ドリスゲームとナックラー
少しレベルが上がってくると、第二の街『エリアス』に活動の拠点が移ります。
エリアスはゲーム内で一番規模がでかい街です。
特に、プレイヤーが店を出してアイテムを売る『フリーマーケット』があるのが大きいですね。二番目という序盤も序盤の街ですが、このフリーマケットは高レベルになってからも使います。これ以降ずっと利用することになる、ラテールのメインになる街です。
しかし最初の方はまだいいですが、レベルが上がっていくと次の街、更に次の街へと拠点が移動します。そうなると、エリアスに戻るのが非常にダルくなります。後にどこからでも街に移動できる課金アイテムが出てきますが、そんな便利なものこの時代にはありません。
そこでみんなが使っていたのが『ドリスゲームカプセル』というアイテムです。
エリアスにいるドリスというNPCが売っているアイテムで、これを使うとドリスゲームというミニゲーム用のマップに移動します。
このマップから外に出ると、元いた場所ではなくドリスの前に送られます。つまり、ドリスゲームカプセルを使う→ドリスゲームなんかせずに外に出る。これだけでどこからでもエリアスに移動できたというわけです。
ただ、これは当然エリアス限定の方法になります。お使いクエストなんかでエリアス以外の街に行かないといけない時は、『タウンポータル』という街にある施設でワープします。この移動、一見便利そうですが結構ダルいのです。街のどこにタウンポータルがあったかなんていちいち覚えてられませんしね。
そのため、待ち合わせする時なんかもこのエリアスが便利に使われていました。
さて、単なるエリアスへの通行門として使用されることがほとんどのドリスゲームですが、本来の用途はミニゲームです。
それも、結構重要なミニゲームです。と言うのも、初クリア報酬が非常に魅力的なのです。
ラテールではレベルアップ時に『スキルポイント』というポイントが貰えます。これを消費して攻撃スキルやパッシブスキルを習得していくわけですが、当時は最高レベルの人でも50ちょっとくらい。スキルポイントは非常に貴重でした。
そんな中、ドリスゲームを初めてクリアすると、そのスキルポイントが1ポイント手に入るのです。
当然みんな躍起になってドリスゲームに挑むわけですが、これはそんな簡単にクリアできるほど甘いゲームではありませんでした。
ドリスゲームは簡単に言うと、敵を避けてゴールにたどり着くゲームです。
攻撃が効かない代わりに攻撃してこないキノコがフィールドをうろついており、それをジャンプで避けてゴールを目指すのです。
キノコに接触してしまったり、足場と足場の間にある谷に落ちてしまったりすれば最初からやり直しになります。しかしデスペナはありませんから、一度ドリスゲームカプセルを使えば何回でも挑戦できます。
このキノコの動きはランダムになっているのですが、これが非常にいやらしいのです。
こっちに向かってくるところを飛び越えようとジャンプした瞬間に方向転換して着地狩りしてきたり、狭い足場の向こう側に行ってるから今の内にと飛び乗った瞬間に迫ってきたり。
プレイヤースキルはもちろん、運も必要なゲームだったのです。
ラテールのプレイヤーにはこういったガチめの難易度のゲームに慣れてない女性や子ども層も多く、ドリスゲームのクリアを諦める人は少なくありませんでした。
しかしそんな状況の中。
エリアスへの移動ついでに、鼻歌混じりにドリスゲームをクリアしていくような人達も存在しました。
『ナックラー』と呼ばれる人達です。
ナックルという武器を装備し、格闘術で戦うプレイヤーです。
ナックルは他の武器と違い、どの職業でも装備できます。スキルポイントさえ振れば、どの職業でも使うことが出来る武器なのです。殴りマジシャンとかいう変態もいました。
ナックルには一次スキル・二次スキル・三次スキルが三つずつあります。こう言うと恵まれてるように思うかもしれませんが、スキルポイントは常にカツカツですし、あまり強い武器ではありませんでした。
その代わり出が早いスキルが揃っているので、くるくるスキルが回って楽しそうでした。
このナックラーがなぜドリスゲームで無双状態にあったのかというと、『半月脚』という三次スキルのせいです。バク宙しながら敵を蹴り上げるスキルなのですが、これは空中で使うと擬似的に二段ジャンプのようになるのです。まぁジャンプと言えるほど高くは飛ばないのですが。
これが敵を避けるのに非常に便利なのです。上手なナックラーだと八割から九割くらいの確率でドリスゲームをクリアしていたと聞きます。
ドリスゲームをクリアするためにナックラーに転向した人もいました。スキルポイントのリセットに1000円かかりますから、転向するのとまた戻すので計2000円かかりますね。うーん、ブルジョワジー。
このように、ドリスゲームはゲーム初心者にとって非常に高い壁でした。
しかしその分、最後のボスである大きな敵を飛び越えてゴールした時は非常に達成感があります。ゴールである土管の上に座り、苦戦するプレイヤー達を眺めた経験があるという人は多いのではないでしょうか。
ん……? 土管……? それにキノコ……、横スクロールアクション……。ウッ、頭が……。