。そのスピードはすさまじく、一部の船では、緊急脱出用として備えられているほどだ。

 ミカならば、高速船くらいなら一から作ることも可能だ。だが、素材の調達をする手間を考えれば、大破した商人の高速船を直すほうが早い。


「軍はあてにできない。なら、俺が行くしかない……」


 Aランク、Bランクのモンスターを単騎で倒せる。自分しかいない、と考えた。

 そこへ。


「まったく、僕たちを仲間外れにするなんて」


 ミカが振り向くと、そこには。


「クロ!?」

「話したばかりじゃないか。一人でかかえこむなって。万が一魔力が足りなくなったときのため、ソーサラーの僕は連れてたほうが良いんじゃないかい?」

「今回ばかりは危険すぎる!」

「ウチらだって、一応冒険者のパーティだぜ? 戦闘じゃ足手まといかもしれねぇが、ケガした商人とか運ばないといけねぇだろ?」

「アゼル……そ、それはそうだが……」

「それだけではありませんわ。あなた一人でけが人のヒールをするのは、時間が惜しいのではありませんこと?」

「ショーティア……」


 確かに彼らの言う通りだった。

 ミカが全部こなすより、三人にできることは、三人にやってもらえれば良い。

 今回は時間との勝負だ。三人が居れば、時間の短縮ができる。

 そして何より。


「はは、心強いよ、みんな」


 ミカは思う。こんなにも仲間を心強いと思ったことはなかった。

 いつも頼られ、押し付けられてきた。だが、三人からは、自分でできることは助けたいという意思が伝わってくる。

 

「よし、修理完了だ」


 高速船の修理を完了したミカは、さっそく船に乗り込み、三人に促した。


「船にはBランクからAランクのモンスターが複数いるはずだ。実質、Bランクのダンジョンに近い。皆はまだDランクだ。危険が伴うだろう。それでも、いいのか?」


 すると、その言葉にアゼルが。


「何言ってんだ。ミカがメンテナンスした武器があるんだぜ? 余裕余裕!」


 同時に、三人が高速船に乗り込んできた。

 高速船の総舵輪を握ったミカは、笑顔を浮かべた。


「さぁ出発だ! 飛ばすぞ!」


〇〇〇


 まだ夜も明けない時間帯。

 海洋へ出たミカたちは、密輸船を探していた。


「商人の乗っていた高速船の消耗具合を調べて、大体の海域を割り出した。この辺のはずだ」

「ミカ、やっぱりキミはすごいな」


 ミカたちは船を探す。不思議なことに、ほぼ真っ暗闇の海の上でも、ミカは遠くを見通すことができた。


(リテール族は夜目が利くって聞いたな。まさかこんなところで役に立つとは)


