時の波濤
それは核心である。隠された星として。青空ほどに明らかでないが、雲の陰の谷間をゆくように音もなく受け入れられているもの。
果たしてわたしたちは汎ゆる外界情報の受容器として優秀だが、それと同じ程に表現する器でありえるか。隠さねばならない。本当の己を。野蛮である。凶暴である。婬祀を打ち壊せず、明日を見ようとしない。話してはいけない事実が少しずつ蝕んでいるのだ。
しかし隠しきれぬ月のように、それは現れている。手に取った上着の模様。鏡に映る憂い。足音の不調和。一人になった沈黙。人前でさえ全ては隠せない。見えず聞こえずとも薫る深い香り。透明に立ち昇る香煙のように、あなたが薫るだろう。最も奥底から覗いている真の姿が。
裏切り続けているのだ。青空が夜を隠し、月が星を隠すように。そして暗闇でしか安らげぬ眠りに夢は現れる。その中に予知が紛れている。本当の未来は浜辺に広がる無数の細石の中の玉としてあり、導かれる故に発見される。つまりは肉体の檻から放たれるために。
知覚限界の零コンマの瞬間を認知機能は超えられない。感じたとき既に世界は先にいる。この壁を超えるものは予測ではなく予知。それは隠されたところより発する光。即時立存するための跳躍を。見る前に飛べという意味の本来であり、確定と未確定のボーダーに立っているという自覚を。
わたしたちの前には未だ確定せぬ、しかし全てを孕む無がある。時の波濤はいつも遅れてわたしたちを濡らす。わたしたちという姿のない言葉たちは決して裸ではない。複雑な認識機構が世界との間に干渉膜として広がっている。