第2話
「明さん、詳しく教えていただけませんか?」
やや早口に星彦が問いかける。
「私たち天文学部はさ、2年生3人、1年生2人の計5人で活動してるじゃん?」
そうだね、と瑠奈は相槌を打つ。
「部員が少なすぎるって」
そんな!ときららは声を荒らげた。
「それに、目立った成績も残してないし…」
明のその言葉に、天文学部の大会なんてありませんよ!成績なんて残せっこないじゃないですか!ときららは反抗した。
「天文学部のためだけに、下校時間を遅くしてるのも困るんだってさ。来週の職員会議で廃部決まるって」
星彦は、胸元のポケットから生徒手帳を取り出す。
「校則の中には、部の統廃合は生徒総会によって承認され決められるとありますが」
しかし明は首を振る。
「『今回は“特例”だからしょうがない』って、何を言っても“特例”、“特例”って1本通し」
…そんな、ときららは俯く。
全員が沈黙する中、ひとり顔を上げた瑠奈。みんなが注目すると、ならさ…、と続けた。
「目立った行動を今からしてみようよ!」
タイムリミットまで、あと1週間あるじゃない!と明るく言う瑠奈。
明も顔を上げ、そうだね…!と同意する。
「そうと決まれば、頑張りましょうよ!」
きららが言うと、おー!と部員は声を合わせた。
しかしその声を合わせなかった部員がひとり。
流星はおおきなため息をついた。
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「なんか良さそうな活動の意見ある人!」
明がそう聞くと、はーい!と元気に手を上げるきらら。指をさされ指名されると、星座ニュース速報!と言った。
「放課後になってなら30分ごとに見える星座を書いて、掲示板に掲示するんです!」
大変そうだけどいいかも!と瑠奈は言う。
「じゃあさじゃあさ!職員室前の掲示板にでかでかと掲示しよう!でかでかとね!!」
時間的に明日からになりそうですね、と星彦は言うと、うん!と明は頷いた。
めんどくさ…と流星は零す。
「もー流星!そんなこと言わないでよ!」
きららがそう注意すると、気だるそうに、はいはい、と答えた。
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「なんでこういう日に限って雨降るのおおおお!!!!」
きららが窓を眺めながら叫ぶ。
外は生憎の大雨。挙げ句の果てには、雷までなっていた。
残念ですが今日は星が見えそうにないですね…と星彦が呟く。
「日頃の行いが悪いんじゃねーの?」
「なんだとぉ!」
流星ときららは睨み合う。
「まぁまぁ、そういう時もあるって。切り替えて頑張ろうよ」
瑠奈はそういうと、きららは、瑠奈先輩ぃぃぃぃ、と抱き着いた。
「あのさ、星座絵本とかどう?星座ができたお話の絵本を作るの!」
そう案をだしたのは明。
星彦は、賛成です!と答えた。
「星彦君、そういうお話詳しいもんね」
瑠奈がそういうと、フ…そうでもありませんよ、と眼鏡を光らせる星彦。
「誰が絵を書くんですか?私、絵を書くの苦手ですよ?」
きららが申し訳なさそうに言うと、明は胸を張りながら答える。
「大丈夫!私が書くから!」
ふふふーん、と鼻歌を歌いながら、どこからともなく取り出したスケッチブックに絵を書いていく明。
でーきたっ!とペンを置いて絵を見せる。
どう?と聞くと、星彦は苦笑いを浮かべながら、えっと…と答えた。
「幼稚園生並み」
流星が冷たくそう答えると、ありがとう!と返ってきた。
「褒めてないけど。それほど下手くそってことですよ」
え?と首を傾げる明。
数秒たち、やっと意味が理解出来たのか、ぬぁにぃ?!と流星に詰め寄った。
こればっかりは流星が悪いとは一概に言えないかも…と瑠奈までも苦笑いを浮かべる。
慌てたきららは、可愛らしい絵ってことですよ!と明にフォローした。
「え?そうなのー?じゃあ、絵本頑張っちゃおうかな!!」
「いやいやいやいや!部長、絵本はやめましょ?ね?」
えぇ?!と明が残念そうに抵抗する。きららが困っていると、流星は口を開いた。
「こんな絵、虫唾が走るっての」
────グサッ
「いくら明部長の絵がド下手くそだったとしても、それは言い過ぎだよ!」
────グサグサッ
「いやだってこの絵見てみろよ。ひどすぎだろ」
────グサグサグサッ
「確かにこの絵はひどいけど!それでも先輩に面と向かっていうなんて失礼だよ!」
────ぐ…は…っ
明は精神的ダメージによりその場に倒れ込む。
瑠奈は真剣な顔つきで明かりに駆け寄った。
「明!しっかりして!明!!」
「瑠奈…今まで、ありがと、う」
明の手が床へ投げ出される。
星彦は明のそばでひざまずき、残念ですが…と言った。
流星が、何この茶番、と呟いたとき、何事もなく明は立ち上がり、
「じゃあ紙芝居にしよう」
と叫ぶ。
「は?人の話聞いてた?ねぇ。絵本がダメで紙芝居がいいわけないでしょ?ねぇ!」
流星もそう叫んだ。
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「『チキチキ✩星座暗記大会』なんてのはどうでしょう!」
「「却下」」
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廃部の知らせを聞いてからはや3日。
これといった活動は全然出来てないでいた。
全員が落ち込んで俯いてる中、流星はただ1人漫画を読み続けていた。
「ねぇ流星」
「…」
きららが呼びかけるも、流星は何も反応はしない。
「流星!!」
流星に苛立ちを覚え、きららは強く呼ぶ。すると流星は、…なんだよ、と返した。
