03.とりあえず書いてみました。
「それにしても、作詞、かぁ…」
とりあえず言葉を並べてみたが、ぶっちゃけよくわかんない。
もちろん、如月野央として生きてきた記憶はある。あの詞も私が書いたのを覚えている。
それでも今は前世の記憶もあってあの平均的な私が顔を出す。くっ、今は邪魔だ…っ!
「しかし、ドラマの主題歌ねぇ」
たしか航大ルートも、彼が主演する映画の主題歌を書くことになっていたと思い出す。
他は…えっと、一樹がドキュメンタリー特番での共同作詞、陽斗が主催ファッションショーのテーマ曲、望夢が10周年アルバムだっけなぁ…。
つまりルート変更はなかった、と。
あまりにも苦手すぎて彼のルートをプレイしてこなかったことを悔いる。いやでもこの調子だったら私途中で投げ出してるわ。
とりあえずさっき貰った資料を読んでみる。ついでに原作ももう一度読み直してみよう。
作詞のヒントが隠れてるかもしれないし!
「うっそ、5人が主演なの!?」
5組のカップルが登場するこの作品、その男性キャストがElysionだったのだ。
なるほど、本来ならコンペとかあって良いだろうに、主題歌に確定していたのはこのためか…。
それに、資料を読み込めば読み込むほど、彼らにピッタリのキャスティング。
純粋にファンとして、楽しみになってきた!
「よし、頑張るぞ!」
如月野央としての夢のため、そして、自分の大好きな作品を最高のものにするため、私は気合を入れ直した。
「駄目」
「デスヨネー…はは…」
とりあえず完成させてみる!を目標に書き上げてみたが、ぶっちゃけ自分では全く良いとは思えなかった。
でも、人によっては良いと思うかもしれないと思って、アルバム作業に勤しんでいる望夢の元に持ってきたのだ。
まぁ知っての通りバッサリでしたけどね!!
「これくらいなら小学生でも書ける。今までなにしてたの?」
「ヒェッすみません!自分でもよくわからなくなってきてて、少しでも突破口を開ければと思ってて…」
「…プレッシャー?」
「………はい」
「そう…」
あれ、黙った。
望夢の鬼畜モードは、期待の表れ。それがなくなるのは期待しなくなった証。
え、ちょいまてこれまずいんじゃ。
「ここ」
「え?」
「このフレーズ、いいと思うから使って」
歌詞に赤ペンできゅっと丸をされる。
あ、1番最初に浮かんだところ…。
「これを軸に考えていけば、きっと良くなるよ」
「ニナさん…っ!ありがとうございます!!」
よかった、全部が悪いわけじゃなかった!
それだけでほっとしたのか、足の力が抜けてへなへなと座り込んでしまった。
望夢はもう、作曲モードに入っていて私を見ていない。
よかった、頑張る。
これだけで頑張れる。
「ふふっ」
ずっと好きだったキャラから貰った赤マルは、私の宝物になった。