大きなリボン(赤)と掘り祭り
当時ゲームの中で最高値で取引されていたアイテムは、高性能な武器や防具などではなく、『大きなリボン(赤)』というファッションアイテムでした。
その値段は、なんとウルフスピア40本分。
このアイテムのすごいところは、何かゲームシステム的な裏があったわけでもなく、ただ単に『かわいいから』という理由でここまでの高値がついたことです。
大きなリボン(赤)はその名の通り、頭の後ろにつけるタイプの大きな赤いリボンです。猫型ロボットの妹ちゃんがつけてるようなやつですね。
ファッションアイテムには『女性専用』・『男性専用』・『男女共用』の三種類があります。スカートやドレスなんかは全て女性専用になっていましたが、男性専用ファッションは当時それほど多くはありませんでした。そのため男性キャラはほとんど男女共用ファッションの中からオシャレ着を探していました。
そんな中、大きなリボン(赤)は男女共用ファッションだったのです。
つまり男の子でもリボンを付けることができちゃうのです。
個人的にはこれが値段のインフレに拍車をかけたと思っています。そのかわいさからただでさえ需要が高いのに、さらに男性プレイヤーまで参加して値を吊り上げるわけですから。
特に男性キャラからしたら、男の娘になれる唯一にして絶対のアイテムです。そのため女装ガチ勢にはカルト的人気を博していました。ここらへんがトキメキファンタジーの本領発揮ですね。
こういったオシャレガチ勢は意外と多く、フリーマーケットには常に赤リボン狙いのプレイヤーが虎視眈々と目を光らせ、誤って一桁少ない値段で出品してしまったリボンを探していました。
そして我々のギルドにも、筋金入りのオシャレガチ勢がいました。風マジシャンの『Mami』さん、女性です。
マジシャンの武器である杖のユニーク武器に、『九尾キューティスタッフ』というものがあります。これが非常にかわいらしい武器で、街用のファッションとして無強化の品を一本持っておくというのがオシャレマジシャン達の嗜みでした。
しかし彼女はそれだけでは物足りないと、九尾キューティスタッフにエンチャントを施し、強化していくという茨の道を歩き始めました。どこか親近感が湧く選択です。
しかし彼女のレベルはそこまで高くなく、ユニーク装備をフリーマーケットで買うなどできませんでした。そのため、彼女はドロップ品を狙うことにしました。
この杖はかわいいモンスターと評判の『九尾』が落とすかわいいユニーク装備ですが、ドロップ率は全くかわいくありません。しかし彼女は長いこと九尾を狩りまくり、見事に自分のレベル帯の九尾杖を作り上げました。
そんな彼女が次に目をつけたのが、大きなリボン(赤)だったのです。
当然、彼女はリボンを買えるような大金など持ってはいません。九尾の時と同様に、何日かけてでも自力ドロップさせると豪語します。それも全てかわいさを追求するがゆえです。なんというファッションモンスターでしょうか。
リボンの入手には『発掘』というスキルを使います。クエストで手に入る、スキルポイントを消費しなくても覚えられる一般的なスキルです。
これはシャベルで地面を掘り返すスキルなのですが、この時5割ほどの確率でアイテムがドロップします。そこで極々低確率でファッションアイテムが出土することがあるのです。しかし地面から出てくるファッションアイテムは全部で24種類。その中の一つだけを狙うのですから、非常に闇が深いです。
そして彼女は宣言どおり、何日もかけて地面を掘り返しました。
本当に地面を掘る以外何もしないプレイが続きました。
しかしいつまで経っても、大きなリボン(赤)は出土しませんでした。
我々すろーらいふ!一同はそんなMamiさんのため、軽い腰をあげました。
メンバー全員でMamiさんのいるマップに行き、地面を掘り返しまくります。
組める人は彼女とPTを組み、ドロップアイテムは全て彼女が拾えるような設定にします。
すると全く関係ない通りすがりの人まで掘り始め、なぜか知らないうちに掘り師の数がどんどん増えていきました。
そしてそのまま掘り祭を続けること2・3時間。遂にドロップしたのです。
大きなリボン(黄)が。
惜しい!! そっちじゃない!!
大きなリボンは赤・黄・オレンジの三種類ありますが、人気も値段も赤がぶっちぎりです。当然ファッションモンスターであるMamiさんも、黄色やオレンジ色には興味がありませんでした。
しかしこれが一つの区切りになってしまい、Mamiさんも「これ以上はさすがに悪いので……」と遠慮し始めたため、第一回掘り祭はこれでお開きになりました。
そして次の日ログインして驚きました。同じギルドに入っているとメンバーが今どこにいるのか分かるのですが、いつもMamiさんがリボン掘りをしているマップ、通称『Mamiの庭』に彼女がいません。
もしや昨日あれだけ皆で頑張っても出なかったことで、心が折れてしまったのでは。そう思って慌てて話しかけますが、「もういらなくなった」とのこと。
はて、と思って街にいる彼女に会いに行き、その理由がストンと胸に落ちました。
彼女の頭には、かわいらしい黄色のリボンがついていたのです。




