表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺様アレルギーの私が俺様属性に愛される悪夢みたいな話  作者: Sio*
俺様アレルギーの私が俺様属性に愛されるまで
9/11

08.優しさに触れました。


なんて重いんだろう。

なんて辛いんだろう。

なんて苦しいんだろう。


私は、どうしたらいいの?





ザザー…


穏やかな波が打ち寄せる。

照りつける太陽、生温い潮風、焼けるような砂浜、そして…


「夏はやっぱり!」


「クールドライ!」


キンッキンに冷えたビール!!!




と言っても炭酸飲めない私には縁がない飲み物なんですがね。



夏の気配を感じる今日、季節を先取るかのように水着になり、波打ち際ではしゃくアラサーアイドルたち。

こう書くとあれだけど、ちゃんと仕事だよ?ビールのCMだからね?


あ、やべ、日差しちょっと強いな。クラっときた。


「如月さん、暑いから水分ちゃんと摂ってね」


「ありがとうございます、佐々岡さん」


そうか、一応飲んでるとはいえアルコールだから水分補給にならないんだよね。

親がそれで脱水起こしたことあったなぁ。

みんなの分、すぐ渡せるよう用意はしとくか。

あーでも冷たい方がいいのかなぁ。うーん…。


「カーット!OKだよ、個別行こうか」


「はい」


「じゃあまず藤堂くん行こうか」


「あっ、お疲れ様です!」


「サブマネお疲れー」


「ん、アリガト」


「邪魔」


「…へ?そ、存在も許されない…」


「違う、今メイキングで裏側も撮ってるから。映ったらアレでしょ?」


「まぁ、たしかに…」


んじゃ、ちょっと離れるべきか。

…………あれ?


「恭平さんは…」


少し離れたところで、海を見詰めている。


「恭平、さん…」


息が詰まる。体が動かなかった。


『自分を助ける代わりに、亡くなったんだ』


熊谷さんの声がリフレインする。

恭平は何を思っているのだろう。


ぱしゃ


恭平が1歩、海へと近付いた。



「っ!!ダメっ」


「っ、野央…?」


このままだと行っちゃいそうで、消えちゃいそうで、掴んでないと逃げちゃいそうで、堪らなくなって思わず腕を掴んでしまった。

……え、私なにしてんの。

直ぐに手を離す。え、まじでなにやってんの。


「ごごごごごめんなさい」


「いや、大丈夫だが…どうしたんだ」


「えと、メイキング!メイキング撮ってるので、恭平さんも、いた方がいいかなと思った次第で…」


「あぁ、大丈夫だろ。必要あったら呼ばれる」


「…そうですか」


「聞いたのか、俺の事」


その目は、なんの感情も乗ってなくて、知ってる人なのに、全く知らない人に思えてきて、何故か悪寒がした。


「篠村さーん!次ソロお願いしまーす!」


「わかりましたー!」


「っ、あ、あの、」


「どうせ慎吾だろ。気にすんな」


ぽんっ、と頭に置かれた手が、やけに冷たかった。





浅瀬に足をつけ、スチールもムービーもこなしていく。

…すごい、さすが天下のElysionだ。

さっきのことなんて微塵も感じさせない。


「いいねぇ!次、カメラの向こうにいる彼女に話しかける感じで!」


「話しかける…飲む?みたいな感じでいいですか」


「そこは任せる。撮るよー…」


ゆっくりと缶に口をつけ、流し込む。

もう、焦れったくなるほどゆっくり…喉仏が上下する。

缶を離し、僅かに唇についたビールを拭い…


「何見てんの。…飲む?」


「っ!!!!」


なんだ、なんなんだこの色気!!!!

なんで熱いの私!!!!


