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転職と狼槍卒業 その3

 新たに実装された転職は、私と伊勢さんにとっては少しショックな結果になってしまいました。せめて残りの二名にとっては、いいものであってもらいたいものです。


 しかし二人の選んだブレイダーについても、感触は良くありませんでした。


 ラテールがポーションをガブ飲みしながらスキルをブン回すゲームであることは先述の通りです。


 そんな中、新しく出たブレイダーの武器である二刀には、なんと攻撃スキルが存在しなかったのです。



 ブレイダーは、スキルの代わりに通常攻撃で戦います。しかしこの通常攻撃でSPが減るので、ポーションを飲まなければいけないことに変わりはありません。


 そしてラテールの通常攻撃には弱攻撃と強攻撃があります。ブレイダーは基本的に弱攻撃を連続で使い、最後に強攻撃をすることで『奥義』と呼ばれる技を繰り出します。


 弱→弱→弱→弱→強   で奥義1。

 弱→弱→弱→弱→弱→強 で奥義2といった感じですね。


 スキルツリーでは、この奥義を取得していくことになるわけです。

 奥義は全部で五つ。16個の攻撃スキルを持つウォーロードと比べると少ないです。


 しかしその分、スキル取得のために消費するSPが少なく済みます。だからブレイダーは例えレベルが低くても、ブレイダー本来の強さを発揮することができるのです。


 ちなみにラテールには全く意味の異なる二つのSP(スキルポイント)があって非常にややこしいですが、どちらのことを言っているのかはニュアンスで受け取っていただくしかないです。申し訳ない。



 このようにブレイダーの戦闘は、スキルぶっぱしていた今までとは操作感が大きく異なります。

 さらに二刀というのはとてもリーチの短い武器で、なんとナックルよりも敵に近づく必要があったのです。ナックルには遠距離攻撃できるスキルがありましたが、二刀には一切スキルはありませんでしたからね。


 慣れない操作に近い敵。さらにファイター派生であるが故のHPの少なさ。

 その結果、当初はブレイダーの事故死が非常に多発しました。



 そのため、ブレイダーはプレイヤーからの第一印象はあまりよくなかったのです。


 しかし三日もすれはその評価はすっかり覆りました。

 操作に慣れて死ぬことが少なくなれば、全レベル帯で発揮されるブレイダーの強みが目立って来ました。

 攻撃速度が早く、オーバーキルなどの無駄が少なく、クールタイムがないためコンスタントにダメージを出し続ける。ブレイダーはそういう超高火力職だったのです。


 『二刀流移動術』という、ブレイダー専用の空中ダッシュのようなスキルがあったのも大きな強みでした。



 この頃に数日間様子見していたファイター達は、だいたいブレイダーになりました。


 大器晩成型のウォーロードは、大きく出遅れた形です。

 当時はレベル125で四次スキルⅡを入手したらようやく比較対象になり、レベル140で主なスキルを揃えてやっと追いつくと言われていました。



 先は長いですが、私はひとまずそれを目標にしました。


 この頃、レベル80台のウォーロードは全職中ぶっちぎりの不遇職という扱いでした。進化前のファイターよりも弱いのです。

 ですが私は、そんなウォーロードが決して嫌いではありませんでした。かわいいスキルと評判だった疾風はⅡの方でもちゃんと☆(ゝω・)vキャピってくれるし、弱かった2次スキルの『旋風』もⅡでなかなか強くなりました。ちなみにこの旋風も、疾風と同じくⅠもⅡも☆(ゝω・)vキャピります。



 そうやってレベルを上げ続けて、ついにレベルが100の大台に乗った時。今度は別の問題に直面しました。


 とは言っても、突然湧き上がって来た問題ではありません。ずっと前から、いつかその日が来ることは分かっていました。


 私はレベル20の時からずっと、10レベル上がる度に必ずしていた儀式がありました。


 それは狼槍の強化とエンチャントです。


 私の持っていたウルフスピア+8を、最終形態にしなければならなくなる日が来てしまったのです。


 装備の強化成功率は基本的には100%で、エンチャント成功率は基本的には95%です。失敗すれば、狼槍は壊れてなくなります。


 今までもこの5%に怯えながら通過儀礼をこなしてきましたが、この日の緊張は今までとは比べ物になりませんでした。



 装備には『耐久値』というものがあります。これは強化やエンチャントを施すごとに減っていく値です。当時の耐久の最高値は既に250に引き上げられていましたが、その狼槍を手に入れた頃の最高値はまだ200。私は偶然その最高値の狼槍をドロップしましたので、それを強化してここまで育て上げて来たのです。


 先ほど『基本的に』と言って示した成功率は、この耐久値が100を超えている場合の話です。耐久が100を割れば、その数値分成功率は下がります。


 そして私のウルフスピア+8は度重なる強化とエンチャントの末、耐久の数値が60を割っていました。


 強化成功率60%以下。それに成功しても、エンチャントの成功率はおそらく50%程度になるでしょう。両方クリアして最高の狼槍を作れる確率は、わずか30%です。失敗すれば、狼槍は壊れてなくなります。


 緊張を少しでも和らげるため、そして自らの逃げ道を塞ぐため、私はギルドチャットで今から狼槍を強化することを告げました。


 私の狼槍がいかにボロいかを知っていた面々は、みな一様に驚きました。

 そしてそれぞれやっていた作業を中断し、私の強化を見学に来ました。


 皆に見つめられながら、私は意を決して狼槍を強化しました。

 ドラムロールの音とともに、私のキャラクターが金床を叩きます。


 結果は……成功。軽快なファンファーレが響きます。


『おおー!!』


 ギャラリーが一斉に沸きました。

 皆が口々に私を褒め称える傍らで、誰かがポツリと言いました。



「エンチャントはもういいのでは……?」



 私はそれを無視し、勢いに任せてエンチャントを開始しました。

 私のキャラが再び金床を叩きだし、ドラムロールが鳴り始めます。


『!?』


 ギャラリーがざわつきます。しかしそのチャットログも、私の目には入りません。

 強く目を瞑って、必死に祈っていたからです。


 そして全身を硬直させていた私の耳に、結果を告げる音が飛び込みました。



 それはファンファーレの音でした。



 確率の壁を乗り越え、何とかLv10のエンチャント成功です。


 残った耐久値は、38でした。




 強化は+9が限界です。次の強化は、確率が低いとかではなく『できない』のです。つまり、最高の装備としての狼槍で戦えるのは、残り9レベルです。その先は狼槍を卒業し、別の槍で戦うことになります。


 レベルを上げたくないと思ったのは、後にも先にもこの時だけでした。





 ちなみに。


 強化やエンチャント失敗時にはカラスが鳴きます。

 ドゥルルルル……カァーカァー。ラテール経験者ならば必ず嫌な思い出を持っている効果音です。


 この時、キャラクターは白目を剥いて斜め上を仰ぎ、口を半開きにします。まるで魂が抜けたような表情です。奇しくもモニターの前に座る中の人(プレイヤー)と全く同じ表情ですね。

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