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辻WWとお礼 その2

 まずは一件目。

 これは私がある程度高レベルになってからの話になります。


 エリアスに隣接する序盤のフィールドを走っているとき、辻ヒールを目撃しました。

 多くの敵にボコボコにされていた石弓レンジャーの男の子を、黒いとんがり帽子を被っていかにも魔女然とした格好のマジシャンが助けたのです。彼女は続いて魔法で敵を一掃しました。


 それを見て、彼は動きを止めました。「ありがとうございました」とタイピングしているのです。しかし、彼が打ち終わる直前、辻ヒーラーさんはすぐそこにあったポータルへ駆け込んでいきました。


 レンジャーの彼がマジシャンの彼女を追いかけます。私もそれを追いかけ始めました。


 マジシャンの彼女は油断していたのか、向こう側のポータルのすぐそばにいました。そして我々の姿を見てすぐに走り始めました。今度はレンジャーの彼も遅れずに追いかけます。


 すると彼女は、『天空豆の樹塔』というマップへと逃げ込んでいきました。


 ラテールには童話をモチーフにしたフィールドがいくつかあり、これもそんなフィールドの一つです。元になった童話は『ジャックと豆の樹』ですね。

 童話の通り立派な豆の樹が空高くそびえ立っており、葉っぱの上をピョンピョン移動しながら登っていくマップです。横スクロールMMOのラテールも、この時ばかりは縦スクロールMMOになります。


 この豆の樹ですが、そこいらをハチのモンスターが飛んでおり、プレイヤーを下に叩き落とそうとしてきます。マップの推奨レベルは90前後。レンジャーの彼には厳しすぎますし、マジシャンの彼女にも厳しい場所です。自由に逃げられるほどの足場もありません。


 頑張って敵を避けながら豆の樹を登っていた二人でしたが、逃げれば逃げるほど敵はトレインしてしまいます。やがて重なった敵の攻撃を避けきれなくなり、二人とも死んでしまいます。



 しかし死体が消えません。



 ラテールでは、死亡したら『イリス石塔』という場所で復活するか、街で復活するかを選べます。イリス石塔は世界各地にあり、復活するのはその中の最後に訪れた石塔です。

 マジシャンの彼女はレンジャーの彼よりも高レベルなフィールドにある石塔で復活することになるため、この勝負は普通に考えればヒーラーの勝利になりそうなものです。


 しかし、死体が消えていないのです。


 彼女の画面には『イリス石塔で復活しますか?』という質問が表示されているはずですが、それに答えようとしないのです。まるで何かを待っているかのように。


 やがて、地面に倒れ伏したレンジャーが言います。


「ありがとうございました」


 間をおかずにマジシャンが答えます。


「どういたしまして!」


 その後二人はほぼ同時に消えていきました。


 なんだか非常によいものを見た気分になりました。これをきっかけに、私は辻追いかけっこを追いかけるようになります。




 しかし、辻追いかけっこ遭遇率は低く、見ることができたのはもう一件だけです。

 これは山岳地帯というマップで見かけました。これも序盤のマップです。


 サブキャラ用の武器を狙って狩りをしようとしていたところ、辻ヒールを目撃。一件目と同じような感じで追いかけっこが始まります。しかしヒーラーが逃げる方向はこの先行き止まり。このままでは袋小路に追い詰められてしまいます。



 しかし実はこの追いかけっこ、それでも逃げる側が圧倒的に有利なのです。はっきり言って勝負が成り立たないレベルでガン有利です。

 なぜなら、逃げる側は『絶対に勝てる手段』というものを常に持っているのです。


 それは『石塔欠片』というアイテム。


 先ほど紹介したイリス石塔に一瞬でワープするアイテムです。死にそうになった時、デスペナを避けるために使います。とっさに使う必要があるため、ある程度慣れている人ならば、必ずいつでも使える状態にしてあります。


 最後にどの石塔に訪れたかはプレイヤーによってまちまち。偶然被るなんてことはほとんどありえません。そのため『石塔欠片』を使えばほぼ確実に逃げ切れます。


 しかし辻ヒーラーはそのような卑怯な手段は使わないのです。

 必ず己の足だけで逃げ切ろうとするのです。追走劇は『石塔欠片を使わない』という不文律の上に成り立っている高潔な勝負なのです。



 そして、辻ヒーラーが遂に追い詰められました。

 勝負あったか。そう思った瞬間、辻ヒーラーの姿が消え失せました。



 馬鹿な! あれほど高潔な追走劇を演じていた辻ヒーラーが、最後の最後にダーティな手段に頼ったというのか!?

 私は震えました。


 しかし次の瞬間、ある可能性が脳裏に浮かびました。


 まさか……?


 そう思い、手持ちの『ドリスゲームカプセル』を使用してみました。



 いました。先ほどの辻ヒーラーです。辻ヒーラーは私の姿を見ると、そのままドリスゲームに挑んでいきました。なんと勝負の場がドリスゲームに移ったのです!


 これは楽しくなってきた! 私はニヤニヤしながら先ほどのお礼言うマンを待ちました。


 しかしいつまで経っても、彼は現れませんでした。


 勝負は辻ヒーラーの勝利で終わりました。


 煮え切らない結末にムシャクシャして私もドリスゲームに挑みましたが、結果としてはむしろあのキノコにストレスがマッハでした。

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