 そして夜目が利いたおかげか。


「見つけましたわ。あそこ、救難灯らしきひかりが」


〇〇〇


 ミカたちがたどり着くと、そこには密輸船と、それに繋がれた一隻の商船があった。

 ミカ達は商船へと乗り込み、すぐに帆の修理を始めた。


「何故帆を直しますの?」

「商人たちを助けたら、すぐに脱出する必要があるだろ? ……良かった。帆は根元から折れているが、海に落ちていなかったようだ。これなら直せる」

「なぁなぁ、大丈夫なんかよぉー? マストとか持てるはずないのに直せるのかよぉー?」

「30分で直すさ。クロとショーティアはモンスターが来ないか見張っていてくれ。モンスターが来たらすぐに報告を頼む。アゼルはそこの部品をおさえておいてくれ」


 そう言うと、ミカが魔法を詠唱する。重い物体を動かす浮遊魔法だ。

 浮遊魔法を駆使したミカは、次にハンマーと釘といった道具を取り出し、修理を始めた。気づけば、15分もしないうちに船は帆が折れる前の姿になる。


「ちょい帆を改良しておいた。前よりも早く移動できるはずだ」

「何度でも言う。ミカ、キミはすごいな」

「さぁ、次は船内の掃除だ。俺が行ってくる。みんなはこの商船を見張っててくれ」


 そう言って、ミカは密輸船へと乗り込んだ。ミカが密輸船へと乗り込んだ瞬間、ゴブリンやオークといったモンスターが襲い掛かって来る。


「ブルーゴブリンにファイアオークか。Bランク程度なら攻撃魔法を唱えるまでもない」


 ミカの周囲にバリアが展開されると、そのバリアに触れたモンスターが粉々になって吹き飛んだ。


「さて、さっさと救いに行くとしますか」


〇〇


「グリモアショット!!」


 ミカの手にした魔導書から、緑色の光弾が発射される。それに触れたブラッドフォックスの体は、散り散りに吹き飛んだ。


「Aランクもちょいちょい居たか。さて、あらかた片付けたとは思うが」


 ミカは船底の倉庫前へとやってきていた。この扉を開けば、奥には商人たちが居るはずだ。

 ミカはその扉を開こうとする。その時だった。

 どこからか、漂ってくる硫黄の匂い。それは、船底の倉庫の扉の横にある、もう一つの扉からだった。


「やはりボムバルーンか。速いところ脱出しないと。最悪、商船に乗り込めば広範囲バリアでなんとかなるはずだ」


 ミカが今後の予定を考えながら、ボムバルーンが居ると思われる扉を開いた。


「なっ……!?」


 そこに居たのは、浮遊する風船のようなモンスター。バルーンと呼ばれる、自爆するモンスターの種族であることは間違いなかった。

 だが、一般的なボムバルーンは赤色。強さ的にはBランクだが、危険さからSランクに分類されるモンスターだ。

 だから、ミカはボムバルーンだと考えていた。だが、ボムバルーンには上位種が居る。

 上位種も強さはBランク。だが、あまりに危険なため、特Sランクに分類されるモンスターだ。

 その特徴は、ボムバルーンが赤なのに対して、特Sランクのものは青色。

 ミカの視線の先には、赤ではなく、青色のバルーン。

 通称、クラスターバルーンと呼ばれる、災害級のモンスター。


「くそっ、とんでもないのが居やがった! 予定変更だ!」


 商人たちが居るはずの扉。その扉を開くと、中には多数の男たちが。


「助けに来たぞ」

「おお! あ、ありがたい! 君は冒険者だな!? 本当に助かった。いずれこの恩は……」

「話はあとだ! お前ら、全員商船へ逃げろ! 爆発するぞ!!」


 ミカが言い放つと、商人たちは大慌てで倉庫の外へと出てゆく。それについて行くように、ミカも後を追った。


 甲板に出たミカは、商人たちが全員商船に乗ったことを確認すると、自分も商船へ乗り込み、すぐにその場に居る全員に言い放った。


「あの密輸船は大爆発する! 今すぐ離れろ! 今すぐにだ!」


 商人たちはすぐに出航準備を始め、クロ、アゼル、ショーティアの三人も、その手伝いを始めた。


「ミカァ! 発進準備オッケーだぜ!」

「急げ! 帆には風力の薬を塗ってある。早く移動できるはずだ!」 


 アゼルが総舵輪を手に、すぐに船は出航した。

 そして少し密輸船から離れたところで、ボン、という爆発音。


「来るぞ……みんな捕まれ!」

 

 全員が船にしがみつく中、ミカは一人、船の真ん中で両手を広げた。


「魔法障壁、最大出力!!!」


 猛烈な爆発が密輸船から発生する。その爆発を、ミカが商船を守るように張ったバリアで防ぐ。

 だが爆発は一瞬。十数秒後には少し爆発の威力も収まってきたかに思えた。


「ミカさん、そろそろバリアはおさえても良いのではないですか?」

「いや、まだだ……あのバルーン、クラスターバルーンは、爆発と同時に、大量の爆弾を宙にばらまく」


 ショーティアが空を見上げる。そこには、小さな青い流星のようなものが、商船を含めた周囲の海に、大量に降り注いでいた。それはミカのバリアや海に触れたとたん、先ほど密輸船から放たれた爆発と同じ規模の爆発を、無数に発生させた。


「くそっ……魔法障壁、限界出力!!!!」


 ミカが全力で魔法障壁を展開する。恐ろしいほどの爆発規模だが、防げないわけではない。


(魔法に集中すれば全然防げる程度だ。あと3分もしのげば……)


 その時、一人の商人が悲鳴をあげた。


「も、モンスターだあああ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