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1話 サポートヒーラー、追放される

「パーティを脱退する? とんでもない、ミカ、君は追放だ」


 王国から与えられたSランク冒険者パーティ用の部屋。その一室で、机越しに言われたその言葉に、男は握りこぶしを震わせた。

 

「そんな言い方は……無いんじゃないですか」


 彼の名前はミルドレッド・カルヴァドス。王国でもごく一部しかなれない、Sランクパーティの称号を持つ『紅蓮の閃光』という冒険者パーティに所属する「サポートヒーラー」の男だ。

 そんな彼は、メンバーから『ミカ』と呼ばれている。

 

「たかがサポートヒーラーの分際で、自ら脱退する? 今まで戦闘で大して役にたってなかったうえ、クランへの貢献もほとんどないくせにか?」


 ミカは反論する。


「あんたが身に着けてるその装備。ダンジョン産の加工が難しい素材を、寝る間を惜しんで加工し、装備にしたのは俺です」

「だからなんだ? こんなの誰でも作れるだろ」


「みんながパーティの食糧庫から持ち出す、能力アップの食事は、俺が作ったものです」

「だからどうした? むしろ食ってやってるんだ。あんな大して美味くない料理」


「一時的に能力を上げる薬、あなたたちががぶ飲みする薬だって、俺が一から素材を採取し、作ってるものだ。マーケットでは高額で取引されてる」

「ん、そうなのか。なら売ってパーティの資金にするか」


「それに、戦闘でも、サポートヒーラーの役目である、攻撃の軽減、味方の強化だって適切に……」

「黙れ、お前の貢献なんてあって無いようなものだ。現に、お前のせいでダンジョン攻略を失敗したばかりだ」


 思う。自分のせいだとはどういうことだ。

 先日の高難度ダンジョン攻略時。Sランクモンスターが奇襲してきたとき、自分は即座にバリアを張り、ダメージを軽減しようとした。だが。


 パーティを守る役目、「タンク」の役割をするメンバーは、自分の防御を過信し、攻撃に対し盾さえかまえず。

 高い近接攻撃力を持つ、「近接アタッカー」のメンバーは、攻撃に夢中で敵の攻撃を避けず。

 魔法で敵をせん滅する、「魔法アタッカー」のメンバーは、敵の攻撃を回避することよりも詠唱を優先。

 圧倒的な回復力で傷を癒す「メインヒーラー」のメンバーは、敵の攻撃がメンバーに当たるのは明らかだったのに、回復よりも攻撃を優先した。

 

 こんな状況では壊滅は免れない。実際、適切に対処したミカを含めた一部メンバーを除き、ほぼ全員が瀕死に陥った。

 回復もとうてい追いつかない状況。ミカは最後の手段として「帰還魔法」を唱えてダンジョンから脱出したが、帰還魔法はすなわちダンジョン攻略失敗を意味する魔法でもある。

 命からがら脱出したミカは、攻略失敗の責任を全て押し付けられた。


(俺のせいで、か。俺のバリアが無かったら、即死だったろうに)


 Sランクパーティがダンジョン攻略失敗したとなれば、評価は下がってしまう。そしてパーティメンバーは、すべての責任をミカに押し付けた。

 今まで縁の下の力持ちとしてパーティに貢献してきたミカもこの処遇に心が折れ、パーティ脱退を決意し、切り出したのだが。


「お前が自ら脱退したなんて、なんか俺たちが悪いみたいでかっこ悪いじゃないか。だから、お前は追放だ」

「そうか……世話になった、ドランク」


 パーティのリーダーで、仲間を守るタンククラス、「パラディン」であるドランク。今までリーダーと呼んできた彼に背を向け、ミカは部屋の外へと歩き出した。

 そして部屋の扉を開き廊下に出ると、一人の女性に出会う。


「ミューラ……」


 それは聖なる魔法を扱う癒しのプロ、いわば「メインヒーラー」である聖魔導士の女性である、パーティメンバーの一人、ミューラだった。

 女性にしては身長が高く、長く茶色い髪も相まって、誰もが美人と呼ぶであろう女性。

 そして、ミカと同じ村の出身。幼馴染でもあった。


「ミューラ、俺、パーティ抜けることになった」


 だがミューラは興味が無いとでもいうように無表情で返す。

 

「ふーん、どうせクビでしょ? だってあんた、回復遅いし、私の負担ほんと大きいんだもん。サポートヒーラーとしてもダメダメだもんね。追放は当然当然」


 そんな彼女は、戦闘中にヒールをほとんど行わない。ヒールの大半をミカに押し付け、自分は攻撃ばかりしていた。


「攻撃も全然しないし。知ってる? 攻撃をしないヒーラーってゴミなのよ、ゴミ」


 ミカはヒールの大半を担いながらも、攻撃も行っていた。だが、それらはすべて彼女の手柄に、いつも置き換えられた。


「ミューラ、俺は……」

「私、ドランクに用があるの。どいてくれる?」


 無言でどいた。すると。


「どらんくぅ~」


 甘い声を出して、ドランクの居る部屋へと入ってゆくミューラ。

 ミカも、二人の関係がどういうものかは知っていた。

 だが、今となってはそんなこと関係ない。

 

「さっさと出るとしよう」

 

 廊下を歩き始める。すると、廊下の向こうから、他のパーティメンバーが歩いてきた。

 

「俺、パーティ抜けるから。今までありがとうな、グラス、ヴェイン、ジョゼット……」


 全部言い終える前に、ミカは口をつぐんだ。

 他のメンバーは、口々に「役立たず」「あはは、もう装備作ってもらえないね」「奴隷がいなくなるのかぁ、めんどい」と、ねぎらいとはかけ離れた言葉をつぶやきつつ、ミカの横を通り過ぎていった。

 一人になったミカは、大きく息を吐いて、つぶやいた。


「今まで俺がしてきたことって、なんだったんだろう」


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