白い部屋
きみは、いつも蹲っていたね。壁に背を付け、ぴったりと。頭は膝に付け、ぴったりと。ぴくりとも動かなかった。
「莱」
「采」
私が呼んだら、きみは顔を上げて私の名を呼び返したね。ようやくの身動ぎだ。
「……どうしたの?」
触れもせず、一定の距離を保って私は話す。話は他愛も無い、莱の状態。傍から見れば私と莱は[何]に見えるだろう? 真っ白な部屋の中。あまり潔癖過ぎるそこは、まるで独房のようで。そして精神病棟の一室さえ連想させるような。
白い服を纏った私と莱は医者と患者と言ったところか。敢えてその役割を振り当てるなら、この場合は莱が『患者』なのだろうか。
「別に……」
愛想が良い莱は、時折こうして塞ぎがちになる。何の反動だか。 常に無表情の私は、常の無表情でしか有り得ないんだけれど。
「莱」
「なぁに……?」
「もう寝なさい。ゆっくりね」
可哀相、とは思わない。そんな感傷的な感覚が沸き起こらない程度には、見慣れてしまった。莱を可愛がってるつもりは無いから、そう周りに見えなくて結構だし、そんなことはどうでも良い。
そんなことが問題なのではない。問題なのは。
「莱、寝てしまえば忘れるわ。今だけね」
二人っきりのこの無菌室のような中で、膝を抱え隅にいるその状況が問題なのだ。
「気が、滅入るわ」
私の。莱は頷いた。
「……わかったよ。もう寝るから」
起こす気などさらさら無い。忘れてしまえば良い。夢の中は安全だもの。嫌なことも考えずに済む。難点を言うなら、夢がランダムだってことぐらい。
でもこんな角っこで沈むよりは断然マシだろう。私は微笑う。
「お休みなさい」
良い夢を。
【Fin.】