「い、今のやばかったね…」


「彼女になったみたいだった…さすが天下の篠村恭平」


「男なのにドキッとしたよ…なんて色気だ…」


あ、被害はスタッフさんにも行ってた。

私だけじゃなかった。

でも、それにやられてないのが1人。


…監督だ。


「うーん、もう一声…あっ、寝そべってみるか!」


「寝そべる…」


一瞬、恭平の顔が強ばった気がした。


「な、さすがにそれは…っ」


「いや、そうだな。やってみます」


「恭平さん…」


彼はまだ囚われている。よく見れば、彼らしくない震えが見える。

でも、彼はElysionのセンター、天下の篠村恭平だ。

自分の都合で仕事をおろそかにしない。

…こういうとこ、だよねぇ。



「今のはやりすぎだよ」


「…すみません」


「事情を誰から聞いたかは知らないけど、そんなこと気にしてないから」


「ニナさん…」


陽斗の目が、微かに揺れた。

…これは、みんな知ってるんだな。

知ってて見守っている。


……私の好きなElysionだ。


「好き、だなぁ」


私の小さな呟きは誰にも聞かれることなく、ゆっくりと海に溶けていった。






「想像以上の覚悟だった…」


家族、というか親に確執があるのは恭平だけじゃない。一樹も、陽斗も事情は違えど抱えている。

それでも、まだ亡くなってはいない。

やり直すことができる。

もうこの世にいない分、その覚悟も、乗り越える難易度も高いと思う。


ちゃぷん、と水面が揺れる。


私は彼らに比べたら平々凡々と育てられた。甘ちゃんだってわかった。

そんな私がここにいさせてもらえる、なら、私の仕事は…。


「少しでも、いい歌詞を書くこと」


先程の恭平を思い出す。

濡れた髪、雫が伝う首筋、アルコールでほのかに赤くなった頬。

あ、いい感じに浮かびそう。


「もう少し、なにか…」


ぼうっとのぼせる感覚を感じたけど、今集中を切らしたら逃げそう。

もう少し、もう少し…Elysionのため、恭平のためにも───…





「……い、おい……」


「んん…」


「大丈夫か、野央」


ひんやりとする。

心地いい風が吹いている。

…気持ちいい。


うっすらと目を開けると、心配そうに覗き込む恭平と目が合った。


「やっと目を覚ました」


「あれ、私…お風呂で」


覚えている。なにか浮かびそうで、掴めそうで…。


「のぼせたんだ。とりあえず水分補給しろ」


コップを差し出され、素直に受け取る。

めっちゃ喉乾いてた…。

ここは私の部屋か。

恭平に助けられちゃったかな…。


「ちょっとはマシになったか」


「は、はい、ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げると、恭平の手には団扇が握られている。

…もしかして


「ずっと、扇いでてくれたんですか」


「光栄だろ?」


「…恭平さんて、いい人ですね」


「今更気付いたか」


「ずっと偉そうな俺様だし、セクハラ紛いなことしてくるし、脅してくるし、怖いし嫌な人だと思ってたけど」


「喧嘩売ってんのか」


気付いてた。この、俺様発言にいつも立ってた鳥肌がここ最近は治まっていることを。


「でも、やさしいんですよね。本当は」


「…本当は、は余計だ」


そう言いながら布団をかけられる。…ほら優しい。


「まだキツいだろ、寝てろ」


頭を撫でる手がほんのりあったかくて気持ちいい。

さっきとは大違いだ。


「しかし、のぼせるまでなにやってたんだよ」


「すみません、いいフレーズが浮かびそうで。動いたら消えると思いまして」


「え…」


「10周年の記念すべき、大事な曲でしょう?良いものにしたくて粘っちゃいました」


「……アホか、俺らのことなんて、所詮他人事だろ」


「そうかもしれませんが、…本気でやってる人達の中で、私だけ適当になるわけにはいかないですよ」


「それって」


「感化されちゃいました、恭平さんに」


その言葉に目を丸くする恭平。

そんなに驚くこと…?

私は知ってる。

ゲームで、ここで、何度見てきたことか。

本気でElysionをやっている姿を。

Elysionを大事にしている姿を。


「…もういい、さっさと寝ろ」


「ふふっ、はーい」


ほんのり顔を赤くして私を扇ぐ手を再開する。

なんだ、こんなかわいい姿があったのか。


そういえば。


「もしかして恭平さん」


「なんだ?」


「……見ました?」


「当然だろ。それとも裸のまま放置のが良かったか?」


「うっ、いえ、ありがとうございます…」


めめめめめめっちゃ恥ずかしい…っ!!

ここ来てから体力勝負なとこあるからちょっと痩せたとは思うけど…っ!!

それでもあの芸術的な体の持ち主に見られたってのはめっちゃ恥ずかしい!!


あまりの恥ずかしさに耐えられなかった私は、思い切り布団を被ってそのまま寝た。


恭平がどんな思いで私を見ていたかなんて知らずに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