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リコーダーに仕掛けた罠

作者: 斉木凛

あの女、絶対許さない!

私の長谷川君とイチャイチャしやがって。

どうにかして、あの女に痛い目を見せてやる。

それにしても、どうしてやろう。

階段から突き落としてやろうかしら。

手や足の一本くらいは折れるかもね。

顔に傷でも残るようならいい気味だわ。

ふふふっ。もしかしたら、死んじゃったりして。

・・・・・・でも、死んじゃったら、警察が来て犯人を探したりするんだよね。

そしたら、私がやったってバレちゃうかな。

捕まったら刑務所?お父さんやお母さんに怒られちゃうよ。

・・・・・・やっぱ、階段から突き落とすのは止めにしよ。

まあ、まずは上履きを隠すくらいから始めようかしら。


ターゲットは桜樹エリカ。

六年三組では一番の人気者のつもりみたい。顔もスタイルも良くて、勉強もスポーツも出来るからって、

人の男を取っていいって事にはならないのよ。

覚悟してなさい。

「・・・・・・ミカ、妹尾ミカ。どうした?ぼーっとしてんじゃないぞ」

やばい、やばい。エリカを貶めることばっか考えてたら先生に怒られちゃった。


上履きを隠すならエリカが帰った放課後だよね。今はまだ、教室には何人かの女子が残っていて輪になっておしゃべりをしている。その中にはエリカもいるから、私は自分の帰り支度をしながら、エリカが帰るのを待っていた。その女子たちは、

「体育館の裏で告白すると、成功率上がるんだってー」

「そうなのー。じゃあ、私が告る時は体育館裏にしよう」

「えー。エリカなら男子トイレで告っても大丈夫だよ」

「そんなわけないじゃーん」

女子たちが、どーでもいーことで盛り上がってる。さっさと帰りやがれ。

「あー。もうこんな時間。早く帰らなきゃ」

女子たちが、ぞろぞろと教室を出ていく。

昇降口を出ていく女子グループを遠くから見送り、エリカの下駄箱前に行く。辺りに人がいないことを確認するのを忘れない。エリカの上履きを取り出し、二年生の下駄箱の誰も使っていない場所に隠しておく。明日の朝、自分の上履きがないことに気付いたエリカがどんな顔をするのか楽しみだわ。


―――次の日の朝。

 エリカがいる。女子たちと楽しそうにしゃべっている。普通に上履きを履いてる。

なんで?

もしかして、このくらいの嫌がらせなんか気にしないってこと?なんなの。もー、許さない。

みんなの前で恥をかかせてやる。

 昨日の夜に思い付いちゃったことがあるんだ。それをやってやる。ちゃんと、準備もしてきた。放課後までは殺気を消して過ごさないとね。へんに警戒されてもやりづらくなるからね。


―――その日の放課後。

 もう、みんなは帰って教室には私だけ。エリカの席は私の隣の席。エリカの机に入れっぱなしになっているリコーダーを取り出す。

朝、お母さんの眼を盗んで、冷蔵庫から持ち出してきた、カラシのチューブを取り出す。そして、エリカのリコーダーの口でくわえる部分に、カラシを塗り付ける。ワサビやタバスコも考えたけど、リコーダーの口でくわえる部分はクリーム色だから、緑や赤だとバレちゃうじゃん。

これで、明日の音楽の時間のリコーダーの個人発表会で、エリカに恥をかかせてやる。


―――次の日の朝。

 ガッシャーン。私が教室に着くと、すごい音がして机が二つ倒れていた。エリカの机と私の机だ。ふざけていた男子に女子がぶつかって、机ごと倒れたみたい。ぶつかった女子はクラスでも地味な子だ。名前はなんだっけ。思い出せない。倒れてはいるけどケガはしていないみたい。ぶつけた足をさすりながら、机を立て直して、散らばった机の中身を集めている。私とエリカの物が入れ違ったりしたら嫌だから、私も自分の物を確認するために手伝うことにした。リコーダーが入れ替わったりしたら大変だしね。大丈夫。名前をちゃんと確認して机に戻したから。ほんと。どんくさい子。私の邪魔しないでよね。


―――その日の音楽の時間。

 リコーダーの発表会が続いている。次がエリカの順番だ。リコーダーをくわえた瞬間の動画を撮っておいてネットで、さらし者にしたいわ。録画する機械を持ってないから、できないのが悔しい。

 エリカがみんなの前に立つ。リコーダーをくわえる。演奏を始める。一曲吹き終える。

なんで?

カラシを舐めるの平気なの?やせ我慢?嫌がらせをされているのを知っている?相手にしないことで仕返ししている?

 結局、その後もエリカに変わった様子はない。何がどうなっているのかわからないまま、私の順番になった。こんな発表会なんてすぐに終わらせて次の手を考えなくちゃ。

そして、リコーダーをくわえると・・・・・・、

ゔぇ!

からいー。なにこれー。カラシ?なんで?

演奏どころではなくなった私は咳こんで、うずくまってしまった。すると先生が、

「誰か、妹尾さんを保健室に連れてって」

私は誰かに連れられて、保健室に向かうことになった。

保健室へ向かう途中の廊下で、


「どうして、エリカのリコーダーに塗ったカラシが、私のリコーダーに?って、思っているでしょう」


 どこからか声が聞こえてきて辺りを見渡すと、私に肩をかしている隣の女子がこちらを見ている。朝、机を倒していた地味な女子だ。名前はなんだっけ?

