水族館での出会い。
暦の上で秋。髪を揺らした風は生暖かかった。
今朝、SNSであーくんから駅前に11時集合とかかれたメッセージが送られてきた。なぜか時間があーくんによって決められていた。
「伊吹くーん!」
数十メートルはあるだろうところから俺の名前を呼びながら手を大きく振っている。普段から子供にはこうやられているが、あーくんはいい大人だ。
「はぁ……」
ため息を小さくつき、小走りであーくんのほうに向かった。
「伊吹くん、おはよう」
そうやってにっこり笑ったあーくんは男の俺から見てもかわいかった。が今は違う。
「あーくん、ここ駅前! 大声で呼ばないで。おはよう」
「第一声それー? まぁ、ごめん」
そんな半笑いで言われても反省してるように見えないんですが?
「あ、栞さんは?」
「いるよ、いる。栞さーん!」
あーくんの後に隠れていたのだろうか。ひょこっと小動物みたいに出てきた。
「はじめまして。あーくんから事情は聞いてます。僕は伊吹といいます、よろしくお願いします」
栞さんは頭を下げてスマートフォンを取り出し、文字を打って俺に見せてきた。
【はじめまして。水木栞です、暁くんにはお世話になってます。迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします】
「水木さんね、今日は楽しみましょう! じゃあ、あーくん行くか」
「はいはーい! 栞さんも行こう行こう!」
あーくんだけなんか異常にテンション高いのは気のせいかな? うん。水木さんもとい、栞さんは笑い、あーくんの横に立った。
「見てみて、栞さん! この魚きれいな色してますね」
栞さんのほうを見るとあーくんにスマートフォンを見せていた。
「伊吹くん! イルカショー見よう!」
「あー、はいはい。もう少しボリューム下げようか? しお……水木さんもそう思うよね?」
初対面同様なのに、いきなり名前呼びはやばいよ、俺。心の中では栞さんだが! 栞さんは一瞬戸惑い、文字を打った。
【伊吹さん、栞でも大丈夫ですよ。年下ですし。暁くんは、元気があるということでポジティブに考えましょう!】
「あ、そっか。じゃあ栞さんで。いやでも、さすがにお客さんに迷惑じゃ……」
「伊吹くん、周りを見なさい。誰も居ないでしょ!」
あーくんが少し頬を膨らまし抗議してきた。が、来たっぽいぞ?
「いや、たぶん来た。お客さん」
指をさすとあーくんは驚き、指先の少年は俺? という感じで戸惑っていた。
「あ、えーと。なんか邪魔しました?」
「いや。ごめんなさい、いきなり指差して。人が来たよって知らせようと」
「あ、そうですか。あの突然なんですけど、お名前伺ってもよろしいでしょうか?」
少年がこちらに歩いてきて尋ねてきた。俺か? あーくんか? いや、栞さん? 最初に反応したのはあーくんだった。
「僕は暁 翼! 23歳で、郵便局に勤めてます」
あーくんが元気に自己紹介をすると少年ははぁ。といった。
「あの、あなたじゃないです。もう一人の男性」
あーくん、ドンマイ。って、俺か……。
「伊吹。 23歳で、保育士やってる。どこかであった?」
「やっぱり! 伊吹先生。あの、前テレビで見ました。子供にすごく愛されていましたね! そちらの方は先生の彼女さんですか?」
俺の彼女? あーくんはハブなのか。
「あ、ありがとう。この子は水木栞さん、どっちの彼女でもありません」
「へぇー、あ、俺は南波っていいます。高校3年で実家、花屋やってます」
あ、だからほのかに甘い匂いがしたのか。
「だから甘い匂いがしたんだね! もしよかったら一緒に回ろうよ、南波くん!」
シャツが少しひっぱれ、見てみると栞さんが文字を見せてきた。
【この方には私が喋れないことを言わないでください。暁くんたちにも迷惑になってしまうと思うので】
「あ、一緒に回るのは?」
大丈夫ですというように栞さんは首を縦に振った。
「あーくん」
俺は目で伝えた。そうするとあーくんは了解!とまた元気に言った。
「よし、じゃあ栞さん、伊吹くん、そして南波くんイルカショーにれっつごー!」
こいつの元気はどこにいっても一緒なんだな。栞さんが居て余計上がってる感じがする。もしかしてあーくん……。まぁいっか。本人は気づいてないみたいだし。
「ああ」
「はい、お願いします」