05.着いて行ってみました。
「登場人物にもいるだろ、芸能人と裏方のカップルが。その辺の参考にもなるだろうと思ってな」
「それは、願ってもない話ではありますが、私が行ってもいいんですか?邪魔では?」
「まずは佐々岡さんと一緒に行動すればいい。シノプロ所属の新人脚本家のサブマネで話通してあっから聞き出しやすくなると思うぞ」
「仕事早いっすね!!」
てかこれ決定事項やん???
基本脚本を渡して終わり、だったので裏側を見れるのはとても、とてもありがたい。
やっぱり知らないことを妄想で補ってもリアリティに欠けるからね。
今まで芸能モノ避けてたのはそういう所もあるし…。
相変わらず横暴ってか自分勝手だけど、こういう人に気を使えるところが人気なんだろうなーーーー!!!番外編も優遇されやがってーーーーー!!!
アオちゃんの記者会見編早く配信して公式ーーーーー!!!!飛ばされて可哀想だぞーーーーー!!!!
っといけないいけない。
もうこの世界にいるんだからプレイ出来ないんだった。…そうか、出来ないのか…。
悲しみ…。
そんなことを思い出して落ち込んでいると、これからの仕事が不安なんだろうと勘違いした佐々岡さんに大丈夫だよなんて声掛けられた。
いい人すぎるだろ好き。
「着いたよ、今日の現場」
「今日はバラエティトーク番組でしたっけ」
「そう、よく覚えてこれたね」
昨日渡された分刻みのびっちりスケジュール。せめて今日分だけはソラで言えるよう覚えろとあの横暴悪代官(って航大が言っていた)に言われたので必死に覚えたのだ。
間違えてなくてよかった。
「あの人、AD…っぽくないな」
着くや否や数人のスタッフがペコペコと恭平に頭を下げている。
実際、Elysionは数字を持っている。今日出てくれることに感謝しますーってところかな。
え、今社長って言った!?社長も出てくるレベル…!?
どんだけ偉いの悪代官…。
NGワードを再度確認して、リハを行う。
今回の番組はゴールデンで放送しているトークバラエティ番組だ。
ゲストに注目のアーティストや歌手、アイドルを呼んで、雛壇芸人たちとトークを繰り広げ、最後に1曲披露する。
今回はElysionともう1組、新人アイドルだったかな?の2本立てって予定だったはずだ。
確認するように手元の資料を読んでいると、きゃあ、と黄色い声が挙がった。
あの流し目はきっと恭平が「俺が家で裸かどうか、確認してみます?」みたく言ったんだろう。
実際裸族だぞあの人は。綺麗に鍛え上げられてるから目のやり場に困るんだよなぁ。
和やかなトークは終了し、次はミニライブだ。
しかし、尺は30分なのに随分長いこと撮ったなぁ。未公開シーンとか集めて売り出すんだろうか。まぁ使えない話も出てきたりするだろうからこれでも足りないくらいかもしれない。
ふむふむ。
頭にインプットしていると、切なげなイントロが流れる。
これは…私の歌詞が使われた曲。
あぁ、やっぱりいいなぁ。私の想像でしかなかった曲が、こうして日の目を浴び、沢山の人から賞賛を受ける。
盗られたと知った時はショックはあったけれども、あのままお蔵入りされるよりかは歌詞も幸せだろう。
うっとりと聴き惚れていると、ぽんっと肩を叩かれた。
そうだった、これ終わったらほんの少し休憩して移動だから準備しなくちゃね。
人数分のタオルと飲み物を持ってきた頃には既に終わっており、遅いと睨まれた。
いや、文系女子にペットボトル5本も持たせんなよ重い…っ!!
「この後個別の仕事だよな」
「ってことはのなちゃんは今日お終いのがいいかな?」
「そうだな。今日話聞けたか?」
「話はまだですけど、番組の裏側は勉強できました!」
「ま、無駄にしないだけいいか…ん?」
スケジュールを確認していると、元気な声がスタジオに響く。
あ、確か
「DOLLS、だっけか」
操り人形というコンセプトのステージが話題となり、最近出てきたアイドルだ。
ダンスもカクカクと、所謂ロボットダンスを組み込んでおり、あまり馴染みがなかった層に受けているという話だ。
そういえば茉莉花も気になってるって言ってたな。
「…どうする」
「どうするもなにも、邪魔するやつは潰すだけ。…佐々岡さん」
「…はぁ、わかったよ」
「え、え?どういうことですか」
「お前は知らなくていいんだよ」
素っ気なく言う恭平が怖いと、初めて心の底から思った。
あの後私だけオフとなったので、お気に入りのカフェで作詞しようと思いやって来た。
そういえば、ここに頻繁に来なければ、Elysionと関わることもなかったのか。
私にチケットを渡してきた店員、トシさん…いや、Elysionのお抱え作詞家のジュン、白峰俊さん。
私が無くしたと思っていた歌詞を使い、特等席に来る人物…私をゴーストライターとして勧めた。
行き詰まった時に元気の素と言ってケーキを差し入れてくれていた。
あのチケットをくれた日に辞めちゃって、店長すら行方が全くわからない。
このままだと、俊さんが見つかるまでって契約が終わらないぞ…?私ずっとあのスタジオに住むの…?嫌だぞ…!?
「ふふっ」
「っ!?」
過去を思い出していると、目の前から笑い声が聞こえ…は?相席なんてした覚えないんだけど??
「あぁ、ごめんね、表情がコロコロ変わるのが面白くて…ふふっ」
「あ、はぁ…」
なんだこの失礼なやつ。しかもチャラそうだ。あまり関わらない方が良さそう…。
「あー、笑った。楽しませてくれたお礼にこれどうぞ」
「えっ、これって…!店長のスペシャルゴージャスパンケーキ!!」
店長が気分乗った時にしか作らないという噂のお高いパンケーキ…!!
「でも、食べるつもりだったんじゃ」
「いいんだ、お腹いっぱいで食べられないし。もし良かったらどうぞ」
「あ、ありがとうございます…!」
ふわふわのパンケーキ、程よい甘さの生クリーム、ほろ苦さがアクセントのビターチョコソース、色とりどりのフルーツ…。幸せーっ!
このままいい歌詞が浮かびそう!
なんとなく思いついたフレーズをノートに書き込んでいく。
あ、望夢に褒められたフレーズと合いそう。
「なにを書いてるんだ?」
「あっ、え、えーっと」
え、あれで終わりじゃないのかなんなんだ。
作詞ってあんまり言わない方がいいよね?
えっと、えっと…あっ。
「ぽ、ポエムです!私、脚本家目指してて、作中に登場させるポエムも考えいて!」
「へぇ、そうなんだ、偉いね」
「あ、あはは…」
上手く、ごまかせた…かな?
「いつか君の脚本が見れるのを楽しみにしているよ」
「ありがとう、ございます…」
その人は、私の伝票も持って支払いへと向かって行った。