いや、そんなことより、わからないことを聞いてみた。

「なんで、それを知っているのよ」

地味な女子は歩きながら話し始めた。

「まず、あなたが桜樹エリカに恨みを持っているのは見ていれば、すぐにわかった。あなた、桜樹エリカに対してだけ凄い目つきで睨んでいたからね。

それに気付いた私は、あなたが桜樹エリカに何をするのか監視することにした。

階段から突き落とそうとするようなら、あなたを代わりに落としてやろうかと思っていたけど、上履きを隠すようなかわいらしいことしかしないようだったから泳がせておいた」

 エリカの上履きを戻したのは、この地味な子?

「そして、今日、音楽の時間にリコーダーの発表会があるのはみんな知っているから、リコーダーに何か罠を仕掛ける可能性があった。仕掛けるとしたら教室に誰もいない昨日の放課後か、今日の朝。

そう思った私は昨日の掃除の時間にあなたと桜樹エリカのリコーダーを入れ替えておいた。あなたは、入れ替わっているとは知らずに桜樹エリカのリコーダーだと思いながら、自分のリコーダーにカラシを塗っていた。

後は音楽の時間までにあなたと桜樹エリカのリコーダーを元に戻しておけば良いだけ。ちょうど、朝の朝礼前に男子がふざけていたから、わざとぶつかって、あなたと桜樹エリカの机の中身を床に散らばらせられれば、元に戻すのは簡単。

 もし、あなたが桜樹エリカのリコーダーに罠を仕掛けていなければ、何もないまま、ただ、あなたと桜樹エリカのリコーダーが入れ替わって元に戻った、というだけ。

今回、何もなかったとしたら、次に何を仕掛けるか予想して事前に防いでおくだけ」

それだけ言い終わると、前だけ向いて歩き続けた。


その後、その地味な女子の名前は、御影葵ということがわかった。普段から犯罪史の本を持ち歩いている変わった女子だ。


 その御影葵に監視されていると思うと、エリカに意地悪を仕掛けるのが怖くなっていた。そんなある日、御影葵から呼び出された。

「放課後、体育館の用具倉庫に来て」

あの子の有無を言わせない威圧感におされて、行くしか選択肢がなかった。

体育館の用具倉庫に着くと、御影葵は来ていなかった。仕方がないから待っていると、外でザッ、ザッっと足音が近づいてきた。

「桜樹はまだ来てないか」

この声は聞き覚えのある・・・・・・、

すると、ザッ、ザッっと足音を立てて、もう一人やってきた。

「長谷川君、待った?話って何?」

体育館の壁を挟んで、長谷川君とエリカがいる。私は息を殺して二人の様子に聞き耳を立てた。

「回りくどいのは苦手だから、単刀直入に言うけど・・・・・・、俺、桜樹の事が好きだ。付き合ってくれ」

えー?長谷川君、エリカの事好きだったの?私、告ってもいないのに振られちゃった?

「私も長谷川君の事、好きだった」

この二人、相思相愛だったの?付き合っちゃうの?

もう、エリカに意地悪するとか、どうでもよくなっちゃって、力が抜けて床に座り込んじゃった。

しばらくそのままでいたら、いつの間にか外の二人はいなくなっていた。帰ろうと思って倉庫の出入り口の方を向くと、そこには御影葵が立っていた。

「これで、全て終わったわね」

それだけ言うと、背を向けて帰ろうとする。

「ちょっと待ってよ。これは何なの?何であんたは長谷川君が今日、ここでエリカに告白するって知ってたのよ?」

御影葵は、ふぅと、ため息を吐き、めんどくさそうに私の方を見て、

「しょうがないわね。教えてあげる。

まず、長谷川君が桜樹エリカの事を好きだったのは、長谷川君の行動を見ていればすぐわかる。長谷川君は誰にでも優しく接しているけど、桜樹エリカに対するときだけ、からかうような態度をとっているのよ。ただ、それだけで決めつけて判断するのは危険だから、その後も監視を続けて可能性を高めたけどね。

で、その長谷川君が、今日桜樹エリカだけに何か囁いていた。それを聞いた桜樹エリカの反応を見ると、通常の事とは違う感じだった。その後の授業中も二人は、何かソワソワしたような素振りを見せていた。この時点では、告白する可能性が高いな、という程度だったけど、一応、あなたをこの場所に呼んでおいた。ここで告白するのは、あらかじめ私が誘導しておいた」

「え?どうやって?そんなこと出来るの?」

御影葵は、少し微笑んで、

「あなた、告白の成功率を上げる噂、聞いたことない?」

いつだったか、女子がしゃべっていたことが蘇る。


―――体育館の裏で告白すると、成功率上がるんだってー


あの噂、この子が流したの?

「さあ、体育館の鍵を先生に返さなくちゃいけないから、さっさとここを出て」

「なんて言って、先生から鍵を借りてきたの?」

「体育館に忘れ物をしたから取りに行きたいって言って」

そして、私の方を見て、

「もう、取り戻したから良いけどね。

意地悪な事を考えない、あなたの昔の心をね」


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