自由とエモーション
ラテールは非常におおらかなゲームです。
強い武器やスキル振りというのはゲーム開始当初から割と決まっていたのですが、それを強制するような雰囲気は全くありませんでした。明らかに強さを度外視したネタプレイに走る人、特定のユニーク武器にこだわって縛りプレイする人、おしゃれガチ勢、裸探検隊など、いろんな人がそれぞれの方法でラテールを楽しんでいました。
それらをバカにするでもなく、笑って容認する空気があったのです。
実にトキメキファンタジーですね。
残念ながらレベルが上がるに連れてこういった人たちは見なくなっていきましたが、レベル30ぐらいまでの間は本当に自由なプレイヤーで溢れていました。
例えば、マジシャン。
マジシャンはとれる選択肢が多く、当初はまだこれといったスタイルがいまいち確立していませんでした。そのため色々なスキル構成のマジシャンがいました。
マジシャンには一次スキル・二次スキル・三次スキルが属性ごとに一つずつしかありません。そのため、クールタイム待ちの時間がどうしても発生します。
当時のマジシャン達は様々な方法でこれの解決を図りました。
その中で当初主流だったのは、いわゆる『二色魔』でした。メインの属性の他にもう一つ属性を取り、クールタイム中はサブ属性で攻撃するタイプのマジシャンです。
しかし問題がないわけではありません。魔法スキルを使うにはその属性の『精霊石』というアイテムを装備していなければならないため、二色魔は戦闘中に精霊石を手動で持ち替えなければならないのです。これがものすごく面倒なのです。
それに戦闘に使えるような強い精霊石を二つ用意しなければならないのも負担になります。
そこで現れたのが四色魔です。
どうせ面倒くさいんだから行くところまで行ってしまえというコンセプトです。私はこの発想すごく好きです。
スキルを覚えるためにはレベルアップごとに貰える『スキルポイント』が必要です。四色魔は残念ながらこのSPが足りないなんてものではなく、どの属性もびっくりするほど火力が低いため物凄く弱かったです。しかしあれほどロマン溢れるプレイヤーはそうそういないでしょう。
ちなみに、スキルの発動に必要なMP的なやつの名前も『スキルポイント』です。うーん、ややこしい。
さて、純色魔のクールタイム待ちは嫌だけど、精霊石の持ち替えは面倒くさい。そんな人は短剣スキルを取りました。
短剣はマジシャンとレンジャーが装備できる武器です。非常に出の早いスピーディでテンポの良い攻撃が特徴です。短剣は片手武器ですので、盾も一緒に装備できるのが嬉しいですね。
しかしこれにも問題があります。
マジシャンは普通杖を装備して魔法攻撃力の底上げをしているのですが、短剣に置き換わることでこれができなくなります。つまり、物理攻撃の手段を手に入れることで魔法の威力が落ちるのです。
更に、マジシャンは元々耐久がありません。盾を装備して少々の耐久を上積みしたところで、死にやすいことに変わりはないのです。短剣は魔法よりも射程が短いため、どうしても敵に近づくことになります。短剣魔は盾を装備できますが、事故死はむしろ多くなってしまうのです。
そこで現れたのが殴りマジシャンです。
どうせ死にやすいんだから盾などいらない、それよりももっと敵に近づいて戦闘のカタルシスを味わおうというコンセプトです。これも好きな発想ですが、さすがに道を踏み外した感がありますね。
こういった殴り魔の方々は、なぜかやたらプレイヤースキルの高い人が多かったです。
しかし当然、マジシャンの物理攻撃力などたかが知れています。敵が強くなってくると、ノックバックさせられずに死ぬことが増えます。
だから彼らは魔法を捨てました。
物理攻撃に全てを注ぎ始めたのです。この人たちは何をしているのでしょうか?
しかし彼らは魔法使いとしてのアイデンティティまで捨てたわけではありませんでした。
彼らは魔法スキルを捨てた代わりに、いかにも魔法使いっぽいファッションに身を固めはじめたのです。
自由すぎる。さすがトキメキファンタジーですね。
さて、今回はもう一つ。エモーションの話もしておきましょう。
エモーションとは、キャラクターにコミュニケーション用の動作をさせるスキルのことです。手を振ったり頷いたり目をキラキラさせたり、数多くのエモーションがあります。
別になくてもいいっちゃいいのですが、たまにエモーションの撃ち合いみたいなことになるので、持ってなかったらそういう時に置いていかれます。キャッキャウフフと楽しげなみんなの横で、無表情の棒立ちです。そうならないようにエモーションは必要なのです。
こういったエモーションは、モンスターからドロップする『習得書』で覚えることが出来ます。『笑う習得書』とか『怒る習得書』というアイテム名でドロップします。課金エモーションもあります。
ちなみにゲームを始めたばかりの頃は、プレイヤーキャラクターはエモーションを一つも持っていません。無表情で武器を振ることしかできないのです。
この世界ではプレイヤーは、笑い・怒り・悲しみ……、そういった人としての感情を書物を読んで初めて知るのです。
シャレにならないほど重いバックグラウンドを感じますね。
しかしこれはこれでトキメキファンタジー。