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ロリコンですか? いいえ、スポコンです!〜金メダリストのワシ、気づいたら美幼女に生まれ変わってた!? 二度目の人生も卓球に捧げるのじゃ!!〜  作者: 新月 望
第二章 少女時代

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第百三話『呪いですか? いいえ、願いです!』

 嫌な記憶を思い出しちまった。


「ちっ」


 一人の部屋に舌打ちの音が反響する。


 俺はこの家で遠戚の老夫婦と暮らしている。


 酒浸りのクズな父親から俺を引き取ってくれた二人には感謝している。それでも、どうやったって憎しみは消えない。


 俺には本来無いはずの記憶が少しだけあった。


 前世の記憶とでも呼べば良いのか?


 今よりも少し小さな身体の俺が、いくつもの管に繋がれ、窓からぼーっと外を眺め続けるだけの記憶。


 心象風景と呼ぶにはあまりに具体的な記憶。


 謎の記憶が俺を突き動かした。身体を自由に動かせることの喜びと尊さを俺は小さな頃から知っていた。明確に自覚していたと言って良い。


 様々なスポーツの中でも俺はとびきりバスケットボールが好きだった。


 体育館に鳴り響くバッシュのスキール音。ドリブルで相手を抜き去った時の爽快感。


 そしてなんと言ってもシュートを決めた時の他では得難い全能感。


 しかし、それも今となっては全て負の感情へと生まれ変わってしまった。


 俺から自由を奪ったクソ親父。


 酒とギャンブルがやめられず、母に捨てられた救いようの無い哀れな男だ。


 自らの行き詰まった人生を自覚したあの野郎は、手に持った酒瓶で俺の腕や肩を殴りつけた。


『お前だけが、楽しそうに生きてんじゃねー!』


 そんな言葉を浴びせられた。


 小学生の女の餓鬼が、酔い潰れた男の勢いを止められるわけもなく、俺は只々殴られ続けた。


 額から血を流しながらも、暗く狭い部屋から逃げ出すことを試みたが、奴は己の無価値さから目を背ける為に俺を殴り続けた。

 

 アパートの誰かが通報したのだろう。


 途切れそうな意識の中で、何人かの警察官が助けに来たのを覚えている。


 だがしかし、その頃には俺の自慢の右腕は肩より上には上がらなくなっていた。


 それでも日常生活には支障は無かった。


 しかし、俺にとっては間違い無く致命症だった。


 何せシュートを打つことが出来ない。打つどころか構えることもままならない。


 絶望した。


 もう、俺の両腕がネットを揺らすことはないのだと。


 前世では病室を出ることすら許されなかった俺が、今世で手にした自由な世界。それは意図も容易く壊された。


 お前に自由などない。


 世界がそう言っているように思えた。


 全てを諦め塞ぎ込もうとした。


 しかし、そんな様子を不憫に感じたのであろう、俺を引き取った二人が必死にスポーツドクターを探してくれた。


 俺はそれから何人ものスポーツ医と会った。


 そして、誰もが同じ事を言った。


 努力を続ければもしかしたら、またバスケットが出来るようになるかも知れないと。


 もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら。


 そんな言葉の連続に意味は無かった。


 積もり積もっていく嫌悪。


 皆が皆、子どもの夢を否定出来ず、断定的な言葉を避けながらたらい回す。


 そんな日々に嫌気がさして、もう次を最後にしようと思っていた。


 そしてそのラストチャンスに現れたのが(まもる)先生だった。



「君の本気は伝わった。だからこそ私もはっきりと言おう。君は以前のようにアスリートとしてバスケットボールをすることはもう不可能だ」


 まごう事なき断定。


 後回しにされてきた判決がついに下されたのだ。


「そうか……」


 この人は他の大人達とは違う。事実をありのままに伝えてくれた。それだけでも話を聞いた価値はあるのかも知れない。俺の心の中には妙な信頼感が芽生えていた。


「それでも君の人生は今後も続いていく。しかし幸運な事に、君にはまだ選ぶ権利が残されている。遊びとしてのバスケットボールを続ける人生か、まだ使える才能で別の選択肢(てっぺん)をとるか。君には卓越した身体能力がある。少なくとも私はそう思っているよ」


 強い目だった。強い言葉だった。


 混じり気の無い真実と相対して、するべきことを行い、伝えるべき事を口にする人だ。しかし、この時の俺はまだ、先生の言葉を信じ切れてはいなかった。


「利き手がもう使えないのに、スポーツなんて無理だろ……」


「じゃあ、利き手を変えれば良いじゃないか。右肩が上がらなくとも出来るスポーツなんていくらでもあるさ。それとも、そんな努力はお断りかい?」


「例えば、どんなスポーツがあんだよ」


 今にして思えば、安い挑発にのってしまったのかも知れない。先生は基本的に人をのせるのが上手い。


「そうだなぁ、片方の手はボールを上げる為だけに使うスポーツがあるんだけど、どうかな?」


 この言葉が俺の人生を大きく変える分岐点となった。少なくとも、今の俺はそう信じたいのだろう。


 呪いから生まれた一つの願い。


 酷く歪んだ形かも知れない。


 内なる怒りはいまだに消えず、憤慨する日々など数え切れない。


 それでも俺はこのか細い光の先に進もうと思う。


 それに、いつまでも湿った重りを背負ったままじゃ、きっとあいつに置いていかれる。


 思えば、競争意識を持って生活するなど、コートを駆け回っていたあの頃以来かも知れない。


 大事な夢を捨てた俺は、きっと誰より身軽なはずだ。頂上(てっぺん)とらなきゃわりに合わねぇ。


 許せねーことの方が多い世の中だが、俺はこの先も生きていかなきゃならねーんだ。


 見やがれ世界。


 前世も今世も帳尻合わせはこっからだ。


「ちっ」


 一人の部屋に舌打ちの音が反響する。


 しかしそれは、自分でもはっきりとわかるほどに、先程とは全く違う意味を含んでいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日陰鳴の口の悪さが気になっていました。 天才が生まれつき能力で凡人を馬鹿にしている……というような印象を持ってたのですが、こういう過去があったんですね。 絶望から立ち直った日陰鳴も、適切な…
[気になる点] 『呪いですか? いいえ、願いです!』→この話の内容は、多分いけ好かない少女の奴だな。 [一言] お久です、遅くなりましたが再開待ってました。
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