第二話『お漏らしですか? いいえ、確信犯です!』
授乳の乱から半年程が過ぎ去った。
それにしても、転生輪廻とは本当にあるんじゃな……。まさか、死んで幼女に生まれ変わるとは想像もしていなかった。
そんなワシも、ようやく新しい身体に慣れてきた所だ。ハイハイが出来るようになり移動が可能になったのは大きい。それによって、ワシの身に起きた奇妙奇天烈なこの事態について、様々なことが分かり始めていた。
「レイナはうごーくのがすぅきねぇい」
このカタコトの日本語を操るブロンドの美人はどうやら、ワシの母親にあたる人物らしい。名前は水咲 リディア。ロシア人であり、ロシアを代表する女子卓球の選手じゃ。
「そうだね、どちらに似ても運動好きに育つだろうね」
彼女の隣で笑っているのは、水咲 純。今のワシの父親である。彼は日本卓球界の若きエースにして、世界ランク4位にまでなったことのあるスーパープレイヤーじゃ。
そして現在のワシはと言うと、日本男児とロシア美人の間に生まれたハーフ美幼女というわけじゃ。いや、幼女というにはまだ、あまりにも若過ぎるかも知れんな。
まぁ、依然として意味不明な状況ではあるもののどうやらワシは、この二人とともにこの一軒家で暮らすこととなったようじゃ。二人の会話を聞いた限りではここは北海道らしい。リディアの希望により、少しでもロシアの気候に近い場所を選んだようじゃ。
少し動きたくなったワシは、リビングにある大きな鏡の前までハイハイをする。
そこにうつっているのは、生えたばかりのプラチナブロンドの髪と、驚く程に美しいブルーの双眸を持つ赤子だった。
そう、この応募すれば確実にオムツのCMが決まる程に愛らしい赤子が現在のワシの姿なんじゃ。名前はどうやら、レイナというらしい。つまりワシは、碇玄三改め、水咲レイナとなったわけじゃ。なんだか、甘納豆とマカロン以上のギャップを感じるのぅ。
いや〜、それにしても、ワシ、可愛い過ぎんか!? 本当ヤバくない!? 孫にも迫る可愛さじゃな!!
ワシが鏡にうつる幼女に夢中になっていると、パパ上様が立ち上がり、ワシをその手に抱き上げる。
「さて、パパと一緒に卓球の試合でもみるか」
ソファに座るパピーの膝の上に乗せられ、そのままテレビ画面を凝視するワシ。
どうやら父上殿は録画してあった自分の試合を見るらしい。
白球が行き交う心地よい音がリビングに響く。
「あー、うーっ、うぃー」
(なるほど、ロングサーブからの3球目攻撃か、ありきたりな戦法ではあるが、実力差を考えれば効率的な点の取り方だな)
「おっ、レイナも卓球の面白さがわかるのか、流石は俺とリディアの娘だ」
「うぃー、あっ、ぶぅー」
(しかしなぁ、大きくリードしている場面とはいえ、サーブの選択が単調になっておるのぅ、ここは少し見直す必要があるのではないか?)
「そうか、そうか、パパカッコいいだろ?」
ワシの意見をいい感じに受け取ったようでなによりじゃ……。うん。
「あなーたばかぁり、ずるゅいでーすよ」
娘に自分の試合ばかりを見せるパパンに抗議をするママン。
ちなみに、母上や父上への呼称が安定しないのは、ワシなりの照れ隠しである。感覚的に自分よりも年下の二人を両親として素直に呼ぶのが、まだ気恥ずかしいのじゃ。だからせめて、心の中では自由にしていたい。
そんな宛てのない思考を彷徨わせていると、パパ上殿が口を開く。
「はは、そうだな、次はママの試合も見ようか」
そう言って、リモコンに手を伸ばすマイファザー。
画面が切り替わり、新たにうつしだされたのは美しき妖精。マイマザーじゃ。
防御主体の華麗な戦型。世界有数のカットマン。どんな攻撃も後陣からのカットで拾い続ける鉄壁の守り。それがリディアという選手の戦い方じゃ。
タイトなユニフォームから伸びる白く細長い腕が流麗な軌道を描く。相手のドライブをキレのあるカットで返球する美しいさまは、彼女の異名通り、美しい妖精の姿を連想させる。じゃが、そんなことよりも重要なことがある。タイト過ぎるユニフォームから見える、魅惑の御御足がワシの視線を釘付けにするのじゃ!!
「あー、うぅー、ちゃーん!!」
(太もも、最高、ちゃーん!!)
まったく、ワシのママン、可愛すぎんか!? 本当ヤバくない!? 以下略。
ワシが思わず魂のシャウトをかますと次の瞬間、お股に強烈な違和感を感じることとなる。
「あーん、ぶぅえーん、えーん」
(おっと、油断したのぅ、漏らしてもーた)
「あらーら、レイナ、おーもらしでぇすくぁ?」
母上はそう言って、パピーからワシの身体を受け取ると、おもむろにワシのオムツを脱がしにかかる。
「あーっ、うー、いーうー、ちゃーん!!」
(あーっ、そこは、そこはらめぇぇ、ちゃーん!!)
ワシ、もうお嫁にいけない……。まぁ、もう何度もオムツは変えてもらっているわけじゃが。
「しゅっきりしぃたぁーでぇすくわ?」
ワシのオムツを替え終えたマミーが、愛おしげな眼差しで見つめてくる。
あぁ、ワシ、なんだか徐々に新しい扉を開いている気がする。
さぁ、もっと先へ。