初心者と野良PT その2
では次。
私がラテール黎明期に野良PTで出会った思い出深い人、二人目です。こちらも名前を覚えていませんが、仮に『アキ』さんとしておきましょう。
私がアキさんと出会ったのは深夜でした。23時は回っていたと思います。
当時ガチ勢が超少数派だったラテールでは、22時を回った辺りから人が少なくなり、23時ともなると大きい街くらいにしか人が居なくなっていました。
まぁそもそもプレイヤーの全体数が少なかったというのもありますが……。
とにかく、ラテールはとても健康的なネトゲだったのです。
その日も、戦闘フィールドに出たら他の人とすれ違うことすら稀な状態でした。だというのに私がレベリングしようと訪れた場所には、珍しくも先客がいました。それがアキさんです。
私はダメ元で『もしよければPTを組みませんか?』と尋ねました。
てっきり『すみません、もう寝ようと思っていましたので……』などと断られるかと思いきや、結果はまさかの快諾でした。
そしていつものように、ぽつぽつとおしゃべりをしながら狩りをし始めました。そのまま時間が経って、24時を超えたことをひと段落に、私たちは作業を切り上げてモンスターの出ない安全地帯に座り込みました。
「そろそろお開きな感じですかね?」
そう尋ねる私に、アキさんが返します。
「んー、私は別に何時でも大丈夫です」
どうやらアキさんも私と同じく、明日の予定もなく徹夜バッチコイの人だったようです。
「そうなんですか? 私も何時でもOKです!」
人が少なくなる深夜に、同じようなタイプの人に会った。
たったそれだけのことなのですが、その時既に深夜テンションだった我々はすっかり舞い上がってしまいました。
「おー! いいですね、ジャンジャン狩りましょう!」
「おー!」
しかし、その言葉は果たされませんでした。
結局そのままチャットが盛り上がってしまい、狩りなんて一切しないまま朝を迎えてしまったのです。
私達は数時間もの間一体何を喋っていたのか。もうすっかり記憶にありません。
当時は大変おおらかな時代というか、個人情報をネットに載せる危険性が周知しきれていないような時代でした。
そのためかアキさんは警戒心が薄かったようで、割とオープンに色々話してくれたような気がします。
しかし、あれから12年ほど経ってしまった今、会話の内容はだいぶ忘れてしまいました。
辛うじて覚えているのは、アキさんが広島に住む中学生で、弟が一人いるがあまり仲が良くなくて本当は兄か妹が欲しかったことと、スポーツが苦手というわけではないけど運動会は親が来て恥ずかしいから毎年嫌なこと、それと最近深夜アニメにはまり始めたことくらいです。
あと好きな食べ物はアイスクリームで、ラテールは学校の友達と一緒に始めたそうです。
後日その友達にも会いました。
最後、三人目です。
例によって名前は覚えていないので、仮に『孝太郎』さんとしておきましょう。
孝太郎さんと会ったのは、『黒月城』というフィールドでした。
『黒月城』とは、日本をモチーフにした街であるアオイチに建っているお城で、地下にも広がりのある非常に大きなマップです。その中は複雑に入り組んでおり、初めて挑戦する人は十中八九迷子になる迷路のようなところでした。まさにダンジョンといった趣です。
余談ですが、私は未だにこれが『こくげつじょう』なのか『くろつきじょう』なのか分かりません。『黒月姫』というボスがおそらく『くろつきひめ』でしょうから、正しいのは『くろつきじょう』の方ですかね?
閑話休題。
レベルが上がり、初めて黒月城に挑戦した私も見事に迷子になりました。
『イリス石塔』という死んだ時に復活する場所をうっかり黒月城内部で更新してしまったため、『イリス石塔欠片』を使うこともデスルーラで逃げることもできません。
ポ○モンで言うと、迷子になった後にレポートを書いてしまったみたいな状態です。
どこからでもエリアスという街に行ける『ドリスゲームカプセル』も、この時は持っていませんでした。それまで街から本格的に離れるフィールドがほとんどなかったため、まだ持ち歩く習慣がなかったのです。
しかし幸い、辺りには数人のプレイヤーがいました。それぞれ離れて狩りを行っています。私はその内の一人に、恥を忍んで迷子になった旨を説明して道を尋ねました。
それが孝太郎さんです。
私の発言を受けると、孝太郎さんは狩りを切り上げて私の方に来ました。そして私の目の前でサッとしゃがみます。
しゃがみはラテールでは一般的なお辞儀の表現です。私もぺこぺこと数回しゃがんでお辞儀を返しました。
しかし、私はここで違和感に気が付きます。
孝太郎さんがしゃがみっぱなしなのです。そして長時間のしゃがみは、ラテールでは一般的な絶望の表現です。
まさか……。そう思う私に向け、顔を上げた孝太郎さんが言います。
「すみません、俺も迷子なんです……」
私もしゃがみました。
すると頭を抱えてうずくまる我々の前に、近くで狩りをしていたプレイヤーが来てピョンピョンと飛び跳ねました。
そしてどこかへ走っていき、少し離れた場所で振り返ってまたピョンピョンと飛び跳ねます。
着いてこいということだろうか。それを聞こうとしますが、文字を打つ前に走り去ってしまいます。置いていかれてはまずいと、孝太郎さんと二人でその人を追いかけ始めます。
先ほどの私と孝太郎さんの会話は、その二人にしか見えない形式のチャットで行われています。そのため、我々が迷子であることをその人は知らないはずでした。頭を抱える様子から、全てを察したのでしょうか。
やがて見覚えのある場所に出ました。マップの端にあるポータルの手前で振り返ったその人は、無言で一度お辞儀をしました。そして再び走り出し、元の場所へと引き返して行きます。
お礼を言う時間もありません。
走り去る彼の姿を見送る私も孝太郎さんも、残像が残るほど激しいお辞儀を繰り返すしかありませんでした。