「廃部の危機だってのに、いつも漫画ばっかり!流星はここがどうなってもいいの!?」
きららは流星に詰め寄る。
今回は瑠奈も間に入ることはしなかった。
どーでもいい、と呟く流星。それに対しきららは、そんなことないでしょ!と強く反発した。
「授業が終わったら真っ先に部室に来るじゃん!好きなんでしょ?ここが!」
「…それは」
流星は言葉が詰まる。
まるで何かを隠してるように。
「…早く、漫画を読みたいだけ。教室で読んでると先生にバレるかもしれないし」
流星はそう言い、俯く。
「そんな態度…先輩達に失礼だと思わないわけ?入部した時からそう!なんか自分だけ冷めたような態度とってさ!流星も星が好きだからここにいるんでしょ!」
きららは声を荒らげると、流星は意を決したように立ち上がった。
「…星なんて、星なんて嫌いだ!」
え…?予想のしていない答えにきららは立ちすくむ。
「いちいちうるせぇんだよ!俺のなにがわかるんだよ!!」
流星はきららの元へ歩み寄ると、きららも流星へと歩み寄った。
「はぁ?!流星のことなんか全然わかんないよ!」
「なら関わるなよ!俺なんか気にす────」
「だって友達だもん!!」
「…っ!」
“友達”
流星は、明らかにそのワードにたじろいでいるようだった。
さらにきららは続ける。
「…部員、5人しかいないんだよ?それに、1年生は私たち2人だけ。大事な友達に決まってんじゃん…」
きららはそう俯くと、流星は、友達か…、と呟いた。
流星は、中学2年生の時を思い浮かべる。
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「そろそろ中二の夏になるし、どこの高校に行くか、先生と面談をして志望校を決めていきましょうね。それではさようなら」
「「さようなら」」
先生が教室から出ていき、クラスメートは進学先の高校についてわいわいと話し合っている。
「なぁ流星、お前はどこの高校にするんだよ」
「昴星高校かな」
後ろの席の友達が話しかけてきた。流星は迷いもなく答える。すると、周りにいた女子が、えー!と声を上げた。
「流星君は頭いいから、もっといいところいけるでしょ」
「そうだよ!昴星高校なんてもったいないよ〜」
「いや、俺は昴星高校がいい」
流星はそう答える。どうして?と女子が流星に聞くと、それは別になんでもいいだろっ!と答えた。
「友達なんだから、気になるだろ〜」
「そうだよ!教えてよー!友達でしょ?」
「…天文学部」
「ん?」
「天文学部があるから…」
“友達”という言葉に押され、昴星高校へ進学する理由を明かす流星。しかし────
「なにそれ〜!流星ってば星が好きなの〜?」
「ははは!女みてぇ!」
「流星くんのイメージに合わないね〜」
「夜に星とか眺てんの〜?」
「まじかよ!きめぇ!」
「理想の女の子は織姫とか?」
「夢見るオトメじゃん!」
「なぁなぁ、お前らも聞いてくれよ!流星、星が好きで好きでしょうがないんだってさ!」
「あははは!」
「なんかもう唖然だわ〜」
「まるで女みたい!」
「オカマ!」
「オカマなんかと一緒にいたくねぇ!」
「気持ち悪い」
「俺までオカマって思われたらたまったもんじゃねぇし」
「あはははは!」
「あはははは!」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ...........................................................................................................
「やめろっ!やめろ…っ!!」
流星はその場に倒れ込んだ。
どうしたの?と慌てて駆け寄る瑠奈。しかし流星はその手をはねのけた。
「…友達なんていらない。友達に裏切られるぐらいなら、はじめからいらない」
どうしてそんなこというの!と、きららは叫ぶ。
「別になんだっていいだろ。俺はただ…」
「流星さん、みんな心配してるんですよ」
星彦は流星の元へ歩み寄る。それでも流星はみんなから離れ、背中を向けた。
────心配?
「は、いいっすよ別に。俺みたいなやつに心配かけるなんて。どうせその心配も、表面上のことなんでしょうけどね。はじめから、俺のことなんてどうでもいいんでしょうから」
流星さん…、と星彦はかけていい言葉に悩む。
その時、明は星彦の隣を通り────
ペチン
流星の頬を叩いた。
痛っ…と声を漏らす流星。
「流星!!」
…なんですか、と頬に手を当てながら睨みつける流星。
「バカ!」
「…は?」
「バカバカ!」
「…」
「バカバカバカ!」
明は地団駄を踏みながら言い続ける。明…、と瑠奈は声をかけた。
「そんなこと言わないでよ!流星のバカ!」
「先輩の方がバカじゃないですか」
追試にも落ちて、と続ける流星。
しかし明は、そういうバカじゃない!と反論した。
「別のバカ!」
「…意味わかんないんですけど」
「人間としてバカ!」
「…は?」
頬の痛みも引き、明を見つめる流星。どちらも一歩も引かない様子が、きららからも見て取れた。
「本当にそんなこと思ってたの?私たちが流星のことをどうでもいいとか思ってたの!?」
だって俺みたいなやつなんか…と呟くと、俺みたいなやつとか言わないでよ!と怒鳴られた。
流星君、と瑠奈は声をかけた。
「星が嫌いなんて、嘘だよね?」
「…嘘なんかじゃないですよ」
「なら、なんで天文学部にいるの?」
それは…と言葉が息詰まる。
本当は星が大好きなんだよね、瑠奈はそう続けた。流星は何も言えず、ただ俯く。
「私、知ってるよ」
…え、と流星は顔を上げた。
────もしかして。
「流星が部室に早く来る、本当の理由」
「…!」




