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非才陰陽師

作者: 九条 隼


今日も人通りの多い街中を、彼を探しながら歩く。

忙しそうに走るサラリーマン。きゃいきゃいと楽しそうに笑い合う女子大生。ビニール袋を二つ持って歩くおばさん。朗らかに笑いながら散歩をするおじいさん。けたたましく叫びながら罵倒しあうカップル。

みんなみんな、ばらばらなことに夢中だ。でも私もきっと、その中の一人。



今日は見つけられるかな。

会えたら何を話そうかな。

ちゃんと返事を返してもらえるかな。

今日はね、とっておきのお話があるの。


……なんて、ありえもしない妄想を繰り広げて彼の背中をさがしてみる。これで何回目? ……ううん、これで、何年目なの?

背丈は小さめ。髪の毛はキンキンのツンツン。身軽に人の間を縫って歩くの。見た目は不良。でも、本当はとても素敵な人なんだよ。男の子なのにね、花が咲いたみたいに笑うの。笑いかけられたことはないけれどね。

ねえ、今日こそは会いたいな。

だって、最近ずっと家に帰ってないじゃない。……おじいちゃんに聞いたんだからね。

そりゃあ、居づらいかもしれないけれど。それでも傍にいて欲しいって思う私は酷い奴なのかな。


……あれ。


「ゆいくん……?」

横切った学生の姿が、やけに目に焼きついた。慌てて振り向けば、真っ黒い髪の男の子と腰に彼の腕をまわされて笑っている女の子がいた。

背丈も、歩き方も、髪型も、そっくりだった。でも、その子は誰……? なんで、その子とおんなじ髪色にしているの?

目が離せなかった。震える女の子を守るみたいに歩く彼から。

顔をあげた女の子に合わせて、横を向いた彼の顔が見える。

私の、大好きな可愛い笑顔だ。……ううん、もっと、もっと素敵な笑顔。楽しそうで幸せそうな顔。

そんな顔、できたのね。知らなかった。私、全然知らなかったよ。

ああ、そうだったんだね。君の隣に私は必要なかったんだ。

それでも、私、諦められないの。でも、なんだか苦しい。

君じゃなきゃダメなのに。私、泣いてるの……?

私のほうが、君のこと知ってるのに。やだな、まるで諦めてるみたいだ。


ねえ、やっぱり、私なんかじゃ君の中には入れないの? ……なんてね。



――行かないで、なんて。

言えるわけないよね。そんな調子のいい言葉。






私が自分の家の可笑しさに気付いたのは小学校に入ってからだった。

家は純和風。敷地は広くて、石庭もある。古風な、浮いた家。友達はみんな、おうちが変わってるねって言った。

でも可笑しいのは、家なんかじゃなくって住人だった。


陰陽師、って。本とか漫画とかで一時期はやってたよね。

うちは、そういう家系らしいの。私は分家の娘だけどね。でも私は子どもの中で一番の才能があったのよ。見鬼、っていうのがとくに突飛してて、本家の人たちからは可愛がられてた。修行修行って言われて、見たくないものを無理矢理見せられて。……でも、お仕事の終わりはお疲れさまってみんな優しく笑ってくれるの。今日も頑張ったねって。飴玉をもらったり、抱きしめて頭を撫でられたり。

ほんの少し嫌で、幸せな毎日。

でも、そんな私とは反対に、本家の人たちから嫌われてたのが、彼だった。

赤坂ユイ。本家の、一人息子。小柄で女の子よりもずっと可愛い彼。

本家の子どもだけど才能がなくて、でも血気盛んなところだけは受け継いでた。学校ではしょっちゅう喧嘩したりして、大人たちはみんな彼を嫌っていた。

今だからわかるような、酷い罵倒。子ども心にもトラウマを植え付けられるような仕打ち。私の前ではあんなににこにこしていた大好きな人たちが、彼の前ではニュースで見る犯罪者よりも怖い顔をして彼を傷つける。

それが怖くて、私はいつも目をそむけていた。


そんな私が初めて彼と話したいとおもったのは、中学校に入ってから。

当主であるおじいちゃんは、彼を唯一嫌っていない人だった。しわくちゃの顔で彼の頭をそっと撫でる。彼はそれを振り払って、おじいちゃんを睨みつける。そんな姿を見て、彼に興味を持つようになった。ああ、そんな顔もできたんだ……なんて。

みんなが言うから彼は「くず」っていうものらしい、って。そんな馬鹿げた認識がかわった。


おじいちゃんに手伝ってもらって、彼と話すようになった。

はじめは無表情で私なんて眼中になかった彼も、次第に返事をしてくれるようになった。


ねえ、ユイくんは「くず」なんかじゃなよって。

私みたいに触れないけど、見えるんだよって。

祓うのは苦手だけど、護符とかを作るのはみんなよりも上手なんだよって。

ユイくんは、本当はすごく頭が良いんだよって。

本当は、すっごく頑張り屋さんなんだよって。

笑うと、すごくかわいいんだよって。


ちゃんと、みんなに言わなきゃいけなかったんだ、私。

目の前の幸せだけを見てるんじゃなくて、ちゃんと現実と向き合わなくちゃいけなかったの。



傷だらけの小さな体を見て見ぬふりして、一人でバカみたいに笑っていたから罰があたったの。


私、バカだよ。

それに気付いたのは、彼が家からいなくなってからなのよ。



彼女さえいれば、もういいの。私なんて、気付きもしないの。

もう、振り向いてすらもらえないんだよ。


……ねえ、そうでしょ?




曲がり角に二人寄り添って消えていった背中を、私は見ることしかできない。

勝手に舞い上がって、落ち込んで、ほんとにバカね。



それでもね。

罪悪感交じりの恋心を、今日も私は大切に育てていくのよ。

馬鹿につける薬はないって、そういうことなのかしら。


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