ユニークとエンチャント
ラテールには『ユニーク』と呼ばれる装備アイテムが存在します。
もちろん、ゲーム中に一人しか持っていないようなアイテムのことではありません。特定の敵から超低確率でドロップするレアアイテムの事です。たいてい通常の武器よりもデザインが良く、基本性能も高くなっています。
私は始めたばかりのころ、ワーウルフという敵を倒して『ウルフスピア』という超絶かっこいい槍を手に入れました。青い狼の意匠が入った槍です。
本当に滅多に出ないのですが、ビギナーズラックというやつですね。
武器性能の差というのは、序盤には非常に強く現れます。ウルフスピアの性能は凄まじく、初心者の間は通常の槍を使っているプレイヤーの二倍近くもダメージが出ました。
私はこのウルフスピアを大変気に入りました。
私のかわいいキャラクターが、かっこいい武器を持って立っているのを眺めているだけで楽しかったのです。
しかもそれを振り回せば他のプレイヤーよりも頭抜けて強く、特別感がある。
かっこいいウルフスピアとの対比で、 ☆(ゝω・)vキャピ のかわいさも引き立つというものです。
私はどっぷりとウルフスピアの魅力にはまり込みました。
しかし、これが長く続く苦労の始まりでした。
ウルフスピアを使い続け、私はどんどんレベルアップしていきました。そしてレベル20を超えたころ、普通の槍を使うプレイヤーと、ダメージがどっこいどっこいになっていることに気がつきます。
ウルフスピアはレベル10から装備できる武器です。同じくらいのレベル帯の槍と比べると強いのですが、レベル20ほどのレベル帯になると、通常の槍に攻撃力を抜かされてしまいます。
しかし今更通常武器には戻れません。最早ただの棒に刃が付いただけの槍では満足できない体になっていたのです。
なんとかしてウルフスピアを使い続けたい。そうして私は攻略wikiを開き、『強化』という方法を知ります。
武器の強化をすると、武器のレベルが上がります。レベル10だったウルフスピアが、レベル20のウルフスピア+1に生まれ変わるのです。
私は喜び勇んで、早速槍の強化をしようとして愕然としました。
強化をするには、ウルフスピアがもう一本必要だったのです。
震える足を抑え、取りあえず売ってるかどうか見てみようとフリーマーケットを覗き、もう一度愕然とします。
高すぎる。とても手が出ない。たとえ頑張って買ったとしても、もう10レベル上がればまた買わないといけない。
私は決心しました。もう一度ワーウルフから手に入れるしかない。
その日から、私は修羅の道を歩き始めました。
もうワーウルフなどでは塵のような経験値しか手に入りません。苦行以外の何物でもないのです。しかし私は歯を食いしばって狼を倒し続けました。
そして、一週間ほど経った頃でしょうか。ようやくウルフスピアがドロップしました。
死んだ目でラテールをプレイしていた私は、声を上げて喜びました。
早速その場で強化をし、ウルフスピア+1を作りました。
ウルフスピア+1はやはり強く、私は同レベル帯では飛びぬけて高いダメージを出しました。頑張って良かった。心からそう思いました。
しかし楽しい時間はあっという間です。気が付けばレベル30。再び苦行の始まりです。
そしてこの頃、同時にエンチャントの存在を知りました。
エンチャントとは、装備にオプションと呼ばれる能力を付与すること、あるいは既に武器についているオプションのLvを一つ上げることです。
ちなみにエンチャントは武器だけでなく、他の防具(頭・上半身・下半身・腕・足)にも行えます。この数値でキャラクター間の強さに差が出るわけです。
いくらユニークが強いと言っても、素のままではオプションがしっかりつけられた通常武器に負けてしまいます。
私はユニークにエンチャントしていくことを決心しました。これで修羅の道がもう一段階深くなります。
というのも、エンチャントは必ず成功するわけではないのです。成功率は基本的には95%。失敗すれば武器は壊れてなくなります。この95%というのがマジで闇が深いのです。
こうして私は事あるたびにワーウルフを狩るようになりました。
しかし、結果として何本のウルフスピアを手に入れたかは分かりません。10本を越えた辺りから数えるのをやめましたので。
結論から言うと、私は最高値であるLv10までエンチャントしたウルフスピア+9の作成に成功しました。
強化に必要だったウルフスピアは全て自前で賄いましたし、何なら何本か余りました。
しかしこれによる後遺症もあります。
ユニークアイテムを手に入れると、チャットログのところに『○○を手に入れました』といった文字が濃い青色で表示されます。
当時は血眼になってこれを待ちわび、表示されると両手を挙げて喜んだものです。
そして私は今でも、同じような色で書かれた文字が不意に目に映ると、思わずドキッとしてしまうのです。