或る夜の一生
テレビの心霊スポット番組を見て、後悔した。怖がりなのにどうして最後まで見てしまったのだろう。恐怖感、期待感、高揚感……どれをとっても私の感情は何も表現できない。
早々にシャワーを済ませ、床へと着く。時刻は午後11時58分。子供ではないが、早く寝ないと夜が襲ってくるように感じる。心がまだ縮まっている、恐怖が映像を通じて私をいつもビビらせる。
何時だろうか……心臓がキュンとなり、少し不安になった途端、急に身体が動かなくなった。手、足、口、指……心臓までもが止まるかと思うくらい、身体の自由が利かない。だが自分はある事に気づく。例のごとく目だけが開けれるのだ。
見たくないものを自分の目で見て、判断しようとするのが人間の性である。
私は床に起立した状態でゆっくりと目を開けた。それは恐ろしいほどスムーズに開けることが出来た。目の前には……髪の長い能面の顔のような女の人が立っていた。
「……返して下さい」か細い声だがしっかりと部屋へと届いた。
「私の……返して下さい」
意味が分からない、だが困っているような感じはした。敵意のない、助けを求めるように感じるが、顔はよく見えない。
緊張していたものの少し安心をした途端、女は急に襲いかかり、首を絞めてきた。
「私の……私の人生を返して下さい。今あなたが眠っている場所が私の生涯を過ごした場所なのです。あなたがそこにいる権限はありません」
そう言い終わると、女は私の身体を首から起こそうとした。もがこうにも金縛りで動きがとれない。苦しさが増すと思った時、身体から力が抜けるような感じがした。それは身体が水に浸かって浮いているようなものであり、身体が軽くなっていく。いつしか私は宙から自分を見下ろしていた。
「幽体離脱……」考える間もなく、私の視界は消えた。匂いも音さえもしなくなった。
気付いた頃、私は先ほどのように床に着いていた。
「夢か……」
冷や汗を拭い、携帯電話の時計を見る。時刻は午前2時58分。まだ起きるには充分に早い。少し深呼吸し、再度目を閉じると、足先から冷たい空気が流れてくる。それは確実に自分の方向へとやってきて、逃げようとした瞬間には足が動かなくなっていた。
「奴が来る……」