02.仕事頂きました。
「とびっきりエロい歌詞な」
「は?」
アイドルじゃなきゃ絶対に手が出てた。
「…恭平、それだけじゃ伝わらないだろう?」
「あぁ、そうか。前提すら知らなかったな」
「前提?」
疲れからかぐっすりと眠った翌日、いつもと違う天井に戸惑いつつも、なんとか状況を理解して、とりあえず顔を洗おうかと洗面所に向かう途中だった。
…一応寝起きだからちゃんと顔洗いたいんだけど。
「まぁ座れ」とソファを指さされ、これ口答えしたらあかんやつやと思い素直に座る。
「まず、お前に依頼したいのはドラマのタイアップ楽曲の作詞だ」
「タイアップ!?いきなりそんな」
「元々俺らElysionの10周年記念楽曲だぞ?今更変わんねーよ」
「あまりElysionのブランドがわかってなくてですな…」
「そうだったな」
ばさりとローテーブルに置かれたのは多分ドラマの資料だろう。
見ろ、と目線で命令された気がして、視線を落とした。
「うそっ、『FAKE LOVE』!?」
「お、さすがに知っていたか」
「知ってるも何も、大ベストセラーじゃないですか!!」
携帯小説から人気に火がつき、20代女性を中心に一気に広まった書籍だ。
『偽りの恋人』をテーマに5組のカップルがメインとなって繰り広げられる、ドロドロながらも涙あり胸きゅんありの恋愛小説。
私もこの世界の友人である茉莉花に勧められて読んだが、自分でもどハマりし、シリーズ物も全て揃えている。
これだけ人気ならいつかメディアミックスされるとは思っていたけど、それに関われるなんて…っ!
「元を知ってるなら話は早い。この作品に合う詞を書いてもらう」
「それでとびっきりエロい歌詞…ってことですね」
「そういうこと」
『FAKE LOVE』は確かに性描写も数多く含まれている。
所謂セフレ関係のカップルもいるからだ。
そういう『大人の恋愛』をテーマに…ってことか。納得。
「期限は長めにとって3ヶ月ある。それまでに完成させろ」
その拒否権はないって言い方…嫌悪感から鳥肌が立つ。
まぁ、実際拒否権なんて存在しないからいいんだけどさ…。
「…わかりました、やってみます」
「交渉成立、だな」
すっと右手を差し出された。
え、なんだこれ。
わからずじーっと見詰めていると、恭平が無理矢理私の右手を取り、それと合わせた。
…え、握手??
「これからよろしくな、野央」
うわ、名前呼び捨てかよ。
迫り来る吐き気をなんとか堪え、私も応える。
「よろしくお願いします、篠村さん」
「あーいやいや」
「あ?」
「呼び方。これから一緒に住むんだ。苗字なんて他人行儀は禁止だ」
「「はぁ!?」」
「えっなになに?名前で呼んでいいの?やったー!これからよろしくのなちゃん!!」
「の、のなちゃん…!?」
抗議の声を上げたのは一樹と航大。…あー、そういえば2人共女嫌いって設定だったなぁ…。
ノリノリなのは陽斗。…そうだね、女たらしだったわ。
リーダーは無反応…いや、あれは作曲モードだ。邪魔したら殺されるヤツだ。
「っつーわけで、全員こいつのことは名前で呼ぶ。野央も名前もしくはあだ名で呼ぶように」
あぁ、もう、なんでこいつのルートなんですか神様。
私、あまりにも嫌すぎて死にそうです。
重なる俺様発言に耐えきれず、私はそこで意識を失った。